表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
191/211

191


 大きな坑道へ繋がる道にはいくつものトロッコが走っている。運ばれ来た鉱石をずた袋を被った男達が運んでいく。ずた袋を押さえるように男達の首には奴隷用の首輪が嵌まっている。奴隷達の顔色は窺えないがやせ細っていて肌の色も悪い。多くの奴隷が咳き込んでいる。長くはもたないなとボタンは思った。


 鉱石を運んでいる奴隷が倒れ込んだ。周りの奴隷は倒れた奴隷から急いで離れて仕事を続けた。見張りのドワーフが倒れた奴隷に近づいた。ドワーフが奴隷の男に話しかけると奴隷の男は賢明に立ち上がり、自分が大丈夫な事を証明しようとした。しかし立ち上がった奴隷の足元は覚束ない。ドワーフは懐から笛を出して吹いた。


「止めろー! 俺はまだ働ける!」


 フラフラしていた奴隷からは考えられない絶叫が辺りに響き渡った。周りの奴隷は潮が引く様に叫んだ奴隷から離れていった。建物の扉が乱暴に開かれて、屈強な男と何人ものドワーフが現れた。屈強な男達は叫ぶ奴隷を捕まえると街の広場へと向かった。


 ドワーフ達は既に広場に揃っており何かの準備をしている。捕らわれた奴隷は広場にある台座に磔にされた。磔にされた奴隷は叫んだがすぐに猿轡をされた。


「実験を開始する」


 ドワーフはそう宣言すると男の右腕に注射器を刺した。どす黒い液体が奴隷の腕に注入されていく。液体が注入されると患部が泡立つように反応して膨れ上がり、歪な鱗を纏った。奴隷は拘束具をされながらも跳ねるように痙攣した。


 液体を注入された部分から徐々に右腕の根元とへと鱗化が向かって行った。鱗化が胴体に達する前にドワーフは斧を振り降ろして奴隷の右手を切断した。切断面から血が吹き上がる。しかし別のドワーフがすぐに焼きごてを切断面に当てて焼いた。切断された腕は陸に打ち上げられた魚の様に跳ね回ったた。ドワーフ達はその様子を見ながらレポートを熱心に書きつくった。


「反応が早すぎるな。次」


 ドワーフは別の注射器を受け取って次は奴隷の左腕に刺した。今度は患部付近が凝縮されるように収縮した。先程の鱗よりはしっかりとした鱗が形成されていく。鱗の生成には成功したが腕は痩せこけ、骨に鱗が張り付いたような状態になった。症状が進行していくと再び先程と同じように胴体に到達する前に腕は切り落とされた。



 ここまで見て、ボタンは実験の内容を理解した。人の魔物化実験なのだろう。今回は鱗を見る限り、竜化か蜥蜴化を目指している様子だ。結果がどうなるか個人によって千差万別な魔物化をドワーフは制御しようと試みているのだろう。


「肉体が縮小しすぎだ。次」


 奴隷の左腕が切り落とされて切断面が焼かれた。するとドワーフは次に左足へと向かった。左足、右足と実験が終わるとドワーフは新しい道具を取り出した。先端が円形状の錐だ。ドワーフは錐を奴隷の額に当てると木槌を振るった。作業の残虐性とは正反対に良い音を立てて頭蓋骨に穴が開けられた。


 空いた穴に魔石を捻じりこんですぐさま回復魔法が掛けられる。奴隷は最初に右腕を切り落とされた時点で失神していたが頭蓋骨に穴が開けられた時に大きく目を見開いた。しかし回復魔法で傷口を塞がれ、魔石に向かって魔法が唱えられると奴隷の目は焦点を失った。


 ドワーフは奴隷に話しかけながら奴隷の観察を続けた。暫く観察すると満足したようで再び注射器を奴隷の体に打った。



 奴隷の体が今まで一番大きく跳ね上がると患部から次第に魔物化が進んでいった。手足に打った物に比べると効果が抑えられている様で魔物化スピードが遅い。ドワーフは感情の籠らない眼で実験を観察し続けた。


 奴隷の体に少数の鱗が生えただけで実験は終わった。ドワーフが奴隷に話しかけて先程の様に観察が続けられた。モブツリーマンは実験が終わったか思ったがそれは間違いだった。ドワーフは再び注射器を奴隷に打った。奴隷の体に浮かんだ鱗が急速に増加していく。


 ドワーフは何度も奴隷に液体を注入して奴隷の観察を行った。奴隷の体が鱗に覆われ、奴隷の意識が完全に尽きると実験は終わった。次に切断された四肢の解剖実験が行われた。四肢が輪切りにされてドワーフ達は熱心にそれを覗き込んでレポートに記載していった。


 何点かは液体に漬けられ保存された。実験に用いられたそれらは最後は集められて運ばれていった。運ばれた先は飢えた大蜥蜴が大量に入れられている檻だった。肉片は大蜥蜴に与えられ、飢えた大蜥蜴は我先にと肉片に噛み付いた。広場の台座は実験が終わるとすぐに清掃された。そして最後に実験を指揮していたドワーフが宣言した。


「もう一体追加だ」




 ドワーフが檻の間を縫うように大蜥蜴の回復状況を確認しながら巡回している。収穫できるまで回復すると大斧を振るった。大蜥蜴は爪や牙を切り落とされても無反応だ。彼らの目は濁り切っていて放心している。ハーフエルフ達も同様だ。


 大蜥蜴の中には片手だけが竜の様に変化した個体や、体の半分だけが巨大化した個体等、様々な個体がいる。どれも巨大化している部分は竜に近づいているので蜥蜴と竜を交配させたのかとモブツリーマンは思ったが大蜥蜴の体の歪な変化を見て違うと思い直した。



 ボタンは竜魔弾を見た時に感じた違和感が何だったのか自覚した。竜の爪は小さくても簡単に砕けるような物ではない。魔法の触媒にも出来るし、小さい竜の爪でも長い年月を経れば立派な武器に変わる。しかしドワーフは促成栽培された竜の爪の脆さを最大限に利用した。


 普通だったら脆い竜の爪に使い道はない。その欠点を最大限に利用したのが竜魔弾だ。ボタンはドワーフの頭の柔らかに感心した。竜化させた大蜥蜴から取れた鱗や牙、爪が使い物にならなくてドワーフ達は臍を噛んだのだろう。しかしすぐに別の活用方法を見出したのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