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私だけなんて……不公平です。

 結婚式場まで馬車で移動中に、一緒に馬車に乗っているアレン様が「今日はなんだか新鮮だね」と嬉しいそうに面白そうに笑っていた。


 それもそのはず。私の格好と髪型が普段とは違う。


 白と黒の丸襟ロングワンピースに白いエプロン。丸襟に白と黒のレースがあしらった大きめリボンを付けている。


 長めの髪はお団子のようにまとめてもらった。


 メイクもファンデーションは薄いものの目元を濃いめにしてもらい、変装のためにも目元にホクロを作り、丸メガネをかけている。


 大人っぽさをプラスしてマットな口紅を塗ってもらった。


 仕上がった時に鏡で自分の姿を見たのだが、「え!? 誰??」状態だった。


 メイクと服装だけでこんなにも雰囲気って変わるものなのだと改めて実感した瞬間だった。


 今日はアレン様の侍女として行くのでドレスを着ていないのだから、新鮮なのだろう。


 でも、私は気が気じゃなかった。アイリスをちゃんと連れ戻せるのか。役目を果たせられるのかが不安だった。


 だから、なんでそんなに呑気に笑ってるんだろうって少しだけ苛立ってしまった。


 アレン様は呑気なわけじゃない。そう思うのに、どうしても嫌な方向に思ってしまう。


 苛立ちを我慢するようにスカートの上に置いていた手をギュッと握りしめる。


 そんな私の様子にアレン様は呆れることはせずに直球で聞いてきた。


「緊張、してる?」

「はい。その……怖いです」

「ソフィア嬢は一人で全て解決しようとしてる?」

「そんなことはないですが」

「それなら良かった。この日の為に色んな人が動いてくれてる。それが返ってプレッシャーになってる。そうだろ?」


 私は、図星をつかれて硬直した。


「緊張はなかなか解れない(ほぐれない)けど、俺的には少しはリラックスしてほしいんだよね」

「あっ……えっと」

「ソフィア嬢は一人じゃないでしょ。だから、弱音を吐いて良いんだよ」

「弱音って……そんなこと……」


 出来ることなら弱音は吐きたくない。なんで今、そんなこと言うんだろう。


 そんなこと言われたら、話してしまいそうになる。


「ア、アレン様だって……弱音吐かないじゃないですか。私だけなんて……不公平です」


 話しそうになってしまったので、つい皮肉を言ってしまった。


 怒ってるかな? と、恐る恐るアレン様を見ると驚いた表情をして、どこか納得していた。


「それもそうか。なら、俺から話すよ。それなら公平だよね」


 ニコッと微笑まれた。


 ーーああ、この人は強い。


 そう思った。


「俺も緊張してるんだ。今回の件は失敗すればソフィア嬢は幽閉になるだろう。だからといって、俺と無理矢理に婚約してしまうのは違う。俺はソフィア嬢の気持ちを尊重したい」

「な、なんですか……それ。私の事じゃないですか。自分のことでの弱音は無いんですか?」

「あるけど、隙あれば伝えたいだろう? どんなに大切にしたいのかを」


 そんなの屁理屈だ。なんて、言えるはずもなく、私はクスクスッと笑った。


「ふふふっ。あっ、笑ったら少しだけ緊張が解れました。私も人の事言えませんね。アイリスの気持ちを聞きたいんです。でも、拒絶されるんじゃないかとか色々考えてしまったり……ちゃんと自分の役目を果たせるのか不安なんです」

「ソフィア嬢なら出来るって、軽はずみに無責任なことは言えないけど、これだけは分かってほしいんだ。ソフィア嬢のために動いてる人達がいる。だから、一人じゃない」

「……はい」


 ギュッと握りしめていた手をアレン様に軽く握られる。


 大きくて温かくて、安心する。


 ガタッと大きく馬車が揺れ、前のめりに倒れそうになったのを向かいに座っているアレン様に支えられた。


「あっ、ありがとうございま……す」


 自然と抱き締められているような形になり、距離を取ろうとしてアレン様の顔を見てしまう。


 思ったよりも顔が近くにあって、一瞬だけ思考が停止してしまった。


「す、すみません。えっと……急いで退きます!」


 頬が赤くなり、更に耳まで赤くなっているのが感覚でわかる。


 今は意識している場合じゃないのに~~。


 なんて思いながら、急いで座り直す。


 アレン様は「残念」なんて、言葉が聞こえたけども、聞こえないフリをすることにした。失礼な事だけども。


 私の心臓が持たなそうだったから。


 大丈夫。私なら出来る。そう言い聞かせた。







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