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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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 どうしてこうなったんだろう。マサモリは黒船の正面に立ちながらそう思った。


 事の発端は東京村の村人が揃ったので神奈川村に手伝いに向かった事から始まる。黒船の進路方向にあった神奈川村では右に左に大わらわだ。

 マサモリは神奈川村に着くとすぐさま村人の避難を手伝いはじめた。


『皆殺しは悪手という意見があった。船は追い払え。各自意見もあるだろうがこの決定に従ってくれ……』


『黒船から偵察と思われる戦士が出てきている。戦闘予定地はどこになる?』

『戦闘予定地は東京湾の千葉村と神奈川村の中間付近だ。そこなら下は樹海なので多少被害が大きくなっても問題ない。それに敵の戦士が逃げた時に対処しやすい。エルフの森に入らたら安全すぎて逃げられてしまう可能性がある』


 神奈川村の海岸線には神奈川村の村長と守備隊、傭兵隊等が集まっている。助っ人に来ていたマサモリは樹海面から樹海に落ちた超大陸の戦士を捕らえる部隊に組み込まれた。


 最初は村人の避難が終わったら帰るつもりだったが村長に熱烈に引き留められたのであっさり了解してしまった。樹海に落ちてくる敵を捕らえるだけで良いので気楽な仕事だ。


 千葉村と神奈川村の中間地点の樹海面上に神奈川村の村長が到着した。マサモリ達は真下の樹海で待機している。後は黒船が近付いて来るのを待つだけだ。


 マサモリ達より少し離れた樹海に一人のエルフが隠蔽魔法を使って黒船に近づいていた。彼は自分こそがエルフの森の王に相応しいと確信していた。そんな自分を差し置いて超大陸の代表と話し合うなど不届き千万。


 輝かしいエルフの歴史に名を残すのは自分しか居ない。黒船如き自分の話術でなんとでもなる。彼はそう考えている。


『私がエルフの森の王だ!』


 念話でそう言い放つと彼は黒船の前に踊り出た。

 驚いたのは彼以外のエルフである。


『なんてことしやがった! 戻れ!』

『口だけ爺! お前状況がわかっているのか!?』

『私に任せておけ。エルフの森の王としてガツンと言ってやる』

『無理だ! 止めろ!』


 黒船は目の前に一人の男が飛び出してきたので動きを止めた。黒船の甲板に人が湧き出してきた。そして彼らは目の前の男を凝視した。緑の髪で中肉中背の普人だ。どこにでもいる何の変哲もない男のはずなのに彼はあまりにも堂々としていた。


 黒船から解除魔法と探索魔法が続けざまに放たれた。解除魔法で変身や幻術を解除して探索魔法で緑髪の男以外が周りにいるのかを確認するのだ。普通の解除魔法だったら抵抗できただろう。


 しかし緑髪の男は解除魔法を受けると耳だけが少し伸びた。ブレペイス達は息をのんだ。しかしエルフとバレたのに彼は全く動揺していない。威風堂々たる姿で黒船を見つめている。この様子にブレペイスは歓喜したが同時に一切の油断を排除した。


 探索魔法では他の人が居ない事が確認された。ブレペイスは男の反応を固唾を飲んで見守った。


『くっくっく。助けて……』


 そう、口だけ爺は口だけだった。顔には出していないが超大陸の人を目の前にすると怖くて何もできなくなってしまったのだ。どうして俺がこんな目に、と口だけ爺は天を呪った。


『言わんこっちゃない』

『おい、これどうするんだよ?』


 口だけ爺を止めようと前進していたマサモリと守備隊は困惑しかない。幸い、距離が離れていたお陰で相手の探索魔法の範囲内に入らなかったが飛び出してしまったからにはもう見つかっても変わりがない。


『なんでか弱いお年寄りを助けないんじゃ! 敬え!』


 口だけ爺は混乱して支離滅裂な事を言っている。彼の奇行に慣れてしまった付近の住民は彼を放置する事で彼をやり過ごしてきた。その弊害が現在の状況を生み出している。


『とにかく回収しよう』


 変な事を口走られても困るのでマサモリはそう提案した。守備隊も賛同して樹海面下から口だけ爺を回収しようとする。


 樹海面上では口だけ爺とブレペイスの睨み合いが続いていた。一種の小康状態に陥りつつあったが、突然場が動いた。樹海面化から木の枝が無数飛び出して口だけ爺を雁字搦めにすると徐々に樹海の中に沈んでいった。黒船の乗組員は現状を把握しきれずに驚いている。


