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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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 ブレペイスがミピピッシ号の船長に選ばれた時に喜びのあまり雄たけびをあげてしまったのは仕方ない事だった。その時からただでさえ五月蠅かったブレペイスには雄たけび癖がついてしまった。その為、彼の雄たけびは乗組員達に毎日ストレスを与え続けている。

 

 樹海の木の葉は一枚一枚が鉄の剃刀と同等の硬さと鋭さを持っている。それらの葉が手を変え品を変えて結界にぶつかってくる。短時間なら結界も耐えられるがそれが常に結界を切り刻むと結界も壊れてしまう。船にとってはミキサーの上を常に進んでいるに等しい。


 船での樹海への侵入は今までは無理とされていた。しかし船が駄目なら陸路で行けば良いと多くの人が考えるだろう。それは正しい。そもそも最初の樹海探索は陸路から始まった。



 樹海には海の様に海水がないので人は歩いて樹海の底を探索できる。そこで最大の問題となったのは樹海の生物の強さや負の魔素による精神汚染ではない。それらも問題の一つではあったがもっと重要な課題があった。それは食料の腐敗である。


 樹海の中では食料の腐敗速度が通常の数倍以上になる。特殊な容器に入れない限り時間と共に負の魔素に侵されて呪われる。武器や防具、その他のあらゆる物が呪われて劣化していく。


 武器や防具の劣化は戦士にとっては命取りだ。魔力の付与されていない武器や防具はすぐ劣化してしまうので使い捨ての武器や樹海に落ちている物や生物の骨等を武器として使うようになった。


 食料は劣化するだけではなく呪われてしまうので食べるにはまず解呪が必要になり余計に魔力を使わなければならない。


 呪われるのは物だけでは済まない。人だって呪われる。樹海の負の魔素が体内に入ると人は狂ってしまう。それを防ぐ為に、侵入時にはいつも自分に強化魔法をかけなければならない。それだけで魔力の自然回復量を消費量が上回ってしまう。


 食料の為に解呪魔法を使えば魔力の消費は加速していく。試行錯誤の結果、樹海に持ち込める食料は乾燥させた穀物類だとわかった。長期保存できる穀物類、最近ではアワや麦系が中心になっている。


 穀物でもそのまま持ち運びすると呪いが徐々に深まり腐ってしまうので定期的な解呪は必須だ。そうなると余計な食料を持たないで現地調達しようと考える者が出てくる。結論からいうとそれは上手くいった。


 樹海の生物は超大陸の生物に比べて数倍の栄養価がある事が分かった。しかし食料を現地調達するようになっても、樹海の中での行動可能期間はさほど伸びなかった。


 樹海の生物を食べるにはとにかく魔力が必要だ。深い呪いを解呪する為に魔力を使う。生物の硬度が超大陸より数段階高いのでそれを食す為の強化魔法に魔力を使う。


 樹海の生物をしっかり解呪しないで食べると次第に負の魔素が体内に溜まっていき、摂取しすぎると体が魔物化する。角が生えたり皮膚が堅くなったり鱗が生えたりする程度は軽いもので頭に変調をきたすとそれだけで人としては致命傷だ。


 人体実験の結果、最終的には魔物ような何かに精神的にも肉体的にも変化してしまう事がわかったので樹海の食べ物を食べる時には最大限の注意を払うようになった。


 食料が一番の問題になっているが根本的には魔力が足りないという事だ。魔力に優れている種族もいるのだがその代表例たるエルフは今ではほとんど絶滅種になっている。


 数々の問題点の中で一番現実的なのは樹海に耐えうる船の建造となったのは当然の結果だった。船で移動する分には樹海の負の魔素を浴びる事が無い。


 樹海面より上は強い重力に晒されているが負の魔素は樹海に押しとどめられている。よって樹海の上なら食物は超大陸上と変わらない保存期間を保てる。何故彼らが危険を冒してまで樹海を探索するのか。その理由は超大陸の荒廃にある。


 超大陸の荒廃によって引き起こされた事は様々ある。例えば、魔物の急増、異常気象、水不足、砂漠化等である。それらの問題を解決する為に必要なものは魔法だ。多くの問題に魔法が効果的であるし、何より利便性がとても高い。


 魔法は水を出す事ができるし、敵を倒す事もできる。怪我を治す事も出来るし、氾濫した川に土で堤防を作る事もできる。水は人が生活していく上では必須なので裕福な者は水魔法を専用に使う奴隷を何人も所有している。


 労働奴隷でも肉体的な作業に従事できる者は数が多いので安く、魔力を多く持っている者は少ないので高い。魔法自体はどの種族でも使えるが魔力の総量は種族差が大きい。魔力の高い種族は片っ端から囚われて奴隷にされてしまった。


 中でもエルフは寿命が長く、魔力も高いので最高級品となっている。しかし現在ではその数は減っていて市場に流れてくるのはハーフエルフのみとなっている。


 クォーターエルフでも人より寿命も魔力も少し高いので自分の子孫の為にハーフエルフを買い求める貴族も多い。エルフの特徴である長い耳も耳切り技術が進歩していった結果、エルフの血が入っている事を隠しやすくなった。


 権力者はエルフを大いに求めたがその頃になると純粋種としてのエルフはめっきり減って市場に流れてくるハーフエルフの数も減少した。


 エルフは子供ができにくいので数を増やす事が難しい。乱獲の結果、今では絶滅しようとしている。数を増やそうとするにもエルフは非常に高価で一種の財産になっていて、いくらお金を積まれても譲ろうとする者は出てこない。


 エルフの価値がうなぎ登りに上がっていくのに比例してエルフ狩りは熾烈を極めた。エルフ達の最後の砦と言われている世界樹も激しい戦いの末に切り倒された。それ以降、ほとんどエルフを見つける事はできなくなった。しかしエルフを求める者は後を絶たない。


 超大陸中の秘境という秘境を探し求めてもエルフの影すら見つからなくなると。多くの人はエルフ探しを諦めた。しかしその中でも少数は未だにエルフを探し続ける事を諦めていない。ついに彼らは伝説すら頼るようになった。


 敗国の王が隠した財産、ドラゴンが守る宝物庫、海に眠る黄金、神が残した遺産等といった伝説は多くの人に夢を与えたがそれを見つけた者はいない。


 超大陸上に未開の地が無くなって久しい現在、人々は海や樹海に未知を求めるようにならなかった。海に未知を求める者は多くいたが樹海には危機しかなかったので敬遠されていた。


 樹海の場合は態々行かなくても樹海から出てきた魔物が超大陸中を暴れまわっている。それでも資源を考えると樹海は素晴らしい。人々は大きな城壁を建てて樹海の傍らに住み続けている。


 ブレペイスの祖先はずっと昔から戦士の一族で人や魔物を殺したり略奪し続けてきた。今も本質的にはそれは変わらない。そんなブレペイスの一族にはある伝説が語り継がれてきた。


 遥か昔に少数のエルフが樹海に向かったと。彼はその伝説を信じていなかった。しかし樹海を航海できる船が完成したという話しを聞いた時、彼は雷を浴びたような感覚に襲われた。それは正に天啓であった。彼はあらゆる手段を講じて最高の船、ミピピッシ号の船長となったのだ。


 ミピピッシ号は数キロ進む毎に探索魔法を放つ。樹海の木の葉に阻まれて精度はお粗末なものだが今までの船は完全に木の葉の層を超えられなかったので随分とましだ。そのか細い探索魔法も樹海の生物から見れば珍しいので好奇心旺盛な魔物や魚がミピピッシ号目掛けて突進してくる。またミピピッシ号は揺れた。


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