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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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7


 エルフの森の某所では小さい会議室に多くのエルフが集まっている。時間はないが何かしらの決定を出さなければならない。考える時間も決意を固める時間も足りなさすぎた。


「皆殺しだ!」

「みんな奴隷にされる!」

「落ち着け。軍師の計略と占い師の占いを聞いてからだ」


「緊急時にこれ程多くの軍師、占い師が集まってくれた事にまず感謝しかない。事態は急を要するので早速意見を述べてくれ」

「占いでははっきりとした未来は見えなかった。ただ皆殺しは不味い。それだけは感じた」


「私は船ごと破壊する事を考えたが軍師の勘がそれを止めている」

「わしの占いでは人を皆殺しにした方が良いと出た」

「理由は分からないが追い返すのが吉と出た」


「皆殺しにした未来が見えた」

「殺すに賛成だがこの選択がエルフにとって大きな意味をなすようだ」

「もう駄目だぁ。エルフが滅びる未来が見えた」


「逃げた方が良しと出た」

「そもそも迷いの結界が効かない相手を倒せるのか?」

「何故、迷いの結界が通じないのだ!」


「今なら全力で行けば勝てるはずだ!」

「そうだ。超大陸の人々を皆殺しにしてしまえば良い。今ならできる!」


「静粛に! 数千年前の出来事を思い出してほしい。一つの行動の成否が判明するまでにこれだけの時間がかかったのだぞ? それもまだ結論には至っていない。我々は冷静に歴史を信じるしかないと思うのだが」


「皆が超大陸から来た船をさっさと始末したいのは分かる。私だってそうだ。だが短絡的な行動が間違いだという可能性があるならそれは回避しなければならない」

「どうすれば……」


「私達はまた戦わなければならないのか」

「死にたくない。家族が攫われる事を考えると冷静でいられない」


「ふう、こんなに意見が分かれるとは相当大きな節目となるのだろう。消極策なら追い払う、積極策なら全て燃やす。現地には村長級が三人居る。もう少しで神奈川村の人口密集に到達するので時間はない。多数決と言いたい所だが皆殺しにリスクがあるようなので追い払う事を優先にしようと思う」


「異議有りだが軍師や占い師を信じるしかない」

「これだけ意見が合わない事も珍しい。しょうがないか」

「エルフの森の存在が超大陸にばれたなんて……」


「戦いたくないよ。でも逃げ場もない」

「樹海の深層に行くにはまだまだ力が足りない」

「みんなで放浪の生活をするか?」

「それこそ相手の思うつぼよ」


『皆殺しは悪手という意見があった。船は追い払え。各自意見もあるだろうがこの決定に従ってくれ……』


 海上にいる誰もが船を排除したかったが辛うじて理性的に話しは進んだ。時間がなかったので討論する暇がなかったのが大きいかもしれない。今後の事を考えて一同は頭を悩ませるのであった。



「ふざけるな!」

 ヒデヤスは小さく呟いた。何故船ごと燃やしてしまわないのか。これではみすみすエルフの森の在り処を教えるだけだ。ヒデヤスは怒りで頭がどうにかなりそうだったが数度深呼吸をして心を落ち着かせた。軍師や占い師の決定なら仕方ない。これがエルフにとって最善なのだろう。


 ヒデヤスの苦悩などお構いなしに黒船から樹海の中に超大陸の戦士達が投下され始めた。


 黒船からロープを伝って戦士達が樹海の中に降りて行った。先程から探索魔法が頻繁に使われているがエルフの森の中なので危険な生物の多くは排除されている。図らずにしも人を降ろすのには最適の場所になっている。


 彼らは三人一組になって南北方向に徐々に広がっていった。船は西方向に向かって微速前進した。


 ヒデヤスは不味いと思った。もうすぐ船はエルフの森の西の海岸線に辿り着いてしまう。そこには壊した民家の跡が多くある。探索魔法ならなんとか誤魔化せるだろうが人がじっくりと調べたら違和感に気が付いてしまう。


『どうするの~?』


 妻アオイのゆったりとした念話にヒデヤスは落ち着きを取り戻した。


『展開している戦士達を探索魔法に引っかからない範囲で端から攫っておこう。どうせ追い払う事になるんだ。多少は間引いてしまっても良いだろう』


『黒船から偵察と思われる戦士が出てきている。戦闘予定地はどこになる?』

『戦闘予定地は東京湾の千葉村と神奈川村の中間付近だ。そこなら下は樹海なので多少被害が大きくなっても問題ない。それに敵の戦士が逃げた時に対処しやすい。エルフの森に入らたら安全すぎて逃げられてしまう可能性がある』


『黒船に先行して西の海岸線に行く。そこで守備用のゴーレムを私が南、アオイが北に移動させ待機させる。その後は戻ってきて敵の偵察隊を南北から少しずつ攫って変身させた分身に取り換えていく。捕らえた偵察隊は……殺しちゃって良いか。でも血の匂いがすると困るから凍らせておこう。奴らが西の海岸線から樹海に入ったらゴーレムを海岸線に再配置する』

『了解だよ~。腕が鳴るなー』


 ヒデヤスとアオイは西へ駆けだした。


 ゴーレムを黒船の偵察隊から察知されない南側に配置するとヒデヤスは片っ端から偵察隊を攫って入れ替えた。黒船が西の海岸に到達したら偵察隊を回収するだろう。その時に船に回収される前に分身爆弾として使う。


 変身させた分身では黒船の結界内に入れないからだ。その後は後ろから攻撃して東京湾に追い立てて挟み撃ちにする。最後は囲んだ後に東側を手薄にすればそちらの方向に逃げて行くだろう。


 黒船が樹海とエルフの森の境界に到着し、黒船は動きを止めた。ヒデヤスは息を止めてその動静を見守っている。探索魔法が届ない範囲の探索隊を分身に入れ替えたが人が居る痕跡が見つかったのか不安になる。


 そのまま西の樹海に行かずにエルフの森の探索をされたら不味い。ヒデヤスはその場合、すぐに分身を爆発させて船を西へ追い込むつもりだ。


 ヒデヤスに取って時間がゆっくりと流れていくのを感じる。汗が滲んできた。


「このまま探索は続ける!」


 しばらくすると黒船から伝令が走った。ヒデヤスはほっとしたがすぐに疑問が沸いてくる。態々こんな所で危険を冒さなくてもいいのではないだろうか。いや、周辺に何かあるという確信があるのか。そうだとすると非常に不味い。


 ヒデヤスの心拍数が徐々に上がっていく。確信があるのならばすぐに仕掛けた方が良いのではないか。

 しかしヒデヤスの心配は余所に黒船は西の海岸線を越えて樹海に入っていった。


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