『回収完了。村長、次はどうしますか?』

『あわわわ。どどどどうしよう。こんんなんん想定外』

『村長落ち着いて!』

『よよ良く考えたらさあ。私も人と話す自信がなかったわ。マサモリ君お願い。お願いします!』


『えっ』

『村長が小鹿の様に震えていらっしゃる! 助けてマサモリ殿!』

『土壇場になって、このへたれっぷり。さすが村長!』

『んー。これは更迭!』


『うーん、なんか駄目そうなので……俺が行くぜ!』

『すごい! これが長老族!』

『村長、目の覚まして!』


『村長は帰ったらマサモリ殿の爪の垢茶ですね』

『へぇ、いくらだよ?』

『危なくなったら助けに行きます!』


『エルフの森の王の出番かな?』

『黙れ』


 マサモリは仕方なく樹海面上に飛び出した。



「ここから先は我らが領域。これ以上進もうというのなら強制的に排除する。立ち去れ!」


「こんにちは、エルフ諸君。私の名前はペロ・ブレイペイス。虐げられし君達を救いに来た者だ。可哀想に、こんな辺鄙な場所で生活していただなんて。さぞ辛かっただろう。だがっ! 私が来たからには安心したまえ。私が君達を安住の地へ連れて行ってあげよう!」


 黒い巨大な船の船首に仁王立ちしている巨体の男の名はペロ・ブレペイス。彼の正面には木の葉の青々とした海原にエルフの少年が佇んでいる。少年の名前は源エルダー白川真守(しらかわまさもり)


「断る!」


 ブレイペイスはマサモリの返答に口角を上げた。


「こっちが下手に出てやったのに調子に乗りやがって。いけ! 野郎ども!」


戦いの火蓋が切って落とされた。


 ブレイペイスの号令で黒船から戦士達が飛び出してきた。戦士達は樹海面に降り立つと一直線にマサモリに向かった。


 不器用な者は樹海面に飛び降りたが上手く足元の木の葉の海に着地しきれずにそのまま木の葉の海に沈んで行った。エルフの戦士達が樹海の中から樹海面上に飛び出してきた。


「水よ!」


 マサモリが両手を正面にかざすと手から黒船を包み込むような巨大な水の塊を放った。黒船の球形状の結界に当たると水の塊は砕けるように消え去った。


『相手の結界は相当な強度だ』


 マサモリは念話で付近のエルフに警告した。船からは普人の他に獣人が飛び出してくる。


『皆殺しは駄目だぞ。出来るだけ生け捕りにするんだ!』

『超大陸の人間だ! 獣人も初めて見た。怖ええよ』

『ひぃい』


『捕まったら奴隷にされるぞ! 絶対に捕まるな』

『訓練通りにやれば大丈夫だ! アイツらは薄汚いゴブリンだと思え!』


『腑抜けた事をしたら後で名誉村長だぞ』

『村長は嫌だ!』


 勇ましく構えたエルフの戦士達の情けない念話が響き渡る。完全に腰が引けているが超大陸の話しを知っていれば当然の反応なのかもしれない。


 超大陸ではエルフはほとんど奴隷にされてしまった。エルフ不足を解消する為に黒船が来たのだとエルフ達は考えていたしそれは当たっていた。


『ドワーフだ!』

『え、ドワーフ』

『マジか!? ドワーフか?』


『いた! ドワーフだ』

『よし! 殺せ! ドワーフは殺せ! 髭を燃やし尽くせ』


 彼らの崩れかけた士気は数人のドワーフの登場で回復した。エルフは離れた距離から各々が魔法や弓で攻撃をする。


 身体能力ではエルフは普人にも獣人にも劣るので距離を保って戦うのが正道だ。しかしエルフの魔法はどれも黒船の結界を超える事はできなかった。


『結界から出た奴を狙え』


 結界への攻撃を諦めて接近してくる戦士達へと照準を合わせる。本来なら結界元を叩かなければならないのだが結界は強度が高く、後回しにせざるえない。


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