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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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 ただ達人になると術理が変わってくる。マサモリが重量術を知らない頃は達人なのに変な動きをするなあと思っていた。しかしそれはしっかりとした術理の元に成り立っていたのだ。


 人の体に合った術理に重量術の術理を組み合わせたので重量術を知らないと不合理にしか見えない。しかし重量術を知った後では意味合いが全く違ってきた。


 奇妙な動きにどういう重量術の使い方をしているのか分析するだけで楽しい。重量術を知らない時は達人がどうしてこうも自分と違うんだと思っていた。はっきり言って強すぎた。


 強すぎて自分の理解の範囲を超えていた。一目見て真似でいないと理解できた。しかし重量術を知った事でやっとそれらに到達すべき道筋が薄っすらと見えてきた。


 重量術には無限の可能性がある。マサモリはワームに捕らわれて地に縫い付けられた時の恐怖と閃きを思い出した。頭をもっと柔らかくしないとせっかくの技術を人の視点でしか利用できなくなる。


 経験が足りない。もっと様々な経験をして知識を蓄える。あの時の経験はマサモリの探求心と向上心に火をつけていた。



 エルフの森からナツメの教師と裏切り防止用の腕輪が届いた。腕輪は厳重にするのならしっかりとした職人が調整しなくてはならない。しかしかなり簡易的な物でマサモリはほっとした。


 それでも簡単に解除出来たりはしないが余り厳重すぎると条件付けがマサモリでは把握できない場合がある。ナツメにその気が無くとも腕輪が発動する条件に抵触してしまう可能性が出てくる。


 簡易的な物はマサモリでも説明書を見なくても多少は理解できる。変な物を着けられるかもしれないと不安に思っていたがマサモリはほっとした。


「ナツメ、これの腕輪をつけてくれ。これは以前に話しておいた裏切り防止用の腕輪だ」

「はいです」


「禁止事項は基本的に出島村から離れすぎない。出島村の外に出て超大陸の人と会った時に話したり情報を教えてはならないってくらいだ。位置機能と発信機能があるから道に迷った時に念じると俺達に伝わる。それくらいだな」


「分かったです」


 素直に腕輪を着けてくれてマサモリはナツメに感謝したい気持ちになった。本来ならしたくはないが、絶対に必要な事だった。ナツメが裏切るとは思わないが攫われる可能性も皆無ではない。それに腕輪を着けていた方が安全だろう。



 ナツメの教師は若い女のエルフだった。超大陸に住んでいたハーフエルフでも大丈夫な女性を募集したのだが思ったより早く見つかった。


 見つからなかったらマサモリが子供の頃の教材を引っ張りだして教えようと思っていた。しかし東京村は現在立入禁止なので教材を持ち出すのは大変だし、どの教材を使えば良いかも正直自信が無い。


 先生が見つかって幸いだった。少し見ていたが教師役の女エルフはナツメと上手くやっていけそうな感じだった。態度次第では即解雇しようかと思っていたが杞憂に終わった。


 ナツメは修行と勉強、鶏の世話と忙しい毎日を送っている。




 ある日、出島村の結界に反応があった。マサモリは急いで反応があった場所を見に行くとそこには魔カブトガニがいた。


「おー、お前達は賢いなあ」


 マサモリは魔カブトガニを抱きかかえた。そして体をひっくり返したり殻を触ったりして状態を確認する。マサモリが確認していると魔カブトガニが脚をわちゃわちゃ動かした。


「ふむふむ。大丈夫そうだな。ちょーっと待ってろよー」

「マサモリ何やってるの?」

「ひぃっ、気持ち悪いです。なんなんですか、それ」


「賢い魔カブトガニが来たから今から血を抜くんだ」

「えっ、何それ」

「わっ、こっちに向けるなです」


「魔カブトガニの血液は特殊な物ですごく貴重品なんだ。主に霊薬の材料に使われている」


 魔カブトガニを持ってマサモリは自宅へ向かった。魔カブトガニを机の上に置くとマサモリはふすまを空けてなにやら探し始めた。


「あった」


 マサモリは魔カブトガニに取り出したばかりの管の付いた注射針を刺した。すると管からは青い血が流れた。抜かれた青い血が瓶の中に溜まっていく。それをシラギクは興味深そうに眺めていた。ナツメはシラギクの背中に隠れながら顔だけ出して窺っている。


「この大きさだとこれくらいかな。血を取る量は魔カブトガニの大きさによって変わる。このカブトガニは血を取ってから既に十年以上経っているね。あんまり早い短期間で血を取ると体に悪いから餌だけあげて逃がすんだ。さっきはそれらを確認していた」


 マサモリは注射針を抜くとすぐに治癒魔法を使った。


「よしよし、ちょっと待っててね。シラギク、ちょっと魔カブトガニを見てて」

「いいよー。でも裏側はちょっと気持ち悪いなあ」


 マサモリは家を出ると、イカと見慣れない液体、道具箱を持ってきた。


「準備おっけー。魔カブトガニを洗うから外へ移動だ」


 マサモリは魔カブトガニを外に出すと水を出して丁寧にたわしで洗い始めた。


「シラギクはイカを切って」

「はいよー」


 シラギクは手を強化魔法で覆った。そしてイカを空中に投げて手を振った。するとイカは細かく切り裂かれた。


「よし、洗い終わった。イカをあげてー」


 シラギクが細かく切ったイカを近づけると魔カブトガニは抱きかかえるようにイカに飛びついた。そして一生懸命食べ始めた。脚をバタつかせながら食べる姿を見ていると癒される。ナツメはその様子を見て、さっきよりも離れていった。


「変な生き物です。怖いです」

「可愛いなー」

「その液体はなんなの?」


「これは魔カブトガニの甲殻に塗る塗料だよ。これを塗ると魔カブトガニ甲殻がめっちゃ硬くなるんだ。こいつみたいに賢い個体は塗料を塗られると甲殻が硬くなるって分かっているからエルフを見つけると寄って来るんだ。魔カブトガニは脱皮をしながら大きくなっていくんだけど殻も次第に硬くなっていく。この塗料を塗ると脱皮十回分は硬くなるんじゃないかな」


「へー、そうなんだ。面白いね」

「甲殻の硬さは樹海では命綱だからね。塗料を塗った魔カブトガニは生き残りやすくなる。エルフは血を貰う。双方が得をする良い取引なのさ」

「なるほどねー。わたしもやる!」


 シラギクはハケで魔カブトガニを塗り回した。塗料の塗りが終わると魔法で乾燥させた。一連の作業が終わると樹海へ帰す。魔カブトガニを放すとゆっくりと樹海に戻っていった。


「また来たらわたしにも教えてね」

「うん」

「あたしはもういいです」



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