素敵な義両親に導いてくださってありがとうございます
静かな空間(但し、廊下は騒がしい)。
アレン様と二人っきり。抱き締められている状態……。
しかも怒られて落ち込んでいる子犬のようにアレン様は黙ったままだ。
いい加減この状況から脱出したい私は、聞いてみることにした。
「あの……アレン様。私で良かったら話を聞くことは出来ますが……ですからその……心臓に悪いといいますか……。流石にそろそろ」
口篭りながらも抱き締めている腕を離してくれないかを遠回しで言った。
今回が初めてじゃないけど、何回経験しても慣れないものは慣れない。
アレン様はゆっくりと抱き締めていた腕の力を緩める。
身動きが取れなかった身体が自由になったので、乱れた侍女服を整えてからアレン様の隣に座る。
「……ソフィア嬢は、貴族の養子になって後悔はしてないかい?」
優しく微笑むアレン様は通常通りだ。なのに、悲しみが含まれているだなんてどうして感じるんだろう。
私の知らない間に何かあったのかも。
「後悔、してません。ただそれは……私が運が良かったからなのかも知れません。養子として迎え入れてくれた貴族は……とても暖かく慈愛に満ちていましたので。貴族によっては血の繋がりが無い者を受け入れない人もいるんでしょうね。それで……自然と軽蔑して奴隷のようにしてしまう」
「……そうだろうね。王族の命令だから、仕方なく従っている人が多いだろう」
それはそう。
魔術士の子供を守るために作られた掟。でも、それを良くは思わない人達は必ずいる。
その問題を未だに解決してないのは事実。
ただ、王族が間違っているとは思えない。一人一人、考え方が違うからこその現状なんだろうな。
賛成する人たちもいれば否定する人もいる。
掟だからという理由だけで従えば、感情が抑えられなくなって暴走する人たちがいるだろう。
「養子として引き取る貴族は、子供を望んでるのでしょうか。その……」
「同意書を書かせてる。その前に子供を欲している貴族対象だよ。純粋に我が子として育てる人もいれば、洗脳して奴隷としたり、ペット扱いする貴族もいる。……娯楽の為に、拷問したりする人もいる」
「何とか……ならないのでしょうか」
「色々とやってはいるんだけど、周囲にバレないように隠れてやってるから、見つけ次第って所かな」
同じ人間なのに、扱いがこうも違いすぎると自分の運命を呪うわ。
私を引き取ってくれたデメトリアス公爵夫妻は実の子のように育ててくれた。
本当に私は恵まれているのだと思う。
「私、王族は間違えてはないと思います。だって……私はこんなにも幸せなんです。幸せだから、優しく出来るし、心に寄り添おうと努力も出来ます」
人は環境次第で変わるって聞いた事あるけど、確かにその通りかもしれない。
前世では、笑うことすら許されなかったというのに今ではこんなにも笑うことが出来るんだもの。自分の気持ちを言葉にして相手に伝えようと一歩の勇気が持てるようになった。
「私を……素敵な義両親に導いてくださってありがとうございます」
前世でも今世でも、私は最愛な人を死なせたという罪を背負っている。
そして、ずっとその現実から逃げまくっていたけど……、
今世ではもっと長生きしたいという欲が出てしまったから。過去の罪を受け入れて前に進みたい。
「うん。こちらこそ、ありがとう」
アレン様は私を一瞬だけ驚いた顔で見ていたが、すぐに元に戻り、苦笑した。
何となく、何かを吹っ切れたような顔にも見えたのは気のせいだろうか?
「あっ、そういえばなんで私はここで寝てたのでしょうか」
「魔力の使い過ぎて倒れたんだよ。大丈夫。アイリス嬢は無事だし、ルイス子爵とその関係者達は捕まえたよ」
「そ、そうなんですね。良かった……あれ、でもなんでアレン様が私に膝枕を……????」
首を傾げた私にアレン様はニコッと笑った。考えながらも口を開いた。
「んー……、おしおき?」
「おしおきって……」
アレン様は私の肩に寄りかかった。いきなりのことに戸惑っていると、「心配した。お願いだから、無茶しないで」と消え入りそうな声で言われてしまった。
顔が見えないから、どんな表情をしているのか分からないから余計に動揺して、頷くことしか出来なかった。
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