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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
209/211

209


 準備が整うと忍者エルフの半数以上を使い魔にした犬と共に送り出した。人に寄生した星外生物を超大陸西部地域から逃さないように忍者エルフには山脈部へ向かってもらう。使い魔のにした犬はその周辺の町を探索させる。


 星外生物間で長距離の通信が出来るなら、危険を察知した星外生物は今いる西部地域から逃れようとするだろう。そこを一網打尽にするつもりだ。超大陸にきている他の忍者エルフにも人に寄生している星外生物の存在を伝えた。


 人に干渉しなかったせいで、超大陸に派遣されていた別の忍者エルフは人に星外生物が寄生している事に気が付かなかったようだ。何人か盗賊を殺していればその中に寄生された人が居たかもしれない。慎重さが還って仇となる場合もあるようだ。


 星外生物の識別方法も未だ結界内にいた場合に指定できる程度だ。結界は中には強い影響力を持つが、外への影響力は弱い。マサモリは手元に球形状の結界を作り出した。そして星外生物の存在を探る様に結界へ命令した。しかし球の形は変わらない。


 次に結界に人を探すように指定した。すると球からいくつもの棘が生まれ、ウニの様になった。棘の数は人の数を、棘の長さは距離を表している。次にもう一度星外生物を指定したが結界は球形状に戻っただけだった。まだ情報が足りなすぎる。もしくは周りに星外生物が居ないようだ。


 こちら側から星外生物を探す方法は頓挫した。しかしこちら側が識別出来なくても星外生物側の殻に対する執着心は強い。殻を持っているだけで星外生物に寄生された人間が反応する事が分かった。


 小石程度の大きさの殻でも数キロ先から探知できるようだ。殻が大きくなると距離も増えていく。星外生物にとって殻は武器にもなるし宇宙船にもなる。我々が思っている以上に大切なものなのだろう。



 マサモリは送り出した忍者エルフに小さく分けた殻を持たせた。寄生された人が町に居る場合は町の結界の操作権を奪ってしまえば済む。しかし町の外で活動している場合は探すのが非常に困難だ。


 だから忍者エルフには囮になってもらって寄生された人を釣ってもらう。なりふり構っていない強引なやり方であんまり好みなやり方ではない。しかしそれ以上の名案はマサモリには思い浮かばなかった。



「サーモ様、配置に着きました」

「うむ。騎兵隊は北へ、亜人騎兵隊は北東へ向かう。魔人軍は南だ。騎兵隊は移動力を活かして大きく時計回りに、亜人騎兵隊は小さく時計回りに移動する。魔人軍は南下したら反時計回りに町を片っ端から征服しろ。俺は攻城戦の時に合流するから一時間に一回は報告を入れろ」


「はっ」

「……」

「おい、ズザンだったか? 返事は?」


 小気味の良い返事をする騎士騎兵隊隊長のトマスケスとは違い、亜人騎兵隊隊長のズァザンはむっつりと押し黙っている。切れ目が印象的な犬人のズァザンは今の状況に心が着いて来ていないようだ。


 ラギドレット城主への忠誠心が強かったのだろう。すぐに転ぶ者とは違って超大陸では珍しいタイプの人間のようだ。マサモリ的には好感度が高い。すぐ裏切る者よりも忠誠心がある人の方が信用できる。



 マサモリは騎獣に乗るズァザンに向かって手を軽く振るった。ズァザンの鎧がセミの抜け殻のようにあっさりと砕け散り、ズァザンだけが十数メートル先まで転がった。残された騎獣は恐怖で凍り付いている。吹き飛ばされたズァザンは自分に何が起こったか一瞬分からなかったようだ。自分の状況を悟ると目に驚愕と死の恐怖が浮かび上がった。


 マサモリはズァザンを人差し指でさし、次のその人差し指を軽く下げた。ズァザンが不可視の大槌で圧し潰されたように大地に叩き付けられた。それでも上からの圧力は止まずに、ズァザンの骨が折れる音が響いた。


 遠目で見ていた騎兵隊の中に緊張が走った。兵士から感じられる感情は敵意よりも恐怖が強い。そして感情の色はすぐに怯えへと変化していった。



「申し訳ありません! あれでもズァザンは使える男です。どうか、ご慈悲を」


 煌びやかな鎧を纏った騎士隊隊長のトマスケスが、焦りを顔に出さないように努めて冷静を装い進言した。壮年のトマスケスは騎士というよりも貴族のような男だが、実力は確かだ。纏う鎧は華やかだが機能性を兼ね揃えている。


 逆にズァザンの鎧は無骨で実用性を重視している。ズァザンはまだ若く、血の気が多い。少し見ただけでもそれが手に取る様に分かった。魔人軍にも同じ様な奴が居たなとマサモリは思った。こういうタイプには力を示すのが効果的だ。


 騎兵隊の兵士はマサモリの方を向く事すら出来ずに圧し潰されているズァザンを見つめるしかない。


「……そうか」


 長い沈黙の後にマサモリが下げた人差し指を上げるとズァザンがふわりと浮かび上がった。マサモリが手を半回転させて人差し指を手前に引いた。すると浮かび上がったズァザンが引き寄せられて騎獣の上に戻された。


 見えざる力が霧散するとズァザンは突然投げ出されたかのように重力に引かれ、騎獣の上に落ちた。先程の重力波で折れた腕を庇いながらも這いずる様にズァザンは騎獣に乗った。


「サ、サーモ様に忠誠を誓います。寛大な処置に感謝します」

「俺にとってお前達は多くいる兵の内の一人にすぎない。ラギドレット城主が賢明だったからお前達は無事でいられたのだ。以後は慎め」

「はっ」


 魔人軍から何故か歓声が沸き起こった。ちょっとやりすぎたかなと思っていたマサモリであったが、魔人軍の反応は理解しがたい。しかし理解出来ないが成果は上がったようだ。軍勢にピリッとした緊張感が生まれた。


 どうせ見せしめをするなら素早く効果的にやりたかった。本当はもっと下っ端にやる予定だったがズァザンがその機会をくれたので実行しない訳にもいかなかった。


「出発!」

「「「おー!!」」」


 恐怖をかき消すかのように威勢の良い声が響き渡った。移動速度の違う軍勢が三つ、各々の進行向へと向かって行く。


 ズァザンに何人かの兵士が集まり、簡単な応急処置が施されていく。マサモリはその様子を見て、それなりに人望はあるんだなと思った。


「隣町までどれくらいかかる?」

「はっ、一回の休憩を挟んで六時間程度かと」


「その次の町へは?」

「七時間程度です」


 マサモリは昨日の内に打ち合わせをした内容を思い出しながら答えた。


「分かった。俺達は先に行って町を落としておく。お前達は俺達が落した町を占拠し、不穏分子を殺せ。山賊になりそうな奴らは皆殺しだ。処理が終わったら次の町へ向かえ。俺達は亜人騎兵隊が向かう先の町を落とす。お前達の仕事は町に居る不穏分子の選別と殺害だ。不穏分子の判断はお前の考えによる部分が大きい。恣意的な行動は自分に跳ね返ってくると思え」

「了解しました」


 マサモリがトマスケスの肩を叩くと、トマスケスは笑顔で答えた。しかしトマスケスの体に流れる魔力は素直だ。マサモリが肩を叩いた瞬間、トマスケスの魔力は猫を見つけた鼠の様に竦み上がった。


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