知名度が上がるということは……【クロエ視点】
『かっこいい!!』
『惹き込まれる演技力』
『歌上手いし、キャラに合ってる』
なんて、言われていたのは過去の話。いや、俺の前世の話ーー……。
皐月として活動していた俺は、顔やルックスに恵まれて声優という本職の他にもモデルの仕事も入ってくる。
また、ミュージカルやドラマの出演の話も来るぐらいには俺の知名度はそこそこあった。
だが、『知名度が上がる』ということはSNSの投稿や日頃の言動、行動にも気をつけなければいけなかった。
そんなある日のことだ。ドラマで共演したことがある女優が相談したいことがあると言ってきたんだ。流石に二人で会うのは宜しくないと思ったので信用出来る人達数人を呼んで会うことになった。
それが何もかも間違いだったんだ。呼んだ数人がドタキャンして自然と女優と二人っきりになってしまった。
その女優が仕組んだものなのかもしれない。距離も近いし普段着ない色気のある服装で来てたのだ。あざとい仕草もしてくる。
はめられたのかも知れない。そう思った。
運が悪いことにその現場を撮られてしまった。
ファンの激怒に触れ、炎上してしまった。
謝罪会見をしたが、遅かった。女優が嘘の告発したんだ。
さらに状況が悪化した。
後から知った話、俺が好意を持ってないことに逆恨みをして業界から追い出そうとしたんだそうだ。
女の恨みは恐ろしいと改めて思った。
ほとぼり冷めてから活動を再開しようとしていた矢先だった。
近くのお店に寄った帰り道、俺は黒いフードを被った人に刺されてしまった。
マスクとフードを深く被ってるせいで顔は見れなかったが、意識が遠のく中、女性の声で「……あんたが悪いんだよ」と言っていた。
その声は、炎上理由になった女優の声だった。
ーー嫌だ。死にたくない。まだ、やりたいことが沢山あるのに!
その気持ちとは裏腹に意識が徐々に遠のいていったーー……。
次に目を覚ますと、俺は赤子の姿をしていた。
性別は女。裕福とはいかないが、貴族のようだった。
年月が流れ、あることに気付いた。前世で出演した乙女ゲーム『クリムゾン エイジ』の世界と似ていたんだ。
しかも俺の今世の名前がクロエ・ルイーズ。爵位は男爵。
魔法も光属性らしく、癒しの力や特殊な魔法まで使える。
間違いなく、主人公だ。
それならば悪役令嬢もいるはずだ。最も推していたキャラクター。
とても繊細で、折れやすい心を持っている。強い心も持っているが、ガラスのように砕けやすい。
ワガママだと言われてるが俺はワガママの裏には理由があることを知っているし、何よりも優しい人だ。素直になれないだけ。
折角生まれ変わったんだ。悪役令嬢と仲良くなりたい。そう思ってきた。
誰からも疎まれる存在なのだから、俺が味方にならないとって。
それなのに学園に入学したら、攻略対象者が悪役令嬢であるソフィア・デメトリアスの接し方がシナリオと違っていた。
それに、ソフィアもなんだか様子がおかしい。これって、俺と同じ転生者の可能性があると思った。
思い切って聞いてみたら、転生者だった。
しかも天然でドジっ子……。強欲で傲慢なソフィアを見てきたせいか、そのギャップがまた良いななんて思ってしまった。優しさが表に出ている。
めちゃくちゃ良い子だ!!
知り合って間も無いのに好感度がさらに上がった。
ソフィアは、『クリムゾン エイジ』を全クリしてないんだそうだ。
なので、質問してきた内容には答えた。
その内容以外のことも教えようと思ったが、求めてるかどうかが分からないし、まだ知り合って日が浅い。良い子だけど、求めてない内容を話して影口叩かれる可能性がある。
推してる子に影口叩かれたら病みそうだ。
様子見としても質問にだけ答えることを選んだ。
まだシナリオだと序盤だから隠しキャラはまだ出てこないだろう。
そう思っていたのだが……、虫の知らせというやつなのか、
どうも胸騒ぎがする。
何故、序盤だからって思ったのだろう。考えればわかったはずなんだ。
悪役令嬢は転生者。しかもことごとくシナリオを変えてきている。
だったらこれから先のシナリオも変わっていておかしくなかった。
その事に早く気付けば良かった。
図書室でソフィアと隠しキャラが出会ってしまったのを見つけてしまった。
ーー遅かった。
絶望している暇なんか無い、俺は二人の間に割って入った。
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