直接聞きに行きたい
「あの……そういえば、アイリスが近々結婚式挙げるみたいなのですが、招待状は届いても……やっぱり、私は参加出来ませんよね」
招待状と聞いてノア先生はピクリと眉を動かしたが平然を装っている……ように見える。
「結婚式……など、ソフィア様は行きたいのですか?」
かなり動揺しているのか声が震えている。咄嗟に掴んだであろう宝石がピキピキと異様な音を立てている。
「はい。そうなのですがノア先生、なんでそんなに動揺してるんですか?」
「動揺なんてしてませんよ」
「えっ、でも」
目線をテーブルの上に集中すれば、やはり宝石がピキピキと音が鳴って……いや、ヒビが割れている。これは、宝石を砕かれそうな予感しかしない。
「ノ、ノア先生!!! 落ち着いてください!!! 一旦宝石から手を放して」
「私は落ち着いています!! ただ気持ちが揺さぶられただけです」
人はそれを『動揺』と呼ぶのでは?
「ノア先生は、アイリスが好き……だったりしますかね?」
動揺していて、聞き耳持ってくれるか分からないけど、私の中にある疑問を口に出してしまった。
ノア先生はアイリスと楽しく話してるのを見たことがない。でも私が知らないだけかもしれない。
「〜〜っ。はぁ……そんなにわかり易かったですかね」
ノア先生は深くため息をして、宝石から手を放した。
私は宝石にヒビが入ってないことに安堵して話す。
「その『好き』がどんな感情を持っているのか私は分かりません。ですが……何となく、私がアイリスのことが『好き』だと思う気持ちとは違う気がします」
好きには色んな感情がある。きっと、私にはまだ理解出来ないような感情も含まれているのかもしれない。
この反応からすると、ノア先生のルートなのかな。それならなんでアイリスは私にかけた言葉を?
いや、もしかすると、ノア先生のルートだけどハッピーエンドじゃなくて友情エンドという可能性もある。
考えを巡らせても私は三作品目をやっていないから答えが出てこない。
「好き……ですか。ソフィア様は自分のことは鈍感なのに他人のことは敏感なのでしょうね」
ノア先生は困った笑顔を私に向ける。
鈍感?? 確かに私は鈍いかもしれないけど、他人には敏感なのかは微妙なところ。
「……好きですよ。狂おしいほどに、ですが……アイリスさんが他の男性と幸せになるならそれはそれで諦めがつきます」
私が口を開こうとしたらノア先生が「それに」と、付け加えた。
「私と結ばれてもアイリスさんは幸せになりません」
「??? それはどういうことですか?」
「そのままの意味です」
「ノア先生に何があるのかは分かりませんが……本当にアイリスが幸せだと思ってるのですか? ノア先生のことです。相手側の情報も調べたのでしょう」
なんて、偉そうに言ってるけど、私も同じだ。
私もアイリスが幸せならそれでいいと思ってた。けど……不幸せになるのならこの結婚は阻止したい。
「それでも……私よりはよっぽど良いかと」
「それを決めるのは、私でもノア先生でもありませんよ……アイリスが決めることです。だから、直接聞きに行きたいんです」
「それは」
ちゃんとアイリスの口から聞きたい。自分のことは考えだけで相手のことをわかった気でいて、決めつけられる孤独さは誰よりも理解しているつもりだ。
ーー前世の私がそうであったように。
ノア先生が諦めたように息をつく。
「わかりました。帝王に尋ねてみます」
「はい、よろしくお願いします」




