80
監視をしているエルフとは別に戦いに備えて武器を作っている者もいる。前回の星外生物で現地の武器が壊れてしなったので武器を自作する事にしたのだ。
武器作成担当のエルフは素手で巨石を削って武器を削り出している。知能が低い獣人は未だに石の武器を使っている。ゴブリンも石斧等を使っているので石の武器はそこまで不自然ではない。
不自然ではないが見られたら頭の悪い種族だとは思われるかもしれない。下手な武器を持つよりも素手で殴った方が強いのだが武器があれば攻撃の範囲が距離的にも面積的にも増える。
重量術も使えるようになるで使えない武器を持っただけとは違い、一石二鳥である。地盤がしっかりとした場所で戦えれば良いが砂漠のど真ん中で戦う事になった場合、重りがあった方が安定するし攻撃の威力も上がる。
その分、重すぎると沈んでしまうので程々の重さに調整しているのだ。武器担当のエルフは急いで人数分の武器を作っている。武器の形を大きめに荒削りして後は武器を配られた本人が自分なりに調整する。
シラギクもマサモリも柄の部分の作成に失敗して当初考えていたよりも短い武器になってしまった。石は思ったよりも繊細でひびが入るとすぐに広がってしまう。
不器用なマサモリは柄の部分を壊さないようにするだけでいっぱいいっぱいだった。刃の部分はほとんど切り出したままの状態になった。石包丁にすら到達していない、石に柄を付けただけの鈍器になった。
石は長い年月を経ているので魔力の通りが良い。重い割に脆い事を除けば金がかからない良武器だ。
『襲撃だ!!』
マサモリ達が監視をしていると広域念話が届いた。マサモリは襲撃を受けている町へ駒鳥を向かわせた。鳥が到着するまで時間がかかるので現地にいるエルフが使役する鳥から襲撃場所の音を拾って念話に流した。
『超大陸人が町を襲っている!』
「エルフがいるぞー!」
マサモリを含めて全員が心臓を鷲掴みされたかのような驚きに血の気が引いた。
「エルフを捕まえろー!」
「なに! エルフだと!? どこだ!」
「エルフに逃げられる前に捕らえろ!」
唖然とするマサモリだったが駒鳥は全速力だったのでもう現地に着いてしまった。いくら森が近くにあるとはいえ、砂漠に鳥は不味かったかと今更ながら後悔した。
今から呼び戻したら自分達が居る場所がばれてしまう。現地にいたエルフはとっくに逃げ出しているのでそれとは逆方向に駒鳥を誘導しようか、マサモリは焦りながらもそう考えた。
しかし襲撃をよく見るとおかしい事に気が付いた。超大陸人が乗っている巨大な砂船が町の結界と衝突して火花をあげている。どちらも人と亜人で構成されている。星外生物は見当たらない。エルフと呼んでいるが誰もエルフを見つけられてはいないようだ。
彼らは純粋に人と人とで争っているのだ。しかしエルフが居たと言っていたのでマサモリは目を皿にしてエルフを探した。駒鳥を通してなので魔力視が出来ない。
歯痒い気持ちでいっぱいになりながら探したがエルフは見つからなかった。耳を変化させているのは当たり前なので普人と姿は変わりがないはずだ。
しかし不審な行動をすると姿は一緒でも目立ってしまう。確実には分からないが絞り込む事は出来ると思っていたがさっぱりわからない。エルフを探して叫ぶ声が町中を行きかった。
『現地にエルフがいるのか!?』
巨大な砂船の結界が徐々に町の結界を押していく。普通なら防衛側である町が圧倒的に有利なのだが町の兵士はエルフと聞いて浮足立っている。
中には持ち場を離れてエルフ探しを始めた者まで出る始末だ。そもそも雇われた兵士の中でまじめに町を守ろうと思っている人はいなかった。兵士は階級的には下っ端だが特権階級でもある。
町人や外から来た旅人よりも強い権限を持っているので弱者から金を奪う事が出来る美味しい仕事なのだ。袖の下の為にやっているので町を守ろうだなんて気概の有る者は皆無である。
『あいつだ! あいつが最初に叫んだんだ』
忍者エルフが微かだがマーキングを付けた。
『ドワーフだ!』
巨大な砂船に乗るドワーフが何度も繰り返しエルフが居ると叫んでいる。その顔には狂気が浮かんでいるが、しっかりと観察すれば目の奥には知性の輝きがある。
「お前達の町はエルフのせいで滅ぼされるのだ! ぐひゃひゃひゃひゃ。はやくエルフを出せ! そうすれば町は見逃してやる!」
口から泡を飛ばしながらドワーフは叫喚した。次第にその狂気は辺りを包んでいく。町の結界は押されては居るがまだ十分機能している。
全ての兵士が本気ではなくともまじめに持ち場に着けば持ちこたえられるのだ。しかし巨大な砂船から発せられる殺気と狂気によって気圧されされてしまっている。決着は付いていないのに兵士達が持ち場を放棄して一斉に逃げ出した。
「エルフを差し出せー!」
巨大な砂船の結界が完全に町の結界を押し込んだ。ガラスが割れるような音がして町の結界が消滅した。巨大な砂船はそのまま城壁を突き破って、町へと入り込んだ。
そして家々の上を航行した。巨大な砂船の重みと結界で足元の家々が潰れていくが砂船はお構いし無しに町の中央付近にある町で一番立派な建物へと向かった。
建物に正面衝突するようにぶつかると、襲撃者がロープを伝って続々と降下した。町は阿鼻叫喚の地獄と化した。町の兵士は我先にと金持ちの家を襲った。
彼らは元々非常時の為に警備の手薄な金持ちを調べていたのだ。町の兵士が暴れ回る中、襲撃者も負けてはいない。彼らは町に火を放った。それもわざわざ、町の最外縁部にあるスラムへ向かってだ。
彼らは本能的に、経験的にそうするのが混乱を呼ぶのに最適だと知っていたのだ。テントとは言えないようなボロ切れの中から人々が沸いて出た。そして狂乱状態で店や金を持っていそうな人へ襲い掛かった。町は大混乱に陥り、外敵との戦いよりも住民同士の戦いが始まった。




