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ラギドレット王の思惑とは裏腹に魔人軍は真っすぐにラギドレット城へと辿り着いた。魔人軍は陣も張らずにラギドレット城の前方に設置した簡易陣地へと向かう。誰もが疑問に思ったがする事は変わらない。ラギドレット城から持ち出された大砲が一斉に火を吹いた。
魔人軍が運んできた移動用の大砲と違い、ラギドレット城の大砲は最新の物で大きく射程も長い。魔人軍の大砲の射程に入る前にラギドレット城の大砲は一方的に攻撃が出来た。大砲の発射方法は飛距離を稼ぐ為に魔法式だ。
砲弾は魔法で発射するタイプと火薬で発射するタイプの二種類がある。魔法発射タイプは魔法で撃ち出すので火薬式より飛距離が出る。しかし命中精度は最悪だ。狙って当てるには命中精度が低すぎる。弾幕として主に使われている。
逆に火薬式は射程が短い。しかし命中精度は安定しており、戦場の主役となっている。ラギドレットの簡易陣地からは強化魔法をかけられた砲台から魔法発射タイプの砲弾が放たれた。命中精度は悪いが十を超える砲台から撃ち放たれた魔石砲弾の爆風が魔人軍を襲った。
しかし魔石砲弾の直撃が無かったせいか、簡易陣地からの砲撃は結界によって阻まれた。魔人軍はなおも前進を続ける。ラギドレットの騎馬部隊は早くも出番があるのかと思い、気を引き締めた。しかし魔人軍の行軍はゆったりとしたもので突撃の気配は全く感じられない。
ラギドレットの簡易陣地からの一方的な砲撃を魔人軍は受け続けている。じりじりと魔人軍は迫りくるが攻撃時の殺気が感じられない。ラギドレットの騎馬部隊は今か今かと突撃のタイミングを待ち構えている。しかし魔人軍が唐突に止まった。
両軍の距離は砲撃を魔法式から火薬式を使うまでに近づいていた。魔石砲弾がいくつも命中しているが魔人軍の結界を壊れない。魔人軍が止まると突如地面が盛り上がり、中から砦が沸きだした。砦は徐々に大きくなって塔の様に高くなった。魔人軍は歓声をあげると砦に入っていく。
そして砦を囲う様に五つの結界石が置かれた。遠目で見ても分かる程の高品質な品だ。その一つ一つが町の結界石に使用される。すると結界石をなぞる様に壁が生えた。砦には魔人軍が運んできた大砲が設置される。大砲の射程が短いなら高さでそれを補うという事なのだろう。
魔人軍の大砲が火を噴き、互いが相手の魔石砲弾を相殺しようと魔法と矢が飛び交った。こうなると簡易陣地では魔人軍の攻勢に耐えられない。結界石で固められた砦を落とす程の火力は野戦用の陣地にはなかった。長引けば長引くほど、ラギドレット側は不利になる。
ラギドレット側の指揮官は素早く見切りをつけると簡易陣地を放棄し、大砲を引きずってラギドレット城へと退却した。魔人軍の砲撃が逃げる部隊を狙う。そして足の遅い歩兵部隊の結界を破壊した。だが後一歩の所で騎馬部隊が歩兵部隊を庇った。魔人軍は砲撃を続けたがラギドレットの部隊は射程外へと逃れた。
魔人軍は砲撃を止めた。すると魔人軍の砦が再び成長した。砦は雨後の竹の子の様に更に高くなった。その間にラギドレットの野戦部隊はラギドレット城へ滑り込んだ。魔人軍の砲台が火を噴いた。高さが増した事で砦からの砲撃はラギドレット城へと届いた。しかしラギドレット城からの反撃で全ての砲撃が結界に当たる前に爆発した。
魔人軍は気にせずに砲撃を続けた。ラギドレット城からは迎撃の魔法や矢、魔石砲弾が放たれたが魔人軍の砦には届かない。魔人軍が砦を作った場所はラギドレット城からは火薬式の砲弾が届かない場所だった。ラギドレット城では用意していた火薬式の魔石砲弾から、急いで魔法式の魔石砲弾への切り替えが行われた。
火薬式の砲弾では届かないが魔法式なら届く。しかし命中精度が低いので効率の悪い打ち合いとなった。魔人軍は塔を高くして魔石砲弾をラギドレット城へと届かせた。しかし小さな砦の砲撃ではラギドレット城の結界を壊すには火力不足だ。
ラギドレットの砲弾が魔力発射に変わると、ラギドレットの攻撃は徐々に魔人軍の砦を捉え始めていた。時間が経てば経つ程、魔人軍は不利になっていくだろう。魔人軍の攻撃はラギドレット城の結界の破壊しようとする攻撃から、ラギドレット城から放たれる魔石砲弾の迎撃に変わっていった。
魔人軍とラギドレット城が大砲を撃ちあっている時、マサモリ達は上空にいた。最初は魔人軍が攻めている西門とは反対の東門から攻め入るつもりだった。しかしそれでは華がないという事で急遽上空から結界を破壊する案になった。
現在マサモリは大量の吸魔石をドリル状にして手に纏わせている。そしてラギドレット城へ向かって下降している。空気は冷たく、結界を張らなければ服が凍ってしまう寒さだ。これから戦いが始まるのにマサモリはそこまで緊張していなかった。何故ならラギドレットの戦い方は既に見ていたし、マサモリ達を脅かすような強敵は前回の時点では居なかった。
忍者エルフによってラギドレット城の内部構造は暴かれ、結界石の場所や王族の居場所も把握している。エルフやハーフエルフの救出作戦の方が大変だ。マサモリは派手に暴れてラギドレット城の者を屈服させるだけだ。突入部隊では一番楽な作業かもしれない。
マサモリはラギドレットの人々が上空から迫るマサモリ達に気が付かないか注意深く観察していた。しかし人々の視線は戦いが起こっている西側に釘付けになっていて空を眺める者など皆無だ。折角、空から侵入するのに誰にも見られなかったら空に上がった意味が無くなってしまう。少し演出が必要かなとマサモリは悩み始めた。
『シラギク、このままじゃ空に上がった意味が無いからなんか演出してくれない? 程々に注目が集まって強そうな感じで』
『任せて!』
シラギクはそう念話すると魔力を籠めた。派手さと破壊力では火魔法が一番だ。マサモリは目立った場合に備えて結界の防備を固めた。シラギクが火球をラギドレット城の結界に向けて放った。火球は結界に触れると花火の様に咲いた。音と光と衝撃で西側を見ていた人々が一斉に空を見上げた。
マサモリが吸魔石を結界に捻じりこむと結界は砕けた。それに合わせてシラギクが炎の衝撃波を演出した。ラギドレット城の住民から悲鳴が上がった。流星の様に結界を破壊していくマサモリは既に三つ目の結界に吸魔石を潜り込ませていた。
派手に結界を破壊するとラギドレット城から攻撃魔法が放たれた。機転の効く者がマサモリを迎撃しようとする。しかし破壊力が圧倒的に足りない。マサモリはそのまま全ての結界に穴を開けてラギドレットの中心部、ラギドレット王城へと舞い降りた。忍者エルフ達は王城へは向かわずに四方八方へ散った。彼らには彼らの仕事がある。マサモリは予定通りに結界石の設置場所を目指した。