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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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 探索魔法では樹海の浅瀬の上層部分しか届かなかったが逆にそれが功を奏した。樹海深の深さが増すとそこに生きる生物の強さが増す。魔法が届かないお陰で樹海深の深い場所にいる生物を無駄に刺激せずに済んでいるのだ。


 探索魔法を使うたびに周りの生物が集まってきて結界を破壊しようとするが結界は未だに樹海の生物を寄せ付けず船を守りきっている。


 ブレペイスは魔法使いからあがってくる探索魔法の成果を見て大きく舌打ちをした。この程度の精度ではエルフ達が居てもそれがエルフなのか識別する事が困難だ。


 船には樹海に潜る時の為に凄腕の冒険者が何人も乗っている。今回は初航海なので樹海の探索よりも船の試運転の側面が強い。だから冒険者の数は当初の予定に比べて少なかった。


 乗組員の多くはブレペイスの手の者だが結界魔法使いと冒険者は国から送られてきた人材だ。しかしブレペイスとしては冒険者なら使い捨てにして良いと思っている。しかしこの程度の探索精度では使い捨てにするにしてもまだ早いと言わざる得ない。


 冒険者もブレペイスが自分達を捨て駒にしようと考えている事は承知している。だから荷物持ち兼いざという時の囮として奴隷を数人引き連れてきた。それだけこの仕事の報酬は魅力的だったし、樹海で何かしら拾えれば少しちょろまかすだけで結構な金になる。


 いくら初航海だからといっても数日すれば魔法使い達も慣れてくるだろうとブレペイスは思っていたが未だに結界の操作すら覚束ない様子にかなり腹を立てている。


 探索魔法も未だに精度が上がっていない。もし魔法使い達が国からの派遣でなければ既に何人かは殴り殺されていただろう。


 魔法使い達はそんなブレペイスの考えを察知していた。しかし結界を維持するので精一杯で探索魔法の使い手すらも結界の維持に当てている始末だ。むしろ船を守っている事に感謝されて当たり前だとすら思っている。


 しかしブレペイスに今の状況をオブラートに包んで報告しても魔法使い達の無能を罵るだけで話しにならない。


 魔法使い達は国から派遣されただけあって優秀な人材であったからブレペイスに対する不信感は増すばかりであった。


 脳なし熊、そんなあだ名が魔法使い達の間に広まっていき魔法使い達の目に彼に対する嘲笑の色が濃くなっていく。しかし船の空気が一触即発になる寸前に船を取り巻く状況が一転した。


 航海予定日数が半ばに差し迫ってきた日の事だ。ミピピッシ号は今までにない重力差を感じると共にそれを抜けると急激に重力が弱くなった。


 重力が弱いのは樹海深度が浅い場所になった証拠だ。魔法使い達はやっと一息つける状況になってほっとした。

 


 探索魔法の報告を見たブレペイスの中にあるのは激しい怒りだった。今までになくしっかりとした報告に手抜きをしていたのではないかという疑惑が浮かび上がってくる。


 ブレペイスは人に馬鹿にされるのが一番嫌いだ。心底嫌悪している。魔法使い達の首を一人ずつ引き抜いてやろうかと思っていた程度に腹を立てていた。しかし不愉快な魔法使い達もまだ使い道がある。


 ブレペイスは樹海の探索が本当の意味でやっと始まった事に安堵した。そして次からはもっとしっかりとした魔法使いを集めなければという思いが強くなった。


 魔法自体は誰でも魔力があるので使えるが結界魔法の強力な使い手はごくわずかだ。亜人のほとんどの種族は魔力が低い。亜人の中では獣人系がもっとも多い。しかしほとんど強化魔法しか使えないし、一族の長かそれに準じる立場でなければ多様な魔法は使えない。


 トレント、ドライアド、エルフは亜人の中でも珍しく魔力が高い。しかしトレントは意思疎通できる個体が少ないしドライアドは生まれた場所から離れられない、もしくは離れるのを極端に嫌がる。


 残りのエルフは乱獲された結果、今では絶滅の危機に瀕している。魔力の高さと人口を考えると一番妥当なのは人になる。人は自分達の事を普人と呼んで亜人とは違う特別な存在だと自称している。亜人達からは猿人だと思われているがそう呼ぶと人は激怒する。


 要するに結界魔法を使える人材を雇うのには途轍もない金がかかるという事だ。人という種族の中でも魔力の強弱の振れ幅が大きい。その中で優秀な者のみが結界魔法使いになれる。結界魔法使いは町や城の防衛に必須なので彼らはどこへ行っても引く手あまたなのだ。


 数が多ければ価値は下がるし、数が少なければ価値は上がる。ブレペイスも数人の強力な魔法使いを連れてきているが彼らが船の結界を維持しきれるかと問われると難しい。


 何よりブレペイスが許せないのは結界魔法使い達のプライドの高さにある。自分に逆らう存在を許容する事が出来ない、ブレペイスはそんな男なのだ。


 怒りを鎮める為に彼は探索魔法の報告書に神経を集中する事にした。


 探索魔法の効果範囲は約十から百メートルである。場所によっては木の葉の層しか映らないが見晴らしが良い場所では百メートル程度まで探索する事が可能。


 現在航海している場所の樹海深は不明。しかし重力の状況から樹海では浅瀬と呼ばれる場所で樹海深は約三百メートルと予想されている。


 その他に多数の魚類と生息する木の太さ等が記されている。これらの資料は専門家に分析されて、より詳細な樹海の状況が分析される。


 ブレペイスは自分の欲する情報が無いかを丹念に調べた。しかし見つからなかった。探索魔法使いが隠している可能性もあるので後でしっかりと確認しなければならない。


 ただ、収穫が完全に無い訳でもなかった。ゴブリンと思われる人型の魔物らしき生物が見つかった。ゴブリンが居るという事は逆説的に人が生存できる環境があるという事だ。


 ゴブリンは生息場所によって様々な進化を遂げているが基本的には弱いのでゴブリンが居るという事はそれ以上の強さを持つ人が生きられるという証明になる。


 逆にゴブリンが居ない場所は危険な可能性がある。環境が危険なのか、そこに住む生物が危険なのかはわからないがゴブリンは鉱山のカナリヤ的な存在なのである。


 ゴブリンの住処や持ち物でゴブリンの知性、強さ等を逆算する事も可能で一種の物差しでもある。


 ブレペイスは魔物狩りを好んで行っていたのでそういった知識は人一倍あった。彼は次にあがってくる情報を期待しながら久しぶりに良い気分で眠りにつくのであった。


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