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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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 三人で地面に餌を撒き終えるとマサモリは言った。


「ほら、見てごらん。雌鶏は卵を産むから栄養がたくさん必要なんだ。だからいつも地面を突っついている。逆に雄鶏は敵の排除と警戒をしているから常に首を上に向けているんだ。実際に襲い掛かってくるのも多くは雄鶏だから数に驚いてビビりすぎないように」


「ぎゃあ! 鶏が魔法打ってきたです!」


 雄鶏が遠くからナツメに向かって嘴で突いた。すると嘴から嘴形状の風魔法が放たれる。ナツメは回避できずに魔法を受けて尻もちをついた。雄鶏は飛びながらナツメをからかう様に鳴いた。


「こら!」


 マサモリが怒ると雄鶏は一瞬だけビクリとしたがすぐに知らんぷりを決めこんだ。雄鶏は踵を返すと結界に飛び掛かった。結界が柔らかいゴムの様に形を変えて雄鶏をゆったりと弾き返した。鶏達は結界にぶつかって跳ね返って遊んでいる。


「あいつらやばいです。飛び蹴りの練習しているです。引き裂かれるです」


 ナツメは最初に襲われたせいで完全に腰が引けている。


「餌やりが一番大事な作業になる。水は無限に湧き出す魔道具があるから交換は必要ない。もみ殻が出たら、どんどん撒いちゃっていいよ。他の畑から出た売り物にならない野菜や未熟なものを集めてきて餌として与えるんだ。出来るだけ色々な種類の餌を食べさせるようにしているだ」


「ナツメちゃん、餌用の小松菜畑に行こうよ」

「はいです!」


 マサモリ達は超促成栽培の小松菜畑へ向かった。すぐに育つ分、土の栄養がすぐに失われる。小まめに肥料を追加しないと生育が悪くなってしまう。


「その日の余り野菜等の様子を見ながら足りない場合はここの小松菜を餌として与える。超促成栽培の畑はすぐに栄養が無くなるから収穫したら肥料を撒いておいてね。それに超促成栽培の野菜は魔力が低いから魔力が濃い餌を入れてバランスを取るといい。例えば糠を餌に混ぜたりしてね」


「わかったです」

「あとは……、鶏の糞を乾かす為に風魔法で乾燥させるのも重要。そのまま放っておくとすごく臭くなる。天候に合わせて乾燥させて。日が強くて風も強い日はしなくてもいいけど、雨の日はしっかり乾燥させないとすぐに臭くなる。そこらへんの手を抜くと鶏が病気にかかりやすくなるんだ。病気になった鶏を探すのも仕事だね」


「病気ってどうやって見分けるですか?」

「普段とは違う行動や状態になったらだね。鼻水流していたり、顔がやたら腫れてたり、奇声を発したり、せきをしたりと色々。とにかく変だなと思ったら俺達に教えて。慣れるまでは俺達が手伝うから少しずつ覚えていこう」


「ううう、了解です」

「がんばろー!」


 ナツメは餌を撒くたびに雄鶏にちょっかいを出された。ここの住民で初めて弱い生物を見たので雄鶏も環境の変化に戸惑っているのかもしれない。いや、ただ弱いからいじめているだけだろう。


 出島村には普人が三人居るがナツメの様に魔法や武術を教える事は禁止されているので危険な作業はしていない。


 一週間もすると鶏達もナツメに慣れ始めた。いたずら好きの雄鶏だけはまだナツメにちょっかいを出すがナツメも慣れてきたので平気になった。


 マサモリはナツメが仕事に慣れるか少し心配していた。しかし泣き言を言いながらもすぐに馴染んで安心したのだった。



「あたしも生卵に挑戦するです」


 強化魔法を使えるようになって、ナツメは柔らかい物ならエルフと同じ物が食べられるようになってきた。しっかりと成長していっている。一年もしない内にエルフと同じものが食べられるようになるだろう。


「おお、怖いって言ってたけどついにチャレンジする気になったか」

「超大陸では生卵を食べたら食中毒になるです。でもここだとみんな美味しそうに食べるです。ズルいです。それにこの卵はあたしが取って来た卵です。だから食べるです!」


「ナツメちゃん、がんばって」

「とりゃあああですー!」


 ナツメは気合を入れて卵を割った。しかし案の定、卵の殻が上手く割れなくて黄身の部分に殻が付いてしまった。


「ううう、失敗です」


 ナツメは慣れない手つきで箸を使って殻を取った。


「醤油です」 


 最初は色が黒くて気味悪がっていた醤油も食べ慣れたようだ。醤油を入れて卵を混ぜる。黄色に醤油の黒っぽさが混じる。それを温かいご飯にかけた。ナツメはそれを少し緊張しながら口に入れた。


「美味しいです!」


 見ているだけでこっちも食べたくなってきた。マサモリはご飯をおかわりして自分も卵かけご飯にして食べた。美味しい、美味しすぎる。


 卵とご飯だけでこんなに美味しいだなんて素晴らしすぎる一品なのだろうか。魔力のノリも素晴らしい。やはりケージ飼いの鶏の卵よりも平飼いの鶏の卵の方が美味い。


 小さい頃は気が付かなかったがケージ飼いでは卵の魔力に鶏のストレスの気配を感じた。それが平飼いの卵にはない。農薬をふんだんに使って育てた野菜は使わない野菜に比べて微かな苦みが出る事がある。その感じだ。マサモリは鶏に感謝しながら卵かけご飯を食べた。



 強化魔法の訓練を始めるとナツメの魔力が綺麗に流れるようになってきた。体の方もしっかり栄養が行き渡ってきて発する魔力も健康的だ。


「そろそろ剣の訓練を初めてもいいかもしれない。ナツメ、どうだ?」

「やった! やったです! あたし剣が振りたいです!」


「よっし、今日は剣の訓練だ」

「わーい。あたしドンドン強くなっているです。嬉しいです」


「ほっほっほ。ナツメちゃん、剣の道は険しいぞ」

「はい! シラギク師匠」


「うんうん、師匠に任せておけば一端の剣士に育ててあげようぞ。ほっほっほ」


 シラギクが小芝居をしながらも真面目に教え始めた。時折、要領を得ないが基本はしっかり抑えている。マサモリはナツメと並んで木刀を振った。


「体をこう、キュッとすると剣がシュッっと出る」

「脇が空かないようにする。脇が空くと剣に力が伝わりにくくなるんだ。剣速も落ちるし威力も落ちる。余計な体力を使う事になる」


 シラギクの説明が上手く伝わっていない時はマサモリが補足を入れた。それでもシラギクの説明で大まかには伝わっているようだ。


「武術は術理だ。人の体の最適な動かし方を頭と体で理解する。一つの武器を極めるだけで他の武器もそれなりに使えるようになる。要するに体の効率的な動かし方を覚えるんだ」


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