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マサモリは彼らが樹海を踏破してきたのだと理解した。逃げる事に集中すれば超大陸の戦士でも樹海を生き延びれる。勿論、深い場所に入らなければの話しだ。食料を仲間から奪って少数だけが生き延びたのだと思っていてたがそうではない。
マサモリの小細工はほとんどブレペイス達に通じていない。つまりブレペイス達は自力で樹海を超えてきたのだ。
マサモリは真剣にブレペイス達を観察した。彼らは魔物化していない。つまり星外生物に寄生された後に樹海を放浪したのだろう。人のままで樹海を探索すればいくら食料を解呪しても樹海に体を慣らしていないブレペイス達の体には魔物化の兆候が見られるはずだ。エルフ並みの魔力がないと樹海では無事にいられない。
しかし彼らには魔物化の兆候がない。そうなると高確率で星外生物の寄生が先だったと推測できる。そして星外生物が寄生すると魔物化しにくくなる可能性もある。しかしそれらの可能性は一旦横に置いておく。兎に角、ブレペイス達が正攻法で樹海を踏破してきた事に変わりはない。
マサモリは超大陸では絶対に本気を出すなと言い含められていた。そしてマサモリ自身もそれに納得し、本気を出すつもりは微塵もなかった。しかしマサモリはサーモに変身するのを止めた。サーモの体の表面が光り輝きながら剥がれ落ちる。光が収まるとそこにはサーモの時に比べて随分と小さくなったマサモリの姿が現れた。
「うおおおお! お前あの時の糞餓鬼かぁ! まさかこんな所でお前と会う事になるとはな。お前には奴隷なんぞ生温い! 特別にぶち殺してやる! ぐひゃひゃひゃ! お前らぁ、命を捨てろ!」
ブレペイスの仲間達が一瞬で業火の如く燃え上がった。いや、違う。彼らは物理的には燃えてはいない。魔力視をしているマサモリには彼らが己の魂を燃やしたのがはっきりと見えた。魂を燃料としてくべる事で普段の数倍以上の出力を出せる。しかし魂を燃やしたらそれが尽きた時に人は死んでしまう。一度燃やしたら途中で止める事など出来ない。強力な反面、十分も持たずに彼らは死に絶えるだろう。
マサモリは強化魔法に今までとは比べ物にならない量の魔力を注いだ。そして結界装甲を纏う。ブレペイスは命を燃やして一時の力を得た仲間を丸飲みにした。そのままブレペイスはその場に居た仲間を全て平らげた。ブレペイスの体内では燃え狂う魂が眩い輝きを放っている。
マサモリが剣を上段に構えてブレペイスに肉薄する。ブレペイスは巨大な斧を真横に振り払った。マサモリの剣とブレペイスの斧がぶつかり合う。ブレペイスの斧が欠けてマサモリの剣が斧に潜り込む。しかしすぐに剣の動きが止まった。刃を失った斧にはそれを補う様に光の刃が生まれた。光の刃からは燃え盛る魂の輝きを感じる。
マサモリはすぐに剣を手元に引いた。剣の魂の輝きに触れた部分が溶けるように歪んだ。マサモリは剣を投げ、投げ込まれた別の剣を引き抜いた。ブレペイスが咆哮をあげた。巨大な斧全体を魂の炎が包みこんだ。その隙にマサモリは近くにあった剣を引き抜いて自分の周りに浮遊させた。
ブレペイスが浮遊する剣などお構いなしに上段からマサモリに向かって斧を振り落とした。マサモリが深く踏み込んで下段から剣をすくいあげた。ブレペイスの斧が弾き返される。しかしマサモリの剣は溶けるように折れ、剣の柄まで溶け落ちた。すぐに別の剣を手元に引き寄せてマサモリはブレペイスに追撃した。
ブレペイスは斧を振るうが先程の攻撃に比べると一段落ちる。巨大な斧はブレペイスの手を離れて真上に飛んだ。マサモリは踏み込んで右手でブレペイスの左足に掌底を放った。ブレペイスの右足が弾けるように爆散した。しかしブレペイスの右足があった部位には魂の輝きが光り、残った足と繋がった。そしてすぐに骨が再生し始めた。
マサモリは次は左手で掌底を放とうとしたが、真上に飛ばしたはずの巨大な斧が真下にいるマサモリへと向かって落ちてきた。マサモリは避けられずに左手で受けた。物理的な攻撃は受け切ったが魂の刃がマサモリの魂を傷付けた。斬りつけられた左手から魔力が噴水の様に噴き上がった。しかしマサモリが左手を拭うとすぐに魔力の漏洩は止まった。
ブレペイスが嘲る様に笑うと巨大な斧がいくつも複製された。その斧の一つ一つに燃えさかる魂が籠められている。マサモリが周囲に浮かべていた剣を一斉にブレペイスに飛ばした。ブレペイスが作り出したいくつのも斧は一つ一つに意思がある様に剣を弾いた。剣は斧に触れると一瞬で溶けた。
剣と斧がぶつかり合っている隙にマサモリは両手に球形状の結界を展開した。
「死ね!」
ブレペイスの斧が時間差でマサモリへと向かう。マサモリは巨大な斧の嵐の中に身を投じた。斧がぶつかってもマサモリの結界装甲によって弾き返される。しかし斧がぶつかった場所からは魔力が血の様に漏れ出る。そこへブレペイスの攻撃が加わる。
マサモリはブレペイスの攻撃を避け、個々に襲い掛かかってくる斧に向かって手を伸ばした。しかし斧は互いに互いを補い合いマサモリの手を回避した。斧に触れられる度に傷が増え、マサモリの魔力が漏れ出す。
ブレペイスは自分の勝利を確信した。ミピピッシ号を奪われ、樹海を逃げ回っていた時の怒りは昨日の事の様に思い出せた。もっと先になるだろうと思っていた復讐が自分から転がりこんできて、ブレペイスは自分こそが世界の中心だと確信した。
マサモリの体から徐々に魔力が抜けていく。普通の人間なら一度かすっただけで魂が砕け散る威力だ。勝機が徐々に失われていく中、マサモリは冷静に戦い続けた。斧は人の人格が宿ったかの如く多彩に動く。斧には人の魂が籠められているのだから当然だ。だから斧の軌道には個人の癖が出る。
マサモリは斧の癖を把握した。これが各魂にあった得意武器だったら把握は出来なかった。しかしブレペイスは斧に統一してしまった。肉体という殻から剥き出しになった魂は純粋さの塊だった。最適な行動を最短で行う。だから読み易い。簡単に軌道が予測できる。
マサモリは自分を斬りつけてようと飛来する斧を避けた。この斧がこの軌道をするのは三回目だ。マサモリが斧の中心部に手を伸ばした。マサモリの手が斧に触れると斧はマサモリの手にある球形状に結界に吸い込まれた。
マサモリの手に魂の炎の輝きが宿った。