懐かしい……今となっては黒歴史の一つかもしれない
「……昨日は申し訳ありませんでした」
昨日と同じ時間にノエルと共にイアン様のお見舞いに来た。
イアン様はベットに横になって、水を湿らしたタオルを額にのせている。
昨日よりは顔色が落ち着いているようで少し安心した。昨日は真っ赤だったからね。本当にビックリした。
「……ソフィア様と少しだけ二人で話したいんだが」
イアン様はノエルと侍女の顔を見ながら言うと、ノエルは嫌そうな顔をしたが、イアン様の真剣な眼差しで渋々部屋の外に出る。
侍女もノエル後に続き、イアン様と私に向けて一礼して扉を閉めた。
「ソフィア様」
「はい?」
侍女が扉を完全に閉めるのを見届けた後、イアン様は私の名を呼ぶ。
私はイアン様のベッド横まで移動する。さっきまではベッド前、正面でイアン様の様子を見ていた。
「なんともないのか?」
「何がですか」
「俺があげた指輪が消滅しただろ。……隠したりするなよ。あの指輪が消滅すると元の持ち主がダメージを受けるからな」
「そ、それじゃあ……、私の代わりにイアン様がダメージを受けてしまったんですか!?」
「そういうことだな」
「どうしてそんな危険な物を……」
「俺さ、猫になってた頃、人が目の色を変えて俺を本気で殺しにかかってきてたんだ。猫は食用だからな。貧困層が激しい場所なら尚更だ。そんな時、ソフィア様の屋敷に迷い込んで……猫だった俺をペットとして飼えないかと相談してたな」
「はい。……そんなことありましたね」
私の方が立場は上だけど、イアン様のタメ語は許してる。
世間体もあるので大勢いたりした時は敬語を使ってくれてるけど。
それにしても懐かしい……あの時は、イアン様が猫だったとは思ってなかった。
……今となっては黒歴史の一つかもしれないけど。
「嬉しかったんだよ」
イアン様は口角を上げて懐かしむように笑う。その声はどこか儚げで優しくもあった。
「人間の醜さが幼いながらも身に染みる思いだったんだ。トラウマになり、人間不信になってもおかしくなかったけど、ソフィア様に出会ってなかったら今の俺はいないかもな。まぁ、その後すぐに俺は人間の姿に戻ったが……悲惨だったけどな」
「あ…………あはははは」
人間の姿に戻ったイアン様に私は隠し持ってたナイフで斬りつけようとした。あの時はとてもテンパってて、めちゃくちゃなことをしてしまったことに後からとてつもなく反省したんだよね。
「そのお礼だったんだよ」
「?? 私がテンパってて、斬りつけよようとしたお礼!? 私はそこまで恨みをかっていたんですね」
「なんでそうなるんだよ!! 違うだろ。猫としての俺を飼おうとしてたことだよ」
「あっ……ああ、そっち」
良かった。恨みじゃなくて……。
「猫は可愛いですし、見ていて癒されます。飼いたいと思うのは当然かと」
「その当然が、当然じゃないんだよ。俺はその言葉でどれだけ救われたことか」
イアン様は少し照れたように頬を掻き、
ーーありがとう。
と、感謝の言葉を述べられ、私は泣きそうになりグッと堪えた。
嬉しそうに微笑むと、イアン様は私から目を逸らした。
「で、何があったんだ」
「……指輪が私を守ってくださいました。その際、私の守護魔が結界を張ってくれて……詳細は話せないんです。すみません」
「そうか。守護魔の結界のおかげでこのぐらいで済んだのか。いや、それだけ分かれば十分だ」
「はい」
体調は時期に良くなるらしい。だから心配しなくても大丈夫だと、言われた。




