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逢いたいと願う

 お義母さまは薔薇園をゆっくりと歩いている。私もその後に続く。


 ふと、ガゼボ前で立ち止まる。


 お義母さまが立ち止まるので自然と私も立ち止まる。


 私がデメトリアス家に養女として迎え入れられる前までは、ガゼボでお茶したりしていたそうだけど、今ではテーブルや椅子はなく、ガゼボの屋根と支えてる柱には白薔薇と草がまとわりついていた。


 今では、景観(ランドスケープ)として装飾物になっていた。


 ただ懐かしむように見つめるお義母さま。

 きっと、私には分からない思い入れが深いのかもしれない。実の両親が関わってるという可能性もあるけど。


 お義母さまはゆっくりと話し出した。


「ジェシカ姉様は、あなたに賢い子になってほしいからではありません」

「……だっ、だったらどんな由来が」

「強く生きてほしい。例えモノゴトの本質を見抜けなくても……。誰よりも優しく……相手と向き合えるように」

「それなら、もっと相応しい名前があったんじゃ」

「ソフィアじゃないといけないんですわ。ジェシカ姉様は智慧の中に、知性、理性、理知、知恵が含まれているとお考えでしたの。それに、何かとは言わなくとも大変なものを抱えているでしょう? どんなことがあってもあなたの経験は必ず役に立つ。そう思ってソフィアにしたんですのよ」


 ……何度でも失敗してもいい。だけど前を向いて強く生きていてほしい。

 経験は智慧となり、役に立つはずだと。


 まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とも思ってしまう。


 いや、ソフィアが産まれた時点で死を覚悟していたのかもしれない。


 私は目を瞑る。


 風が吹き、庭の草一面、ささやくように揺れるのが音でわかる。

 幻聴まで聞こえ出した。


 ーーソフィア。


 と、優しく呼ぶ声は今は亡きジェシカ(母親)に似ていた。目頭が熱くなり、涙が次から次へと流れ出した。


 願わくば……。


「逢い……たい……」


 込み上げてくる感情に我慢出来ずに吐き出してしまった。


 ずっと、抑えていた感情だった。それを一度口に出してしまえば感情には嘘をつけなくなる。


 顔を両手で覆い、その場に崩れ落ちた。


「逢いたいっ!! 逢いたいよぉ……。生きててほしかったのに、なんで私なんかを生かして……死んじゃうの!?」


 前世の記憶があろうとも、私がソフィアであって、ソフィアじゃないとしても……逢いたいものは逢いたい。


 ソフィアとしての小さい頃の記憶なんて、ぼんやりとしか覚えてない。


 その理由が今、わかった。


 ……この記憶は、私に残したものだ。


 呪われていても、心が闇に染まろうとも、思い入れのある記憶を……忘れたくないから。


 それか、誰かに助けを求めてるとか。


 私だったらそうするだろうと思ってしまったから。


 記憶がぼやけてても、逢いたい気持ちが強いのは、()()()()が愛されていた証拠だろう。


 お義母さまはゆっくりとしゃがみ、私の肩を抱いて優しい口調で言う。


「……それはあなたという宝物を見つけてしまったからですわ。親は子の幸せを誰よりも願うものですもの」


 自分を犠牲にしてても子の命を守るだなんて、私には理解出来ない。


 ……前世での母親は、私を嫌っていたのに。この世界では、嫌う所か好意を抱いている。


 ずっと欲しいと思っていた温かさ。


 羨ましくて、とても憎い。


 ーーなんで私はこんなにも……、性格が悪いんだろう。


 自分が情けなくて失望する。


 私はお義母さまに抱きついて泣いた。


 ずっと辛くても、誰にも言えない孤独さ。甘えてはいけないと自分に言い聞かせていた悲しさ。


 その感情が涙となって溢れ出す。


 落ち着くまで、お義母さまは私を優しく抱き締め、背中を摩ってくれた。


 普段なら、はしたないと怒るのに、この日は何も言わなかった。









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― 新着の感想 ―
[良い点] ∀・)面白かったですね。ノリのよさといいましょうか、作品総じてのテンションの高さがシリアスなシーンが入ってきてもブレてない。それはソフィアが元々異世界からきて、舞台となっている世界がゲーム…
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