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本当にこれで良いのかどうか

 魔法石を破壊しなかったのは、理由がある。


 今回の目的は、私の闇属性が安全であるかどうか。コントロール出来てるかどうかを示すこと。


 ルイス子爵の悪事の証拠を掴むこと。


 アイリスを救出すること。


 証拠は資料だけでも良かったのだが、証拠不十分なのだとシーアさんに咎められた。


 その場で魔法石を破壊したらルイス子爵は捕まらない可能性が高いとの事。


 だから、魔法石を破壊せずに渡してきて、今現在は会場内にいる。


 白を基調とした神聖なチャペルは赤く縁取られた白いバージンロード、主祭壇の横にはパイプオルガンが置かれ、新たな夫婦の門出をいつでも迎えられる空間となっている。


 参列者のベンチには、貴族達が既に座っている。私は、貴族だけど侍女の姿なので壁側に立つ。


 夫婦としての誓いをたてる空間が修羅場になってしまうのか。そう考えるととても嫌な気持ちになる。


 この世界での結婚事情って家関係が多いんだよね。生まれた瞬間から婚約させられるパターンもあるぐらいだし。


 お互いに愛し合っている結婚ってごく稀な気がする。


 本当にこれで良いのかどうか……、私には複雑すぎて判断が厳しい。


 そういえばノア先生は、どうなったんだろ。


 アイリスを見守っているらしいけど、様子見してこようかな。


 私は誰かに気付かれる前にそっと会場を後にした。


「これは失礼……」

「いえ、こちらこそ」


 廊下の角を曲がろうとしたら、誰かにぶつかりそうになった。


 そこにいたのはクロエ様だった。


「ソフィア様……? 普段の姿も素敵ですが、侍女の姿もまた違った魅力があって良いですね」

「クロエ様。良かった、ご無事で」


 褒め言葉が……とても照れくさい。言葉にむず痒さがあり、照れてるのを誤魔化すように話題を逸らした。


「ご心配をお掛けしました。ソフィア様もご無事で良かった」


 クロエ様は嫌な顔をせずに話を合わせてくれた。


 良い人だ。


 クロエ様の優しさを噛み締めていると、揉めているような会話が聞こえてきた。


 私とクロエ様はお互いに顔を見合わせてから、揉めている方へと歩き出した。


「結婚が中止って……そんなの困ります!」

「仕方がないです。主人が捕まってしまったのだから」

「それだと契約はどうなりますか??」

「その話はまた後日しましょう。誰か聞いてるか分かりませんから」

「ルイス夫人!!!」


 私とクロエ様は物陰に隠れて様子を伺っていると、ルイス子爵の奥さんが多分、アイリスと結婚する予定だった男性と揉めているようだった。


 男性との会話を一方的に切り上げて歩き出した。


 ルイス夫人は悔しそうに唇を噛み締めて「こんなはずじゃ無かった……」と苦虫を噛み潰したような表情をしていた。


 その場に取り残された男性は乾いた笑いを浮かべた後、ボソッと「壊してやる」と何やら不穏な言葉を虚空を見つめながら呟いている。


 ゆっくりと歩き出した先は……アイリスがいるであろう部屋だった。


 まさか……。私は慌てて男性に近付こうとしたが、クロエ様が私の手首を掴んで止める。


「待って、危険です」

「アイリスは……、私の侍女だもん。アイリスを助けてる為にここまで来たんです。ですから、申し訳ありません」


 私はクロエ様の手を乱暴に振り払って、男性の元に駆け寄る。


 丁度男性が部屋に入って魔法を使おうとしていた。


 両手を上げて、上と下からは魔法陣が浮かんでいた。


 ダメだ。距離が少し遠い。魔法を発動してしまう。


 だったら……。


 私は立ち止まり、目を瞑って両手を前に出す。


 自信は無いけど、アイリスを失うよりは……使わないで後悔よりも使って後悔する道の方がマシよね。


 魔法を放つ。黒くて長いものが勢いよく男性目掛けて飛んでいくが、男性に元に着く前に消滅してしまいそうなぐらい私から距離をとる度に黒いものは段々と薄くなっていく。


 闇属性の魔法はかなりの魔力消耗が激しい。今の私の魔力だとこれが限界ってことだろうけど、諦めたくはない。


 何故、闇属性なのかというと、遠距離での魔法は闇属性の方が使いやすいからだ。


 さらに魔力を集中する。魔力消耗により、疲れを感じていたが、暖かな光に包まれたと思ったらふっと軽くなった。


 その魔法はクロエ様の魔法だ。


 よし、いける。


 薄くなっていた黒いものはハッキリと見えるようになり、更にスピードもさっきより上がっていた。


 黒いものは男性の手足に巻き付き、拘束した。


 やった!! と思ったが、後一秒の差だった。男性が魔法を放った後だったのだ。


 ダメ!! 待って。


 私はそれに気付き、アイリスの名を呼び走ろうとしたが、足が変な方向に曲がってしまって転んでしまった。


 閃光がアイリスに迫る。


「ソフィア様!!」


 クロエ様はアイリスがいる部屋を私に見せないかのように私を抱き締め、周りに結界を張る。


 部屋中に眩い程の光を放つ。それはすぐに収まったが、私は少しだけデジャブを感じた。


 以前……前世で似たようなことがあった気がする。一瞬だけそう思ったが、今はアイリスの安否が心配だ。


「アイリス!!」


 私は足の痛みなんかお構い無しに、クロエ様の腕から逃れ、部屋に駆け寄る。


 部屋に入ると、アイリスの前にノア先生がいて、結界を張って守ってくれていた。


 それを見た私は、安心して力無く、地面に崩れ落ちた。


 ーー生き、てた。


 良かっ……た……。


 生きてることに安堵した私は、途端に眠気に襲われて、我慢出来ずにその場で倒れるように眠ってしまった。













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