自分の弱音さえもまともに言えないのだから
リリーに零れた紅茶を片付けて貰い、濡れた床も掃除してもらった。
新しい紅茶を入れて貰う。掃除が終わるとリリーは深々とお辞儀をした後、急いでサロンを出ていく。
片付けのために呼ぶのは気が引けたけども……貴族令嬢というのもあり自分で片付けなんてすると『はしたない』行為とされる。
何よりも目の前にイリア様が居るのだ。ドン引きされるなんてことがあったら折角出来た友達が距離を置いてしまいそうで怖い。
「……申し訳ありません。動揺してしまいました」
私は深く深呼吸して、ゆっくりとソファーに座り直す。両手を膝の上に置き、背筋を伸ばした。
「いきなり現れた私に責任があります。ソフィア様は悪くありません」
「イリア様とノア先生は、どのような関係なのでしょう」
ノア先生は私に一礼した後、私の謝罪を訂正した。私は気持ちを切り替え、話を元に戻すために気になったことを聞くことにした。
「どのような……そうですね、今回の件で合同となって調査を進めてる……仲とでも言えばいいのでしょうか」
ノア先生はゆっくりと状況を説明し始めた。
アイリスは巻き込まれているだけの可能性が高く、急に帰ったのは何か弱みを握られてるからなのかも知れないだそうだ。
今回、イリア様……クリスタ家の協力を申請したのはノア先生だけでは手に負えそうにないらしい。
私自身の闇の力を求めているのなら、カースさんの時のように誘拐される可能性も出てくる。
ならば、早めに対処したいところだが、確実な証拠がないためなかなか拘束出来ないらしい。同じ失態を繰り返さないように私に話す決断をしたそうだ。
カースさんの時とは違い、早めに気付くことが出来、対策も出来るとのことだった。アレン様がノア先生と話をしたのもどうやらその話のようだ。
キースさんの他にノア先生も私の護衛に回っているらしい。カースさんの時はキースさん一人じゃどうしようも無かったからね。元々私が油断しなければ誘拐されなかったんだけども。
そもそもキースさんは悪くないのに、本当に申し訳ない。謝っても過ぎたことだからどうしようもないんだけど……。
私に話した理由はどうならもう一つあるらしい。
それはーー……。
「幽閉、ですか?」
ノア先生の言葉に私は思わず繰り返してしまった。
そう、学園卒業したら幽閉が待っているんだ。ゲーム本編だと必ずと言っていい程卒業前には死んでしまうわけだから、死亡フラグを回避することだけが気がかりで卒業後のことを考えていなかった。
幽閉といっても牢屋に閉じ込める訳ではなく、普段通りな生活は約束されるが親しい友人に家族や関わってきた人達には一切会えなくなるそうだ。
「ソフィア様」
ノア先生とイリア様に同時に名前を呼ばれ、私はノア先生とイリア様を交互に見た。
「そんな不安そうな顔をしないでください」
「提案があるんです」
イリア様が自分の胸に手を当てて苦笑した。
ノア先生が提案として一つの案を言い出した。
「今回の件、一緒に解決致しましょう」
「えっ……でも、幽閉は私の属性が危険だからで、コントロール出来てるのを理解して貰わないと難しいんじゃ」
「ルイス子爵は間違いなくソフィア様を狙うでしょう。ですが、ソフィア様だけじゃなくまだ保護していない魔術士の子供も対象だったら? またかつて実験をして得た知識により出来たものがあるのだとすれば?」
「……私にそれを闇の力で破壊してほしいってことでしょうか」
「私の魔法で破壊出来れば良いのですが、調査した結果……どうやら魔術士の子供の魔力を魔法石に閉じ込めているらしく、そのものを破壊出来るのは魔術士の子供しかいないようで」
魔力……、確かに魔術士の子供の魔力は特殊でかなり複雑だと聞くけど、魔術士の称号を持つノア先生もダメならそんな役目、私に務まるのかな。
それに、なんでそんなものを造る必要があるのかな。戦争を起こすつもりだったり?
「ソフィア様はアイリスさんを助けたく無いのでしょうか? さっきのお言葉……《無実を証明する》というのは口だけだったのでしょうか?」
考え込んでいたら、イリア様が口を開く。その声は良く通り、ハッキリと聞こえる。それも私の心に響くぐらい。
私は膝の上に置いていた手をギュッと握り拳を作った。
「アイリスが本当に実家に喜んで帰ったなら、それで良いと思う。けど、そうじゃないのなら、私はアイリスの本心を確かめないといけないんです」
家族だからといって、誰もが家族好きなわけじゃない。前世の私がそうだったように。
だからこそ、私はアイリスのことを理解したいと強く願う。
「自分の我儘で強欲だと思うのですが、お願いします。私はアイリスを助けたいんです。知恵を貸して貰えませんか?」
深々と頭を下げる。
私はとても無力だ。良い案が全く思いつかない。
誰かに協力を求めてしまう。考える能力が無いのだと軽蔑されたかもしれない。幻滅されてるのかもしれない。そう思うと怖くて顔を上げられない。
私は弱虫だ。
自分の弱音さえもまともに言えないのだから。
透明感のある綺麗な手が私の手を優しく包み込むように握る。
驚いた私は勢いよく顔を上げ、その人物……イリア様を見ると、いつの間にか私の横に座っており、優しい眼差しで私を見ていた。
「勿論ですわ。その為に私はここにいるんですの。我儘なんて思いません。強欲だなんて思わないですわ。もっと頼ってくださいね」
その言葉に少しだけ心が軽くなった。今まで、頼らずに一人でどうにかしようとして空回ってばかりだった。
だから少しずつでも頼ろうと頑張っていた。それが間違いだったのかもしれないと今になって気付く。
頼るのを頑張るのではなく、私が信じることなんだ。皆のことを。
「……あり……がとう……ごさい……ます」
私はイリア様に微笑むが、ツーっと雫が頬から零れ落ちた。
悲しいわけでもない、ましてや嬉しいとはまた違う。
この涙は安堵だった。肩の荷が少しだけ外れたようなどこか安心する。そんな気持ち。
そっか……信じるってこんな気持ちなんだ。
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