それを……聞いちゃうの?
クロエ様をどう誘おうかとノエルに相談したところ、ものすごく怪訝そうな顔をされた。
「姉上は、クロエ様と二人っきりになりたいんですか?」
「うん、そうよ」
「二人っきりになってなにを話すんですか?」
「それを……聞いちゃうの?」
色々とこの世界のことを聞きたいし、智慧を貸してほしいとも思う。
それをノエルにどう話そうかな。
手を口元に持っていき、必死に考えていたらノエルが青ざめた。
勢いよく私の両肩を掴んできた。
「ノ……ノエル!?」
「僕は認めませんよ!! 素性も知れない相手とだなんて! いいですか、姉上」
真剣な表情でピンッと人差し指を立てるノエルにゆっくりと頷く。
「姉上は僕がいますよね? 僕よりもクロエ様の方が大切なのですか?」
「へっ!?」
い、いきなり何!? というか、ノエルは不機嫌そうに私を見てる。
もしやこれは……。
義弟の座をクロエ様に取られるじゃないかって不安なのね!?
何年も傍に居なかったものね。きっと心細い思いはたくさんしてたんでしょう。
なによりも、久しぶりに逢えた義姉に甘えたくて仕方ないのかな。
可愛いやつめ。
「大丈夫よ。ノエル……私はあなたを大切な義弟だと思ってるわ。だからね、今度の休日は屋敷に帰るじゃない。その時に一緒にお茶会しましょう?」
「いや、僕が言ってるのはそういうことじゃ……」
私は小声で話した。
「それに、たくさん甘えてもいいのよ。ほら、前みたいに一緒に寝ても良いんだし」
懐かしい。一度だけ、一緒に寝たことがある。
それは私の高熱が下がった頃だ。ノエルと話してる時に眠くなって寝てしまった。
眠りから覚めると、ノエルが気持ち良さそうに隣で眠っていた。
いい思い出ね。
だけど、ノエルは顔を赤くして狼狽えた。
「あっ、姉上!! それは小さい頃の話なのですから」
「ええっー? ダメなの?」
小さい頃でも今でも私にとっては大切な義弟。
久しぶりに一緒に寝れると思ったのに……。
って、寂しかったのは私も同じか。
よくよく考えたら、お互いに成長してるわけだし、恥ずかしいわよね。
「冗談よ」
クスクスと笑ったけど、本気だったのは秘密にしとこう。
「全く、姉上は……。仕方ないですね。クロエ様に聞いてみますよ。それと、偽言が広まってたので、訂正しときましたから。少しは意心地が良くなると思いますよ」
「あ、ありがとう……?」
「姉上は僕が守りますから、心配しないでください。噂の一つや二つ……訂正するのは簡単ですからね」
ニコッと微笑むノエルは天使のように愛らしい。
「姉上は誰にも渡しませんし」
そんなことを小声で言っていた気がするのだけど、きっと気のせいか。
まぁ義姉を大切に想ってくれていて、私は嬉しいけどね。
姉想いな義弟を持てて私は幸せ者ね。
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【ノエル視点】
僕は才能には恵まれていなかった。勉強も、剣も魔法も。いつも中の下止まり。
そんな僕に大人たちは声を揃えて「大丈夫。きっと上手くいく」と言ってきました。
上手くいくことなんてないだろう。子供だからって甘く見すぎている。
そう思うのに、言葉は自然と感謝していた。そうしなければ貴族では生き残れないと思ったから。自ら敵を作るのではなく味方を作る。
父上に教わった。
養女として迎え入れた女の子。僕の姉上になる方にも父上に教わったことを実行していたんです。
初対面の時は、高熱でうなされてる姉上を見て泣いてしまったけど。
姉上は、僕の予想を遥かに超えていたんです。
何も無いところで転んだり、時折変なことを呟いたり。何かを考えてる仕草をした次の瞬間には目を輝かせて「お茶を飲もう」と誘ってきたり。
さらにはかなりの不器用で、渡されたハンカチの刺繍なんて、悲惨でしたね。
それを見た瞬間、驚きすぎて硬直してしまいましたが。
不器用でも諦めずに僕のために刺繍してくれたのだと考えると、可愛らしくてちょっとむず痒い。
ですが、とても楽しかったんです。姉上に会う前まではとても憂鬱だったのに。
数日しか一緒に居られなかったけど、姉上に会って僕は喜びと楽しさを知ったんです。
僕は姉上が好きです。大好きなんです。
だから、守っていたい。そう思って剣の腕を上げようとクリスタ家で修行している間に……、色んな異性と仲良くなっていたとは。
これはこの先が思いやられますね。
そのうえ、姉上は無自覚すぎるから困る。そのおかげで異性の好意にも気付かないのがなによりも救いなんですけどね。
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