ヤバい人に好感度が上がるのは、自分が思ってるよりもよっぽどやばい人か相当な物好きぐらいだろう
気になってた召喚の儀は成功したし、少しは安心かな。
それにこの子……、とっても可愛い!!!
もうダメ。癒し。
昼休みに入り、アルマジロを抱きしめて渡り廊下を歩いていたら、急に暴れだした。
「えっ、アルくん!?」
守護魔のアルマジロ……、私はアルくんと呼ぶことにした。
アルくんが暴れるものだから、抱きしめている力を緩めてしまった。
その隙に私の腕から抜け出したアルくんはなにかに引き寄せられるかのように走り出した。
アルくんを追って走った先は中庭だった。
一人の女性が座ってるベンチに一直線に向かっていった。
「きゃあ」
小さな悲鳴。
悲鳴を上げるにも無理はない。見知らぬモノがいきなり近寄ってきたら誰だって驚く。
「すみません。イリア様、アルくん……私の守護魔が」
「この子はあなたの……、可愛らしいですわね。ですが、ずっと連れ回してると大変ですわ」
「そうなんですけど。なかなか帰ってくれなくて……」
守護魔は、召喚したらその瞬間に契約は終了して天に帰っても自由に呼ぶことが出来る。
でもアルくんは、どうしてなのか帰ろうとしない。
「そうなんですの」
アルくんはじーっとイリア様の手に持っているモノを見つめていた。
それはクッキーだった。横にはクッキーが入った小さな籠が。
「あっ。わかりましたわ。お腹空いてるのかも」
そう言って、イリア様はクッキーをアルくんに差し出した。
アルくんはクッキーをクンクンと嗅いで匂いを確かめ、一口食べる。
すると、ぽっと頬を赤くして目をキラキラさせながらムシャムシャと夢中で食べる。
……動物にクッキーで大丈夫なのかなって思ったが、この世界はファンタジー系だ。
アルくんは天使。動物だけど人と近い種族だから、問題はなさそう。
食べ終わったらアルくんは満足そうに消えていった。
そっか、お腹空いてたから帰らなかったんだ。大人しくしていて分からなかった。
お昼はまだ食べてなかったからね。私もお腹空いてるし。
「良かったですわ」
「はい。ありがとうございます。イリア様」
深々とお辞儀をしたらイリア様は慌て出した。
「いいえ、そんな頭を上げてください」
そう言われて、頭を上げる。
「イアン様は、御一緒ではないのですか?」
「……常に一緒ではありませんわ。双子だからといって、仲が良いってわけではありませんもの」
そうなのかな。私からしてみれば仲が良く見えるけど、二人にしか分からないことがあるんだろうな。
ここは下手に首を突っ込まない方が良さそう。
「そうなんですね」
「良かったら、少しお話しません?」
「え、はい。もちろん」
私はイリア様が座っている左横に座る。
座ったことを確認したイリア様は立ち上がり、私の目の前に移動した。
どうしたのだろうと、イリア様を見ている。
ゆっくりと口を開いた。
「ソフィア様には感謝していますの。兄を……イアン・クリスタを助けていただいて、本当にありがとうございます」
「い、いえ、そんな。あれは偶然というか……、助けたというよりも殺そうとしたし」
「それも聞いていますわ。普通はパニックになっても殺そうとはしないですが、なかなかの度胸だとお兄様が言っていました。好感度が高かったらしいですわ」
あれで!?
ヤバい人に好感度が上がるのは、イアン様は私が思ってるよりもよっぽどヤバい人か、相当な物好きなのだろう。
そのうちSMプレイをさせられ……いや、考えるのはやめとこう。
この世界は乙女ゲーム。そんなヤバいゲームにしちゃいけない。
イリア様はゆっくりと頭を上げた。
「猫になったお兄様を保護するように頼んでいたそうですね。普通なら食料にしてしまうのに。そんな人が殺そうとしたなんて考えられませんわ」
そう言われても……私はあの時、オリヴァーさんに見つかってプチパニックを起こし、咄嗟に前世の記憶からゾンビ漫画を思い出し、死なない程度に身体を切断しようとしていた。
今思えば、なんでそんなことをしようとしたのか分からない。
そもそもパニックだったからとはいえ、あんなことをすれば死んでしまうのは馬鹿でもわかるのに、私はなんであんなことを……?
記憶がごちゃ混ぜになり、曖昧になってしまう時が多々ある。
それって、普通にヤバい人じゃなくて……今世と前世の記憶があべこべのようになってる……?
だとしたら、夢のようなものなのかしら。
昔の夢を何十も覚えていると何かしら、脳に異常をきたすというのを聞いたことがある。
その可能性が高そうね。
「ソフィア様?」
「えっ、いえ。そう思っていただけてるなんて嬉しいです。あの時はただ、自分に余裕がなくて、周りが見えてなかった部分がありました。きっと、それが原因ですね。お恥ずかしいです」
恥ずかしさから頬を赤らめて、申し訳なさそうに喋るとイリア様は苦笑した。
「お気になさらずに」
と、気遣いの言葉を投げかけられた。
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