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魔法等の攻撃を無視して走ったマサモリであったがすぐに近衛兵によって行く手を塞がれた。近衛兵は装備、練度共にラギドレット城で見たどの兵士よりも優れている。磨き上げられたフルプレートメイルを身に纏い、各々が最高品質の武器を持っている。
巨大な鉄板の様な盾を持った近衛兵の数人が前に出て並んだ。強化魔法をかけた盾を並べだけで新しい壁が作り出された。そして後ろの魔法使いによって結界が張られる。生半可な攻撃は完全に無意味だろう。しかしマサモリには吸魔石がある。
吸魔石をばら撒くように撃ち出すと結界は穴だらけになった。そこへ巨大化させた木の腕で薙ぎ払った。結界が破壊され、並の強者以上の力を持っている近衛兵が簡単に吹き飛ばされた。シラギクもマサモリに続いて棍棒を振り回す。近衛兵達がおもちゃの様に吹き飛んだ。マサモリ達は近衛兵を吹き飛ばしながらも先へ進んだ。
しばらく進むとラギドレット城の結界石がある部屋の前に辿り着いた。結界石が収まっている部屋は既に固く閉じられている。この部屋は玉座の間よりも厳重に守られている。部屋の入り口を閉めると六面が数メートルの厚みのある鋼鉄の箱となる。内部には魔法使いが複数居て、結界を張りながら強化魔法で分厚い鋼鉄の箱を強化している。どんな強者であってもこの守りを突破するのは困難だ。
『シラギク、よろしく』
『まっかせてー』
シラギクが巨大な棍棒に炎を纏わせた。そして扉に突き当てた。炎が扉の表面を溶かして行く。マサモリは熱波を感じながらも集まって来た近衛兵を処理していった。シラギクが力を籠めると燃えさかる棍棒が徐々に扉にめり込んでいった。赤く熱せられ、溶けた鋼鉄が足元に滴り落ちる。その熱で足元の通路も歪み、溶け始めた。
シラギクの棍棒も扉と同じように溶け始めた。それでも気にせずにシラギクは棍棒を突き押した。棍棒を突き押した部分を中心に鉄が赤熱していく。しかし内部に居た魔法使いも外の状況を察した様で中から氷を発生させて扉が溶け落ちるのを防いだ。
マサモリは部屋を覆う結界を破壊し、鋼鉄の壁に力を籠めて掌底を押し当てた。箱の内部に衝撃が伝わると内部からの冷却が止まった。シラギクが鉄棒程度の大きさになってしまった棍棒を扉に押し当てた。そして手に炎を纏わせて赤熱する扉に正拳突きを放った。シラギクの腕が徐々に扉に飲まれていく。シラギクは片手を扉に突き入れ、もう片方の手で泥の様に溶けた扉を掻き分けた。
『届いた! マサモリよろしく!』
シラギクは力強く腕を引き戻すと空いた穴の先に部屋の中の光景が見えた。マサモリは赤熱して溶け落ちる扉に冷気を放った。溶けた鉄が突然冷やされて辺りは蒸気で包まれた。近付いて来ていた近衛兵も突然の蒸気に足が止まった。
シラギクは扉が冷やされたのを確認すると拳を打ち付けた。すると簡単に扉にヒビが入った。再びシラギクが拳を振るうと扉は簡単に砕け散った。マサモリとシラギクが結界石のある部屋に入るとそこには衝撃波で吹き飛ばされた魔法使いが倒れていた。
だが死んではいない。強い衝撃を与えすぎると結界石まで傷付いてしまう恐れがあったのでマサモリは手加減していたのだ。巨大な結界石を中心にしていくつもの結界石が規則正しく配置されている。マサモリは一番大きい結界石を台座から外した。するとラギドレット城を覆っていた結界が霧散した。
マサモリは結界石に魔力を籠めると再び結界石を台座に戻した。するとラギドレット城に再び結界が復活した。ラギドレット城内では突然結界が消えて、恐慌状態に陥っていた。しかしすぐに結界は復活した。人々が安堵したのは束の間、すぐに体の不調に気が付いた。
人々は馴染みのない感覚に恐怖した。体から体温が徐々に奪われ、強い倦怠感に襲われる。しばらくするとまともに立っていられる者は少数で、多くの人々が地に伏せた。マサモリの張った結界は内部にいる者の魔力を奪う結界だった。
結界は魔力が少ない者には影響を与えず、魔力が多い者の魔力を奪う設定だ。エルフとハーフエルフだけは除外している。マサモリ達を排除しようと奮戦していた近衛兵も魔力を失い倒れた。
ラギドレット城と大砲や魔法を打ちあっていた魔人軍は結界の再発生を確認すると攻撃を止めた。そして注意深くラギドレット城に起こっている現象を確認した。城壁に居た兵士達が徐々に倒れていく。そしてしばらく経つとラギドレット城の中からの人の動く音が止まった。
ハーフエルフが扮する奴隷部隊から歓声が上がった。しかし魔人軍の大半は狐につままれたような顔をしている。
マサモリは結界石を守るように結界を張った。壁の鋼鉄を利用してゴーレムを数体作り、結界を守らせると玉座の前へ向かった。ラギドレット城の玉座の間には魔法を妨害する様々な仕掛けが施されていた。玉座の間での暗殺を防ぐ為だ。魔法が使えなければ近衛兵に守られている王を暗殺するのは容易ではない。
玉座の間は敵が城に侵入した時の最終防衛拠点にもなる。その為、魔法でまとめて破壊されないように魔力を拡散するように作られている。勿論、魔石砲弾等にも効果がある。しかし衝撃までは防げない。
だが魔石の爆発を小さく抑える事が出来るので魔石砲弾を玉座の間に打たれても普通の火薬よりも効果を抑えられる。しかしマサモリ達には魔力妨害は通じない。エルフの森ではエルフの長所である魔法を封じられないようにする為に長い間研究がされてきたのだ。
マサモリとシラギクは玉座の間の扉を蹴破った。扉と共に扉を抑えていた近衛兵が吹き飛ばされた。玉座の間の中はマサモリが張った吸魔力結界の影響が少ないようだ。マサモリに向かって爆弾や矢が放たれた。しかしマサモリが一歩踏み込むと王を守るように隊列を組んでいた近衛兵達を軽々と飛び越え、天井を蹴って王の背後に舞い降りた。
シラギクも同様に着地し、棍棒を突き立ててから王の周りにいる近衛兵に向かって大きく手を振るった。衝撃波によって近衛兵達が壁まで吹き飛ばされる。二人には玉座の間の魔法阻害が全く効果を及ぼしていなかった。強化魔法をかけたマサモリ達に強化魔法をかけない近衛兵が敵うはずもない。
マサモリはラギドレット王の首を掴み上げて宣言した。
「降伏せよ」