私はその人達を大切にしたい
気付け薬を飲ませられたんだけど、そもそも気を失ってる人に飲ませるものなのでは?
なんて、思ったが、ノア先生曰く、かなり苦いってだけで健康には害が無いらしい。
なんで寝てたのか、よく覚えてないんだよね。
ああ、口の中が苦い……。甘いものが食べたい……。
それにしても、二人の間に何かあったのだろうか?
なんというか、アイリスの顔が何かを吹っ切れたような。
それはそうと、
アイリスは、このまま結婚式を挙げるらしい。中止にするにはそれらしい理由が必要だし、今更それは難しいんだろう。
部屋を出る時に、アイリスを殺そうとしていることを伝えた。
でもやっぱり心配なものは心配で……、ノア先生もそう思ったらしい。
アイリスの傍にいたいと申し出た。
なるべく遠くから様子見するらしい。近すぎると逆に怪しまれるからね。
そもそも、ノア先生は美形だから地味な服装をしてもきっと目立つだろうから。
私の傍には、シーアさんが付き添うことになった。
ちょこんっと私の肩に座って寝ている。辛そうだけど、「大丈夫ですか?」なんて、辛い人に言っても逆に気を使って「大丈夫」って答えるだけだろうし、私は気付かないフリをして先を急ぐ。
この協会は森で囲まれている。目的地は森の中にあるらしい。
ーー騎士団も来てるのか。
森に入ろうとしたら遠くの茂みが揺れたので警戒していると騎士団がいつでも乗り込めるように待機していた。
馬車の中でアレン様が当日になっても明確な証拠が無かったと嘆いていたのを思い出した。
多分、私が向かっている先にその明確な証拠があるだろう。
責任重大な役目だ。頑張らなくては。
アレン様や他の人達が私を信じて託してくれた役割なんだから。
緊張して、少しだけ足がガタガタと震え出してしまう。
「……怖気付いたのか?」
さっきまでぐっすりと寝ていたシーアさんがいつの間にか起きたのか、眠そうな目を擦りながらも聞いてきた。
「……私は、弱い人間です。決して強くない。力にしろ、心にしろ。それでも……、そんな私でも信頼して……私の未来を考えてくれて、手助けしてくれる。私はその人達を大切にしたい。私を……大切に思ってるように。だから、応えていかないと」
私の言葉が意外だったのか目を見開いて驚いていたシーアさんはお腹を抱えて笑いだした。
「ぷ……はははっ!!!?? なるほどのぉ。その気持ちがあるなら、それをしっかりと持つことじゃ。いつか……お主の役に立つ時が必ず来るじゃろ。いや、もう役に立ってるみたいじゃがな」
「???」
シーアさんの言葉に私は首を傾げた。
役に立ってるってなんの事だろう……。
森を歩いていると、シーアさんはピクっと震わせて何かに反応した。
「……着いたようじゃな」
そこはただ、森が続いている。けど、シーアさんには何か見えているのかな?
「うむ。結界か……しかも、何重にもなっておる。おおよそ、三十といったところか」
「さ、三十も!!?」
「まぁ、優秀な魔導士や魔術士でも一週間は解除に時間かかるじゃろうが……」
シーアさんは人型の姿になり、手を前に出す。人差し指を突き出すと、波紋のようなものが指先に現れ、そこから空間が歪む。
バシィっと水が弾けるような音とともに、先には森しかないと思っていた空間から、建物が現れた。
それは決して大きくはない。倉庫のような建物だった。




