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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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 モブツリーマンは緊張しながらドワーフを待った。ボタンは平然としているがモブツリーマンにはこういう経験がほとんどなかった。モブツリーマンが一人で冷や汗を流しているとドワーフ達が山を弾むように駆け寄って来た。ドワーフの使い魔がドワーフに先行しながら飛んでいる。しかしボタンの準備していた乱気流に飲まれて死んだ。


 ドワーフ達は声を掛け合って使い魔の死亡を連絡しあったが山脈地帯ではよくある事なのか立ち止まらなかった。それが迷いなのか、良くある事なのかは分からないがドワーフ達はそのままボタンの居る待ち伏せポイントに到着した。



 ボタンの合図で配置されていた銃が一斉に火を噴いた。銃弾はドワーフ達の結界を破ると同時に爆発し、破裂した。ボタンの結界に当たった時は銃弾が結界を破れずに破裂した。その時の爆発と爪の飛散の衝撃で結界が破壊された。しかし今回は銃弾が結界を破壊してその勢いのまま、破裂し爆発した。


 硬度の高い全身鎧をしっかり強化していないと防げないであろう衝撃がドワーフ達を襲った。ドワーフの大半が肉塊になり、爆発の衝撃で燃えた。そして所持していた竜魔弾に引火して第二、第三の爆発が起こった。最後尾にいたドワーフだけが運良く難を逃れた。


 と思いきやそれは計算尽くの結果だった。誘爆が起こる前にボタンはそのドワーフを保護した。そして少し離れてから洗脳魔法をかけた。ボタンが洗脳魔法をかけるとドワーフの体内から急速に魔力反応が生じた。ボタンは迷いなく、ドワーフを結界で包み込んだ。


 ドワーフの体内に隠されていた魔石が爆発し、結界内は血と炎で満たされた。ドワーフの体内にあったのは、坑道に設置されていた対象の魔法を受けた時に爆発する魔石だった。ボタンは一瞬だけ失敗したと苦い顔をした。



 現場には竜魔弾と誘爆のせいで回収できる物はほとんど残らなかった。次に洗脳する時には体内に隠された魔石を先に取り出さなければならない。だが種が分かれば次は対処できる。そう思いながらボタンは先程よりも低い位置に竜巻をいくつも発生させた。


 モブツリーマンの匂いを吹き飛ばす為だ。山脈の旋風と相まって竜巻は様々な物を破壊しながら進んでいく。ボタンは守るよりも攻めに転じる事にした。相手からの動きに対応していたら後手後手に回ってしまう。洗脳したドワーフから得た情報を元に坑道の位置を探っていく。


 ある程度の位置が分ければ探すのは容易だ。暴風の中をボタンは滑らかに走り抜けた。モブツリーマンはそれに着いていくので精一杯だ。暫くするとボタンは破壊されたと思わしき坑道の入り口を見つけた。瓦礫を取り除くと坑道に入った。坑道に入ると行く手は岩と土砂で埋まっている。


 ボタンは自分達が入って来た入り口を岩と土で塞いだ。次に坑道の壁に手を当てた。ボタンの手から植物の根が無数に伸びる。ボタンが力強く手を引くと、木の根によって絡め取られた土や岩をごっそりと壁から抉り出した。それだけで大人数人が通れるスペースが生まれた。掘るというよりも掬い取ったと表現した方が正しいかもしれない。


 ボタンは交互に手から根を伸ばして土と岩を取り除いていく。力尽くで掘り返すのとは違ってとても静かだ。その割には早い速度で掘り進めている。ボタンとモブツリーマンは坑道に並行して交互に穴を掘り続けた。埋まってしまった坑道の土砂を取り除く方が労力はかからない。しかし罠が仕掛けられているので新しく穴を掘った方が安全だ。



 ヒカリゴケもない真っ暗な空間を掘り進めていくとモブツリーマンは再び体調を崩しそうになった。前後左右の認識が覚束なくなり、悲鳴をあげたくなる。重力だけがいつもと変わらずモブツリーマンを地面の上に立たせていた。


 モブツリーマンが消耗する度にボタンはモブツリーマンを石にして休ませた。先の見えない暗闇の穴掘りにモブツリーマンの精神が限界に達しそうになったが思ったよりもあっさりと無事な坑道まで辿り付いた。


 モブツリーマンはヒカリゴケ放つ仄かな光に思わず拝みたくなった。今回の出来事を書きつくったらさぞかし素晴らしい物語が出来あがるだろうとモブツリーマンは現実から逃避しながら思った。



 ドワーフの坑道に入る前にボタンはモブツリーマンに焼いた土を何度も掛けた。簡易的な匂い消し代わりだ。匂い消しも場所に合う物を利用しなければならない。地中だったら土、森林だったら草や木の葉を使うと他の生物に察知されにくくなる。


 すぐに坑道に入るかと思ったモブツリーマンであったがボタンは待機を選んだ。監視の為でもあったし、モブツリーマンに土の匂いを馴染ませる為でもあった。モブツリーマンは内心がっかりしたが大人しくボタンの指示に従った。明るい場所を見れるだけでも暗闇の中に居る事に比べれば精神的に良い。


 モブツリーマンは既にカメリアから出てどの程度の時間が経過したのか分からなくなっていた。

しかし離れてみるとカメリアが無性に懐かしくなってきた。一種の吊り橋現象だと自覚しつつもカメリアに早く戻りたいと思った。



 モブツリーマンがヒカリゴケの光を眺めながらカメリアについて思いを馳せているとボタンは坑道へ繋がる道を土で塞いだ。驚きと共にモブツリーマンはボタンを見た。空気中に毒が撒かれている事をボタンは察知したのだ。


 毒は神経毒だった。わざと濃度を薄くしているようで、ある程度吸わなければ初期症状すら起こらない。坑道を何も対策もせずに進むと引き返せなくなった頃に体の痺れを自覚するだろう。激しい運動をしても急激に毒は体に回る。坑道で何者かと遭遇して動き回ったらそれだけで動けなくなるだろう。


ボタンは気を引き締めなければと自分に言い聞かせた。毒は魔法で解毒できるが所詮対処療法だ。もし一瞬で意識を失ったり眠ってしまった場合には魔法を使っている暇はない。対面しての殺し合いなら負けないが毒は平等に生物の体を蝕む。


 結界を張っていれば毒は防げる。しかしドワーフ達はボタンの結界を破壊できる程の威力を持った武器を所持している。ボタンの脳裏に撤退の二文字が浮かんだ。しかしボタンがこんなチャンスを逃す訳がなかった。

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