90
「うちの村に来ないか」
「うう、分かりました。あたしはあなたの奴隷になりますです」
「奴隷じゃなくて、普通の村人だよ。これでも俺は村長なんだ」
「嘘です! 子供が村長なはずありません。どうせ、お金持ちのお坊ちゃまかなんかなんです。ううう、どうせ行き場がないので好きにするです」
「まあ、村長って言っても仮なんだけどね」
「やっぱりです! どうせ村長しかいない村です。子供村長です。うう、捨てないで」
「ここに居たら攫われるよ。うちの村はほとんど人が居ないけど穏やかな場所なんだ」
「うう、もう村長の愛人でいいです。でもぶったり蹴ったりは止めてください。嫌いです。みんながあたしに痛い事するです」
「その代わり村に来たらもう他の場所には行けないよ。隠し村みたいなもんだからね」
「お貴族様に飼われるって事ですか。どうせ、あたしなんてすぐに飽きて売り払うんです! ううう」
「そんな事はしないよ。普通に村人として働けば良い」
「どうせ優しくするのは最初だけです。あたしが馬鹿だからって騙そうとしているです。新しいおもちゃが見つかったら、あたしなんて捨てるんです」
「うーん、困ったな。文化の違いなのかな。どうしよう」
「え、諦めるんですか!? す、捨てないでーっです! 何でもするから連れて行ってください」
「捨てないって。分かった分かった、とりあえず落ち着こう」
「あたしには行く場所が無いってわかっているのにひどすぎるです。こんな所に置かれていかれたら、あたしなんて数日で攫われるです。もしくは魔物のお腹の中です」
「とりあえず日が暮れる前にここから移動して森の方に隠れよう。俺はもう一回食べ物を集めてくるからここで大人しくしてるんだよ?」
「わかったです。旦那様の言う事を聞くから置いてっちゃ駄目です。早く帰ってきてくださいね。こんな所に一人で置いてかないでです」
マサモリは再び市場へ行って持てるだけ食料を持った。大荷物を抱えたマサモリを見て少女は顔を赤くしていった。
「旦那様凄いです。さっきもなんかでっかい魔物と戦ってましたけど本当はすっごく強いんですか? 愛人大勝利ですか!」
「旦那様じゃなくて村長かマサモリって呼んで。これからこの荷物とそこに居るみんなを積んで移動するよ。空を飛ぶから怖いようだったら目を瞑っていてね」
「えっ、その怖い石像とか氷像ってお仲間なんですか? えっ、私も石像にされるんですか。そんな事するなんて信じられないです。うううう、うええええーん」
「敵の攻撃でそうなっちゃってるけど、後でたぶん治るよ」
「たぶんってなんですかー!?」
マサモリは不安定な少女を放っておいて燃えさかるシラギクと風の柱と化したエルフを結界で囲った。この二人を結界で囲うと魔力の消費量が多いので手早く移動しなければならない。
異変を察知した二人は結界を破ろうとして出力を魔法の出力を上げた。すぐに石像と氷像を積み込んで星外生物の殻を載せる。最後に少女を結界ごと移動用結界に乗せた。
「お願いだから石にしないでー!」
「よし、飛ぶよ。怖かったら目を瞑っていてね」
マサモリは移動用結界に隠蔽魔法をかけると近くの森を目指して出発した。
「うあああああああ!」
少女の悲鳴が結界内のみに木霊した。
マサモリ達は適当な森の中に降り立った。すっかり静かになった少女を横目にシラギクと風属性のエルフを少し離れた場所に置いた。そして全体的に隠蔽結界をかける。
ヒデヤスが大人しくしているので強制帰還の時間制限はしていないのかもしれない。マサモリが持ってきた白パンを齧っていると少女が微かに動いた。
「うう、夢でしたか。とんでもない夢を見たものです。あれ、ここは外です。地面です」
少女が寝ぼけている。地面を這いつくばるようにして地面の感触を味わっている。まるで犬の様に顔を地面に近づけて臭いを一生懸命嗅いでいる。
「地面です。これは土です」
少女は手が汚れるのもお構いなしに土を掴んだ。そして土の感触を楽しんでいる。結界の中はシラギクが燃えているので明るい。外には光が漏れないように調整しているので遠くから光で見つかる事もない。
「これは木ですか。おおー、木です」
今度は木に注目しているようだ。一生懸命木を触っている。マサモリはそんな少女を微笑ましく眺めていた。
「旦那様、ここは村ですか?」
「旦那様じゃなくて、マサモリって呼んで。ここはさっきの町から離れた森だよ」
「マサモリ様はもしかして大貴族様です? それとも王子様? あたしは外の事は良く知りませんが凄く強いですよね」
「様はいらないってー。普通の村長一族だよ。それなりに強いかもしれない」
「そうですか。どうせ奴隷になるなら強い人が一番です。でででも、だからと言ってあたしの心まで自由に出来るとは思わないでくださいです。すぐ捨てるのも駄目です。絶対です」
「普通に村人やってくれればよいよ。村長も持ち回り制で数年で交代するだろうからね」
「ええ! ずっとじゃないんですか? あたしは使い捨てですか! ひどい! 信じてたのに!」
「捨てたりしないって」
「うう、やっぱりあたしなんて道具以下の存在なんだ。遊んだらすぐにポイなんだです」
「そんな事より、ほら、白パン食べる?」
「ううう、酷い人です。食べますです」
少女は白パンを受け取ると一生懸命千切って食べた。二人は白パンを食べながら燃えるシラギクを見ている。
「あの焚火はやたら大きいですね。枯れ枝を集めないといけないですか?」
「ああ、それは仲間だよ」
「ブォファ!」
少女が白パンを噴き出した。少女がまじまじと観察すると炎の中心に人型の形が見えた。
「あわわわわわわ、ううううううううう。あたたたたったしは、薪にしてもそんなに燃えませんです。ひいいいいいい、お見逃しをー。石も火も嫌です」
「彼女は今戦っているんだ。応援してあげてくれ」
「炎と戦っているんですか!? 応援ってなんですか!? 怖いよー、お外は怖いよーー」
少女は叫び疲れると糸が切れたかのように寝入った。マサモリは燃え続けるシラギクと竜巻となったエルフを見ながら一夜を過ごした。




