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ブレペイスの顔が驚愕で強ばった。魂を使った攻撃は強力で対抗手段がほとんど存在しない。例え身体能力で劣っていても攻撃能力が上回っていれば戦いに勝てる。ブレペイスの驚愕とは別に斧は独自の動きでマサモリに襲い掛かった。
マサモリは魂の炎が宿った手で迫りくる斧を掴み取った。そしてまだ魂が宿っていない片手の結界に斧を入れた。先程と同じようにマサモリの手に魂の炎が宿った。するとマサモリは微笑みを浮かべて斧の嵐の中に飛び込んだ。マサモリが斧に触れると巨大斧に宿る魂がマサモリの手に燃え移る。魂の炎を失った斧は一瞬で消し炭に変わった。
「戻れ!」
ブレペイスが叫んだ時にはもう半分以上の斧がマサモリによって破壊されていた。マサモリは手に宿った炎を見せびらかすように正面で両手を合わせた。炎が合わさって一層大きく勢いを増した。マサモリがゆっくり両手を左右に広げるとそれに合わせて炎が大きくなっていった。
「ブレペイスを倒す為に力を貸してくれ!」
「糞餓鬼が! 何を言っているんだ!?」
「俺が君達の仇を討つ。ブレペイスを倒したら君達を天に帰そう」
マサモリの両手の炎が意思があるように揺らめいた。
「俺達は敵同士だがブレペイスはやりすぎた。人の魂を燃やすのなら自分の魂を先に燃やすべきだった。自分は危険を犯さずに仲間を使い捨てるなんて人のする事じゃない。お願いだ。どうか力を!」
マサモリが魔力を籠めて言霊を使うと斧に宿る魂が震えた。そして多くの魂が斧から抜け出し、マサモリの炎へと飛び込んでくる。
「ありがとう。君達の魂に静寂を」
「意味の分からん事をゴチャゴチャと抜かすなぁ!」
ブレペイスが手元に戻した斧をマサモリに向かって投擲した。斧はマサモリの手前でピタリと止まると中の炎がマサモリの炎に合流した。
「戻れえ! お前ら、俺の言う事を聞け!」
ブレペイスは斧に宿した魂の炎を自分の体内へ回収しようとしたが炎はブレペイスの意に反してマサモリへと向かう。ブレペイスの体内に宿る炎もマサモリの方へ向かおうと動き出した。しかしブレペイスは雄たけびをあげて魂の炎の移動を食い止めた。
マサモリが集めていた炎が赤から青に変わった。そして一瞬の内に炎は水へと変わった。
「魂は自分の意思で燃やしてこそ本当の力を発揮する。強制させた力では本来の輝きには及ばない」
マサモリの前に集まった水がいくつもの小さい水球に分かれ、一直線にブレペイスへと向かって飛来した。ブレペイスが体内にある魂の炎を激しく燃やして水球を切り払った。しかし水球はブレペイスの燃え盛る斧を透過し、ブレペイスの体を何事もの無かったかのように通り抜けた。
「っかひゅ」
言葉にならない悲鳴をあげてブレペイスは倒れ込んだ。体は無傷だが水球によって魔力の大半を奪われたブレペイスは死に体だ。倒れ込んだブレペイスを浮遊する水球が囲い込んだ。ブレペイスの目だけが激しく揺れ動く。水球達は徐々にブレペイスへと近づくていった。
ブレペイスは断末魔すらあげる暇もなく、目を大きく見開いて死んだ。ブレペイスの死を確認すると水球達がマサモリの周りに集まった。マサモリは慈しむように両手を天に向かって捧げた。マサモリの手によって持ち上げられるように水球が空へと上がっていく。水球は虹色の軌跡を残しながらマサモリの結界を通り抜けて、天へと向かっていった。
『星外生物が魂攻撃を使ってくるからみんな注意してくれ。結界内にいる星外生物は確実にここで殺す』
マサモリは結界を解除すると念話をした。
『助けは要らなかったみたいだね』
シラギクがいざという時の為に結界の外で待機してくれていたようだ。
『結構危なかった。本気出しちゃったから後で確実に怒られる。まあ、いいけどね』
マサモリはマグマの中で燃えずに残った殻部分を回収した。魂の力を使えば簡単に消せたのだが魂はもう解放してしまった。ちょっと勿体ない事をしたなと思いつつも誠実な行動を心掛けないと折角取り込んだ魂がそっぽを向く可能性がある。あれでよかったんだとマサモリは自分自身を納得させた。
魂は強力だが使い方を間違えれば使用者を傷付ける諸刃の剣だ。ブレペイスが人格者で魂達が自ら進んで命を燃やしたのなら懐柔は不可能だった。魂の力は増し、マサモリは敗北していたかもしれない。ブレペイスは魂を便利な武器代わりに使っていたので魂の本質を理解していなかった。
マサモリはブレペイスと周りの取り巻きを倒したがラギドレットの中には他の星外生物が残っている。マサモリは再びサーモの姿に変身した。そして今回の結界で使った結界石を拾い集めるとラギドレット城の結界石へ向かった。
『ボタン、ありがとう。後は俺がやる』
『はっ! 私は星外生物の排除に向かいます』
マサモリは結界石の操作をボタンと変わった。結界の強度をより高めて、中にいる星外生物の魔力を吸い取る。実際には、星外生物は魔力を持っていないので星外生物の寄生する人の魔力を奪う事になる。
マサモリは一切の慈悲も無く、完全に殺すつもりで魔力を吸い上げた。魔力の低い体に寄生した星外生物は絶叫をあげて、塵となった。人体が塵と化しても殻の部分だけは残った。
マサモリは超大陸に居る間は常に魔力を抑えて行動していた。しかし今回は違う。抑えていた魔力を開放すると、ものの数分で結界内に居た星外生物は塵となった。
マサモリは星外生物の消滅を確認した後も魔力の吸収を続けた。念の為に暫く魔力の吸収を続けたが何も起きなかった。マサモリはラギドレット城の結界石から手を離すとすぐに外へ飛び出した。
戦闘を停止している魔人軍を囲う様にマサモリは結界石を投げた。結界石が配置されるとすぐに結界を張る。一瞬で魔人軍を囲う巨大な結界が完成した。
「敵が潜入している可能性が生じた。結界内を探知するから動くな」
マサモリは結界に魔力を注ぎ込んだ。ラギドレット城にあった結界石は長い年月をかけて完成された結界だった。方向性を少し変えるだけで中の住民の魔力を吸収できたのは元の結界が強力で完成されていたからだ。
マサモリが魔人軍を囲うように展開した結界は強度だけを比べたらラギドレット城の結界よりも遥かに硬い。しかし柔軟性や応用力ははるかに劣っている。
急造の結界でも中の対象を選んで魔力を吸収できるが出力はラギドレット城の結界と比べると天と地ほどの差がある。単純に結界内の全員の魔力を吸収する事は可能だが、そんな事をしたら魔人軍が全滅する。
マサモリは魔人軍の中に星外生物が入り込んでいないか探った。