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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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 雪がまだ残る晩冬に差し掛かると盗賊狩りは一段落した。強者はほとんど東へ行ったようで残っていたのは弱い盗賊だけだった。弱いから長距離の移動が出来なかったのかもしれない。去年は襲撃が一段落した後は各農村を回って補修を行った。


 何もなければビッターに向かいながら領内を回っていただろう。しかし今年は違う。マサモリは一旦ビッターに集合した後にラギドレットへと侵攻すると決めていた。一段落するとすぐに移動用の氷塊を打ち出す準備を始めた。食料は予想以上に残っていたので補給の心配はない。


 むしろ腐ってしまわないように焦って食べなくてはならない。春になれば気温が上がり、氷漬けにしていても長く持たない。栄養失調だった北部の人に多めに与えて早く体調を回復して貰うように手配した。


 準備が出来ると氷塊を打ち出してビッターへと向かう。しかし人数が多かったので何回かに分けて運ぶ事になった。マサモリが先発隊となってビッターへ向かって撃ち出された。魔人軍も最初とは違い、氷塊での移動にも驚かなくなってきた。むしろ楽しむ余裕さえある。


 空を飛ぶ乗り物に乗れる機会など、普通の人間には一切ない。適応能力が高いなとマサモリは思った。空の旅はすぐに終わった。魔人軍の兵士の大半はしっかりと着地した。着地に失敗した者も居たが大きな怪我はない。魔人軍の兵士も成長しているのだと実感できた。


 兵士達が着陸地点を空けると次の氷塊が撃ち出された。氷塊は順調に撃ち上がりマサモリ達が居る着陸地点へと放物線を描いた。しかし下降し始めた氷塊へ向かって火弾が地から放たれた。高度はまだ高く、地面に落とされただけで多くの兵士が死んでしまう。


 マサモリはゆっくりと氷塊へ近づく火弾を固唾を飲んで見守った。しかし人影が素早く動いて火弾を打ち払った。シラギクだ。シラギクが火弾を打ち払うと火弾は爆発した。だが相殺された衝撃と炎は氷塊の軌道を少しずらす程度で済んだ。


 シラギクは次に持っていた棍棒を火弾の発射された地点へと投擲した。地を揺るがす衝撃と炎の柱が生まれた。マサモリは氷塊の着地位置を予想し、結界で受け止めるか迷った。しかしマサモリの心配を余所に、氷塊は少しずれながらも着陸地点へ到達した。


 魔人軍の兵士達がシラギクの反撃を称える雄たけびを上げながら氷塊から飛び降りた。見た所、火弾の衝撃で落とされた兵士は居なかったようだ。片手を上げて得意気なシラギクを先頭に兵士は先に来ていた魔人軍と合流した。マサモリは使い魔を通じて次の氷塊の発射を指示した。


 氷塊には最低でも二人の忍者エルフが付いていた。氷塊の発射は目立つので妨害される危険があったからだ。本来なら結界で防ぐ予定だったがシラギクが忍者エルフを止めて自分で打ち消したのだろう。準備万端でもいざとなると心配してしまう。


 次の氷塊は最初から攻撃を予測して結界を展開していたが、それ以降妨害は無かった。氷塊の撃ち出しは娯楽の少ない超大陸では一大イベントなので多くの魔人軍の兵士や農民が空を見上げていた。火弾を迎撃し、尚且つ反撃で敵を倒したシラギクは一気にその名声を高めた。



 ビッターに到着したマサモリは最低限の守備を残して各農村に散らばった魔人軍の兵士を集合させた。降り積もった雪は未だ解けていない。寒さは和らぎ始めているがまだまだ寒い。本来なら農村の補修に全力を挙げたい所だが、相手だって条件は同じだ。


 どうせ戦うなら食料不足の間に速攻で攻めた方が良い。魔人軍はしっかりと備蓄があったので備蓄面ではラギドレットより有利だ。それに穀物の保存期間が長いとはいえ、食料は腐るので溜め込んでも意味が無い。使うべき時には惜しみなく使うべきだ。


 ラギドレットと睨み合っているよりも征服してしまった方が楽だ。ラギドレットには特になんの感情も持っていないが効率面で必要なので征服させてもらう。マサモリは今後の展開を考えながら続々と集まってくる魔人軍を眺めた。



 集まってくる兵士達は一様に表情が硬い。ラギドレット城は超大陸西部地域で最強の城である。普通に魔人軍がラギドレット城に攻め入っても簡単に殲滅される。少しでも知識がある者ならその事実を理解しているはずだ。学が無い者も周りの空気を感じ取って逃げ出したい表情をしている。


 本来なら魔人軍がラギドレット城に戦えるまで鍛えあげてから戦った方が良い。それならラギドレット城を落としても違和感がない。超大陸のルールに則った方法だ。しかしマサモリはその考えを捨てた。超大陸のルールを踏みにじり、自分にとって有利な選択を取る事に決めた。


 そういったルール破りは得てして良い結果を生み出さない。自分がルールを破ったら敵もルールを破ってくる。すると争いは混沌とし、収拾が困難になる。それを理解したうえでマサモリは動く。結局、超大陸の現状を憂うなら自分で動いた方が確実なのだ。


 超大陸の人間に超大陸を任せるのは自殺行為だ。超大陸は超大陸人には過ぎたる物だった。自分の生きている母なる大地を破壊する者にそこで生きる資格はない。だからこれは死に進みゆく超大陸を保護する為の戦いである。


 他人がそんな事を言ったらなんて傲慢不遜なのだと思うだろう。でも実際にそうなのだからしょうがない。敢えて言うならば超大陸の環境を守る為の戦いだ。マサモリは超大陸のあまりの惨状を見ていられなくなった善意の第三者なのだ。それにダラダラ争っていても犠牲者が増えるだけだ。


 ならばすぐに終わらせてしまった方が犠牲者の総数は減る。マサモリはボランティアの征服者になのだ。出島村優先型超大陸西部地域王になれば矛盾がない。出島村を優先して、片手間で超大陸の西部地域を差配する。これならマサモリの精神的に重荷に感じる事はない。


 超大陸は少ない労力で管理する事になるがそれで十分だ。それでも超大陸人に任せるよりは百倍ましな統治になるだろう。超大陸の今後について思い悩んでいたマサモリはこう考える事で晴れやかな気持ちになった。


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