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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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 マサモリはラギドレットで手に入れた不確かな地図を片手に町を落とす順番を確認し直した。最初の町を落としたらすぐに他の町へ移動しなくてはならない。今日だけで町を五つ以上落とす予定なので魔力の配分にも気を付けなくてはならない。そして遠征が進むにつれて当初の計画とのずれが生じるだろう。その時の優先順位を考えた。


 今回の遠征はラギドレット軍と魔人軍を使った大規模な追い込み漁だ。町を落とす事は重要だ。しかしそれ以上に星外生物に寄生された人の殺害が最優先である。今回の作戦では超大陸西部地域に潜む星外生物を完全に排除する事は不可能だ。


 マサモリが落した町の結界を操作し、町に侵入した星外生物を逃さないようにする。そうすれば時間はかかるが、長期的にはかなりの数を減らせるだろう。とにかく思い立ったら行動だ。星外生物が組織的な動きを起こす前に殲滅する。


「俺は行く。遅れるな」

「はっ」


 マサモリは乗っていたアイアンブルトンから飛び降りると地面を強く踏み込んだ。地が陥没して放たれた矢のようにマサモリは走り去った。他のツリーマン達がそれに続いた。




 トマスケスはマサモリ達が走り去ってしばらくすると大きく肩を落とした。しかしすぐに姿勢を正した。トマスケスは冷静に分析する。ズァザンは気が付いていないようだが、サーモはベヒモスと同等かそれ以上の化け物だ。ベヒモスと対峙した自分だから分かるとトマスケスは思った。


 ラギドレット王が即座に降伏した事についてトマスケスは大きく失望していた。ラギドレット王が不甲斐無いのなら自分が敵を排除して王に成り変わるつもりだった。しかしそんな思いはサーモを一目見て霧散した。


 トマスケスが見たサーモは知性を持った化け物だった。ただの化け物だったらいくらでもやりようがある。だが知性を持っていては駄目だ。人が化け物に優る唯一の武器すら目の前のサーモには通じないとトマスケスは理解した。だからトマスケスはサーモに殺されないように忠実であろうと決意した。


 そしてラギドレット王の聡明さも理解した。降伏こそが最高の判断だった。そしてついさっき確信した。サーモにとって自分達は無価値な存在だ。サーモが望む機能が果たせなければ自分もズァザンのようになる。次は簡単に殺されるだろう。


 魔人軍なんてまやかしだ。サーモとツリーマンこそが魔人軍だ。それ以外は飾りに過ぎない。そしてそれを理解できている者がほとんど居ないように感じられた。ズァザンはよく言っていた。群れは強い者に率いられるべきだと。


 トマスケスもそれにある程度同意する。ただし、力だけではなく知性も重要だとトマスケスは思っている。だが強い者にも限度がある。象が蟻を率いるだろうか。象は蟻を必要とするだろうか、とトマスケスは嫌な想像を巡らせた。しかし人生経験が豊富なトマスケスはすぐに答えを出す。


 サーモにとって我々は必要な存在だ。象は象同士の喧嘩に蟻は使わないだろうが、身の回りの世話くらいはさせるかもしれない。賢い象なら蟻でも何かしらの使い道を見い出すだろう。今回ラギドレット軍が招集されたのは幸運ともいえる。


 少なくとも今はラギドレット軍が必要だと分かるからだ。ならばサーモが望む機能を果たすのみだ。トマスケスはそう思うと少しだけ気が晴れた。むしろ、別方向へ向かったズァザンがまた反抗しないか。その方が不安になってきた。


 トマスケスはズァザンに嫌われているが、トマスケスはそこまでズァザンを嫌っていない。ズァザンは単純で頭は良くない。しかし超大陸では珍しく義理難い男だ。あと十年も経験を積めば、優れた指揮官になるだろう。


 そして性根もトマスケスが今までに見てきた貴族や盗賊に比べると随分とましだ。トマスケスは生きているズァザンと会えるのだろうかと悩んだ。




 マサモリと忍者エルフは最初の目的地に辿り着いた。町は臨戦態勢でマサモリ達が姿を表わすと同時に魔石砲弾が放たれた。だが遅すぎる。魔石砲弾が着弾するよりも早くマサモリ達は町の結界に到達した。


 走ったきた勢いそのままで結界に手を当てると結界はガラス細工の様に砕けた。マサモリは一直線に結界石の設置場所へと向かう。忍者エルフ達は手筈通りに散開した。ラギドレットにある町の結界石の設置場所は忍者エルフ達によって発見済みだ。分厚い鋼鉄の守りもマサモリ達の前では意味をなさない。マサモリは町の結界石に触れると設定を変更した。


 結界が再構築されたが、多くの人々には影響はない。しかし少数の人が圧し潰されるように倒れ込んだ。そこへ忍者エルフ達が二人一組で襲い掛かる。超大陸の強者でも立ち上がれないような重力波を浴びても星外生物に寄生された人間は起き上がった。


 忍者エルフは不用意には近づかず、距離を取って寄生された人間を排除していった。ラギドレット城での戦闘のお陰で寄生された人の行動パターンは読めている。マサモリは今後の為に魔力を温存して、忍者エルフが戦うのを見守った。


  町にはブレペイスのような強力な個体は居なかった。居た場合にはマサモリが結界で囲って戦わなければならない。しかしその心配は杞憂に終わった。居ても超大陸にいる強者が一回り強くなった程度だった。


 その程度なら忍者エルフが一対一で勝てる。しかし念には念を入れて二人一組で星外生物と戦った。もしブレペイス並の個体が大勢いたら、超大陸はあっという間に滅んでしまうだろう。



 町に居た星外生物を排除し終えると未だに反抗を続ける貴族や盗賊団を排除していった。多くの盗賊が町から逃れようとした。しかしマサモリの張り直した結界から逃れられた者は居なかった。


 敵を排除すると、マサモリはラギドレット城にしたのと同じ宣言をした。そして町の反応を観察した。町の住民に広がるのは困惑と恐怖だった。マサモリは騎兵隊が来るまで、貴族の家等を漁って魔石を回収した。


 しばらくするとトマスケス率いる騎兵隊が到着した。そしてトマスケスが危険だと認定した貴族や有力者、盗賊を排除しようとした。しかしその多くが反抗していた者だったので既に排除済みだった。


 町の掃除が終わるとマサモリ達は次なる町へと出発した。トマスケス達は再び北上し、マサモリ達は亜人騎兵部隊の向かっている町へ一足早く向かった。


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