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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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 奴隷達は先導するドワーフに導かれてトロッコへと向かって行った。奴隷達を逃がさないようにドワーフの兵士達が彼らを囲んだ。しかし奴隷達は静かで従順だった。奴隷達は誰一人逃げようとせずに順番にトロッコへと乗って送られていった。


 奴隷が送り出されると次に多数のつるはしが運ばれていった。最後に柱の様な岩塩がトロッコに無理やり括りつけられて行った。今の所、洗脳魔物人は採掘を主にしているようだ。彼らの手に持つ物がつるはしから武器を持つのはいつになるのだろうか、ボタンは冷静に考えた。




 モブツリーマンはボタンの横顔を盗み見たがボタンの顔からは何も読み取れなかった。ボタンはこのドワーフの街をどうするか思案していた。ただ潰すのなら他の忍者エルフを呼べば可能だ。今だけはドワーフの街をどうするかについて、ボタンの裁量によって決められる。しかし報告したら上からの指示を仰がなければならない。ボタンはすぐに私心を抑え込んで報告しようと思い直した。


 時間はかかったが実りある探索だった。モブツリーマンも反発せずに一生懸命着いて来てくれたし、個人の感情で暴走したりしなかった。それだけでもありがたいとボタンは思った。方針が決まると後はそれに沿って動くだけだ。ボタンとモブツリーマンは情報収集を止めて帰還した。


 モブツリーマンはカメリアの町を見た瞬間、立ち止まって肩を揺らして嗚咽をあげた。ボタンは優しくモブツリーマンの肩に手を乗せた。やり過ぎたとボタンは冷静になって猛省したのだった。




「報告は以上になります」


 ボタンはマサモリに今回の遠征の報告を終えた。


「心配したけど無事で良かった。ただ、ドワーフとの交易には使えなさそうだね」

「そうですね。街から回収した武器を使うと出所が露呈する危険性があります」

「こっちは今の所、特に問題はないよ。秋から冬にかけては荒れるだろうけどね」


 現在魔人軍は巡回と訓練に明け暮れている。マサモリとしては魔人軍に強くなりすぎてもらっては困るし、弱すぎても困る。強くなりすぎると脱走して他で大暴れした時に厄介だし、弱すぎるとそこらへんの盗賊に殺される。そうなると弱いと分かったラギドレットの盗賊達が大挙して押し寄せる。それは面白くない。


 ある程度鍛えたうえで後は道具の強さで補うのが目標だ。道具は誰が使っても同じ効果だし、道具を使えば金がかかる。個人が力を付けすぎると飯食って寝るだけで次の日には暴力装置として再利用できる。人こそ短期的には最も効率的な暴力装置なのだ。それを最大限に活用させない為に道具を使った戦い方の楽さと安定性を教え込む。


 すると道具無しでは戦えなくなる。そして道具は金がかかるので気安く戦闘が行えなくなる。ドワーフの行っている科学の発展は逆説的には個人の能力の衰退を引き起こすだろう。竜魔弾が強くなれば強力な結界を張れない者はどんな強者でも一撃で殺されかねない。


 すると強者を揃えるよりも竜魔弾とそれを扱う通常の兵士の数を増やした方が効率的になる。悪貨が良貨を駆逐するように銃は強者を駆逐するようになるだろう。エルフの望む超大陸の進化の行き先がそれだ。後はエルフの森のエルフが竜魔弾に負けない結界魔法を使えるようになれば解決だ。


 結局は力技で解決しているが問題は竜魔弾が発展したら魔石砲弾も発展するという点にある。エルフの結界を破壊できるような砲弾が作り出されたら終わりだ。そういう意味では勝てる内に皆殺しにしてしまうのは将来的には確実なのだろう。


 理想論を語るなら超大陸を平和にして力の価値を落としてしまうという手もある。例え平和が訪れても盗賊が闊歩する世界になりそうなので絶対に不可能だろう。


 超大陸人の育成方針としてはそれで理に適っているが急激な発展は超大陸を引っくり返してしまう危険性がある。個人の武勇が勝敗を決める戦いを時間をかけて金と物資で決まる戦いにしていきたい。その為に魔人軍にはドワーフの武器や魔石砲弾が必要だ。しかし今の所、伝手がないので難しい。


 食料の売買で少しずつ信用を得て行けばその内ドワーフからも打診はあるかもしれない。しかしそれまで待てないのが現状だ。定期的にラギドレットの町から奪うという手もあるが、とりあえずは自分で買えるようになりたい。


 何かしらの鉱石が見つかればドワーフの方から寄って来るだろうが山脈地帯は危険だし、他に掘れそう場所は分からない。魔石が埋まっている場所なら感知能力が高いエルフなら探し当てられる。能力は他のエルフに比べると劣るがモブツリーマンに頼めば成果を得られるかもしれない。モブツリーマンは気軽に動かせる分、居ると助かる存在だ。とりあえず探索をお願いしておく。




 状況が安定するとマサモリとシラギクはモブ美にサーモ達の振りをしてもらって植林作業へと移った。魔物化した魔物人のせいで超大陸の自然環境は大きな損害を被っている。急いで植林しないと砂漠化してしまう。一度砂漠化すると緑化するのは非常に難しい。


 マサモリは既に飽きてきていたがやっていく内に一周回って楽しくなってきた。戦うよりも生産的だし、思索しながら行える。頭では別の事を考えながらも手は勝手に植林をしていく。寝ながら戦うのと一緒で考えながら植林できるようになった。一種の瞑想状態に近い。


 ボタンにドワーフが地下の大坑道を利用して超大陸中を行き来していたと聞いて驚いた。それだけの力があるなら魔物化した魔物人を倒したり、環境を整備したらいいのになとマサモリは思う。超大陸の人間は基本的に消費してばかりで生産能力を失っている。


 木を切ったら新しい木を植える。食べ物を食べたら畑を耕して野菜を育てる。超大陸に危機が迫ったらみんなで対処する。軍師の直感が無ければ超大陸は放置されて破壊され尽くされていたかもしれないと思うと悲しくなってくる。きっと超大陸は自由が溢れすぎているのだ。


 自由と自由がぶつかりあってより強い自由が自由に動く。弱肉強食が支配する世界は余りにも愚かで純粋で美しい。郷に入っては郷に従えということわざは正解だった。マサモリには自由が足りていなかったのだ。春が来たらラギドレットへ進攻しよう。マサモリは決意した。


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