この子には幸せになってほしい【ノア視点】
アシェル城の謁見の間。
豪華に飾られた天井や壁、それに調度品。
木細工の床。
玉座やその後ろのタペストリーは二体の妖精が銀色の糸で刺繍されている。
この二体の妖精はアシェル帝国の紋章。
玉座とタペストリー、それに玉座の周りに小さな三段階段の絨毯が赤く目立つ。
周りの壁が白なのもあり、赤がかなり主張が強め。
この色合いはアシェル帝国の皇帝陛下の趣味。正直、私としては悪趣味だとは思いますが……そこは何も触れることはない。
私は今、先日の出来事を報告するべく皇帝陛下に報告している最中です。
「…………と、いうことになります」
「なるほど。ソフィア殿の様子は?」
「特に変わったことはないと思います」
「そうか。この件は幸いなことに知ってる者は少ない。だが」
「それなりの罰則が必要、ですよね」
呪いの件は複雑なもので王族に手を出したのが過去……いや、今は違う時間枠のソフィア様だったとしても罰則無しだと示しがつかない。
出来ることなら軽くさせていただきたいのだが……。
また、ソフィア様の闇属性を恐れてる者たちが多いのは事実。
皇帝陛下は何かを考えるように顎に手を置いた。
「ノアよ。ソフィア殿が学園を卒業したら強制的に幽閉するつもりだったのだが、自力でなんとかするとは予想外だった。その件についてもアレン殿から聞いていた」
「では、幽閉は無し……と?」
「出来ることならそうしたいのだが……、他の者達が黙ってはいないだろう。まぁ、黙らせる何かを起こせれば話は別だが」
「……何かを」
ソフィア様は、学園卒業までは自由にさせてほしいというソフィア様の本当のご両親からの遺言でした。
なんの権力も持たない人の遺言は何の意味を持たないが、ソフィア様のご両親は違う。
大魔術士という称号は何も魔術士の中で最強という訳では無いんです。
世界を救った英雄。ただ、英雄という称号は荷が重すぎるということで大魔術士という称号を貰った。
なので、世界を救った英雄ということもあり、遺言を無視出来なかった。
私がソフィア様のご両親の弟子だと名乗り、ソフィア様を見張り、事細かく皇帝陛下に報告してきました。
一時弟子だったのは間違いはないですが……。
初めの頃は、平和の為ならばソフィア様がどうなっても良かったんです。一人の小さな命なんてなんの価値もないと思ってましたから。
……ですが、ソフィア様と接して自分の中での価値観が少しだけ変わっていきました。
この子は、幸せになってほしいと。
人間として、ソフィア様の先生として暮らしていくうちに情がうつったのかも知れませんね。
「起こせる何かならあるかもしれません」
元々、学園卒業後は強制的に幽閉……もしくはミットランド王国で保護をする手筈だった。
表向きはアレン殿下の婚約者として。でも本来の目的はソフィア様を軟禁する目的があった。
ところが、アレン殿下はソフィア様の意思を尊重したいと、「もしも暴走するようなことがあるなら責任は全て俺にある」と全く迷いがない言葉だった。
それは、自分の首をかけても良いと言ってるのと同じで、王族が首を差し出すということはそれなりの決意があるということだ。
皇帝陛下は渋々ソフィア様を見守ることにした。
それさえも不満に思う方たちはいたが、皇帝陛下が決めたことを誰も咎めることは出来ない。
それもそろそろ終わろうとしている。……ソフィア様を幽閉にはさせません。その為には問題が山積みですが、それでも。
私は、ソフィア様の為にするべきことをやるだけです。
それは私だけじゃなく、ソフィア様と関わってきた人達が思ってることですが。
思いつく限りのことを話て、一礼すると皇帝陛下の下がってよいという合図があったので、もう一度一礼して謁見の間から出ました。
罰則の件も考えるそう。皇帝陛下は呪いを解いたことに関心していたので、重くはならないだろうが、何を言い出すのか予測出来ないので油断が出来ない。
……形だけだと思いますが、皇帝陛下の無茶ぶりと思いつきにはたまに振り回される。
「……はぁ」
「珍しい。貴方が溜息をつくなんて」
「私だって、溜息ぐらいつきますよ」
謁見の間の扉を閉め終わると、扉に寄りかかり深い溜息をつくと扉前に居たキャメロンさんが驚いていた。
幽閉されるかされないかは、ソフィア様次第……手助けはするつもりですけど。
ただ一つ気になることが……。幽閉の件はソフィア様はどう思うのだろう。傷つける可能性あるから黙ってましたが、それは彼女の為にもならないと今更ながら思ってしまう。
……もうすぐで学園は長期休業となりますね。その間は帰ってるだろうから、その時に話をしてみましょうか。
私はキャメロンさんと世間話をしながら廊下を歩いた。




