一緒に未来を見よう
無属性は魔力を無効化に出来る。
無効化に出来るというのに魔法を使えるのは魔法石のおかげだ。
シーアさんが言っていた。私が持っている魔法石は特殊なんだとか。
どこがどう特殊なのかは、私には難しくてよく分からなかったけど。
両親の形見でもある魔法石はきっと、目の前にいる悪役令嬢の心にも届くはず。
……ずっとモヤることがある。私はソフィアとしての人生を歩んできたけど、ソフィアとして居ていいのか。
そもそも目の前にいるのが本物のソフィアだというのに……私はソフィアとしてこれからも生きていたいと願ってしまった。
私はこんなにもワガママな性格だったっけ?
本当はわかってる。元ある場所に返さないといけないことぐらい。
これも私のワガママだけど、悪役令嬢の心を救いたいとも思ってる。
そして、アレン様を呪いから解放させたい。彼は充分苦しんだ。悪役令嬢もまた、苦しんでいる。
もういいでしょ。お互いに苦しみ続けてるのよ。
私は悪役令嬢に近付くと、彼女は動揺している。
黒い槍みたいなのが私に向かって飛んでくる。その度にアルくんが結界を張って護ってくれた。
近付くと、私は手に持っていた魔法石を悪役令嬢の両手に乗せ、ギュッと握る。
心地よい温度の光が私と悪役令嬢を包み込む。
「……全部あなたのせいですわ」
目の前にいる悪役令嬢は私を睨みつけ、低い声で震えながらも言う。
その瞳からは憎しみと悲しみが混ざったような涙を浮かべていた。
「私は! 羨ましいよ……すごく。だって私には無いものをたくさん持ってるじゃない。好きな人のために努力をして、一途すぎる想いって素敵なことで、尊いものだよ」
私は思ってることを言葉にして吐き出す。
ギュッと握る手に力を込める。
ゆっくりと私は目を閉じた。
次に目を開けると、目の前には悪役令嬢がいなかった。
そのかわりに蜘蛛の巣のような細長い透き通るガラスがところどころに張り巡らせていた。
ーーどこ?
さっきまではアレン様の中にいたとすれば今度は悪役令嬢の中に入った……のかな。
細長い……触れたら壊れてしまいそう。
悪役令嬢は私が思ってるよりもガラスのハートの持ち主なのかも。
細長く透き通るガラスを避けながらも進んで行くと、うずくまって眠っている十代前半ぐらいの女の子がいた。
蜘蛛の巣のような透き通るガラスは女の子中心に張り巡らされていた。
桃色の長めの髪。透明感のある肌。ボロボロの服を着ている女の子は幼少期のソフィアだった。
公爵家に引き取られる前だわ。手入れが不十分な髪は少し傷んでいて艶がない。透明感はあるものの荒れ気味な肌。糸が解れていたり、虫食いされている服。
あの頃は貧乏だったけど……幸せだった。
確か、私と同じようにボロボロになっている女性がいたから放っておけなくて声をかけたこともあったっけ。
今頃はあの人はどうなってるんだろう。ちゃんと生きてられてるのかな。
なんて、考えても仕方ないことなんだけど気になるんだよね。
似たようなことを……アイリスと話した気もするけど、あの時の人がアイリスだなんて思えないから、きっと違うよね。
起こした方が良いのかな。そっと頭に触れようと手を伸ばそうとしたが、蜘蛛の巣のような透き通るガラスが私の腕に絡まって放さない。
ガラスから感情が流れてきた。それは素直になれないようなもどかしさが伝わってきた。
誰かを責める心理って、自分の自身のなさから。
強く出ないと自分の存在が相手に軽く見られると思うから。心の底では『自分の価値を再確認したい』という欲求がある。相手を責めて攻撃しないと自分の価値が傷つくと考えて恐れている。
そういう人は、褒めまくってあげることが大切だと思う。
ーー弱さは時に狂気に変わったり、自分自身と向き合うための壁だ。
私はそう、思ってる。
「ソフィアという名前は」
ゆっくりと話し出す。
私の言葉は届かないとわかっていても言わせてもらう。
「何度でも失敗してもいい。だけど……だけど前を向いて強く生きていてほしい。そんな願いが込められているんだよ。そんなところでいつまでも眠ってないで起きよ? 起きて、一緒に未来を見ようよ」
精一杯な前向きな言葉を紡いだ。
伝わってるかどうか、ものすごく不安だけど。
グッと絡まれたガラスが力強く締め付ける。思わず苦痛の声を上げた。
それでも私は話すのを止めない。
「あなたの両親は捨ててない。寧ろ……愛してくれてたわ。娘のあなたが一番わかってたことじゃない」
その言葉に反応したように、ピリッと全身に静電気が流れ通った。
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