召喚の儀
昨日の夜会では貴族たちとの交流は無く、そのまま終わりを迎えたのだが……。
近寄りたくない雰囲気を出しちゃったり、塩対応をしてしまった私に非があるんだけどね。
今日は昨日よりも避けられてるんだよなぁ。
話しかけたら何かと理由をつけて離れていく。すれ違えば声を潜めて話している。
最初っから失敗続き。
全ては私が招いた結果だし、自業自得なんだけどね。
……それに、不思議なことにゲームの設定とは少し違ってランクがクロエ様と同じということ。
魔力測定で出た数字によってランクが決まる。
自然と、数字が近い者同士になるわけだ。
クロエ様の実力なら最高位ランクなんだけど、なぜ最下位ランクにいるんだろう。
ランクは全部で四。最高位がキング。次がクイーン
、ビジョップ、そして最下位ランクがナイトとなっている。
ゲームでは、クロエ様は最高位ランクだった。
それなのに最下位ランクって……。
一体なぜ?
子息の数人と楽しそうに話しているクロエ様をじっと見ていたら私の視線に気付いたのか目が合い、クスッと笑った。
驚いて顔を逸らした。
今のこの時間は守護魔を召喚する授業だ。
守護魔は、大昔に恵みの神様が貴族にお世話になったらしく、それから神に仕えている天使を守護魔として貴族を守り続けるという契約を結んだそうだ。
これは偏見だけど天使と聞くと、赤ん坊に翼が生えているイメージが強いと思う。
実際、私がそうなんだよね。
でもこの世界の天使は召喚者によって姿が違う。
召喚者の天使のイメージが形となって現れるそうだ。
護られる力だけあって、誘拐や殺されることはまずない。
それならば転生したとわかった時に召喚すれば良いのでは?⠀なんて、思ったでしょう。
それもそうはいかなかった。
この召喚の儀は学園内でやらなくてはならなかったんだ。
刻印が刻まれた宝石を魔法で粉々に砕くと守護魔が召喚される仕組みになっていた。
ゲームのソフィアは召喚に失敗していた。
だから、守護魔が居ないソフィアに簡単に悪魔が近付けたし、殿下に呆気なく殺された。
守護魔は、召喚者の魔法を手助けしてくれるだけじゃなく、防御や守護の魔法がより強力な形になって発動出来る。
身を守るためにも必ず守護魔召喚を成功させなくちゃいけない。
この召喚で死ぬ確率が減らせると私は思っている。
なるべくなら、目立たない子がいい。そう思いながらも天使のイメージを形にした後、魔法を放つ。
宝石が粉々に砕け、宝石の周囲に魔法陣が現れる。
そして、
「グー、グー」
現れたのはとある動物をイメージした天使。体はやや黒みがかった茶色。 鎧のような堅い皮膚を外側に、柔らかそうな腹の部分が内側になっている。
天使とはいえ、羽は生えていない。いや、羽までイメージしていなかった。
奇妙な鳴き声の動物はアルマジロ。
召喚の儀にはこの動物だとずっと思ってた。
だって!!
可愛いじゃない。アルマジロ。
もう、天使。癒し、尊い。すぐさま出てくる言葉がこれなんて、神ってるでしょ!!
私はアルマジロに近付いてしゃがみこむ。
「よろしくね」
ニコッと笑うとアルマジロは最初は警戒していたものの私に近付いてきた。
アルマジロを抱き上げる。
ほかの貴族たちも見てみると、蛇や兎、カエル等……。
それぞれが違くてちょっと面白い。
微笑ましく見ていたら、数人の男性陣と女性陣の驚く声が聞こえた。
その方向を見ると、クロエ様が召喚した天使がなんと上級天使だった。
見た目はキツネ。でも背中に小さな羽が生えていて可愛らしい。
これはゲームでも見たことがある。
上級天使、熾天使の地位に値する。
ナイトのランクなのに上級天使を召喚してしまったら、ほかの貴族たちは反感しそうだなって思っていたらクロエ様が口を開いた。
「……上級天使ではありません。先生はお疲れのようですね、天使です」
「う、うむ。そう、だな……」
クロエ様の言葉に召喚の儀を担当していた教師は頷いた。
でも、そんなはずはない。
教師の弱みでも握ってるのかな。……そんなわけないと思いたいけど、相手は私と同じ転生者。
まだどんな人なのかわかってないからその考えを否定は出来ない。
クロエ様は一体、何者?
じーっとクロエ様を見ていると目が合った。
クスッと微笑まれると、余計に怪しく思ってしまう。
絶対に何かがあるのだと。
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