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モブツリーマンは銃弾に対して回避行動を優先した。結界で防ぐと結界に当たった衝撃で銃弾が破裂する。それを防ぐ為に銃弾を回避した。しかし銃弾は周りの木や岩ぶつかり破裂した。破片が辺り一面に飛び散ってモブツリーマンは回避した事を後悔した。モブツリーマンの背中に破片がいくつも突き刺さったが次弾の装填の間に二人のドワーフを殺した。
ボタンはドワーフの装填が終わると立ち止まった。ドワーフは疑問に思いながらも一斉に銃を撃った。ボタンは飛来する銃弾を両手で流れるように全て掴み取った。そして呆然としているドワーフに向かって短剣を十本投擲した。
結界を突き破り、全ての短剣がドワーフの頭を貫通した。そして空中を滑るようにボタンの手元に戻った。それと同時に先程立ち止まった時に放った針の様な棒手裏剣が少し離れた場所で飛んでいるドワーフの使い魔を殺し、同じようにボタンの手に戻った。
ボタンの攻撃でモブツリーマンの近くの一人を除いて全てのドワーフが息絶えた。モブツリーマンは最後の一人に近づくがドワーフは既に装填を終えていた。モブツリーマンは一発の銃弾ならボタンのように掴む事も出来るので真っすぐにドワーフへと向かった。
ドワーフはモブツリーマンの手前に地面に銃弾を放った。銃弾は地面にぶつかると爆発し、破片を周囲に飛ばした。モブツリーマンは強化魔法に魔力を注いで破片を防いだ。そして最後のドワーフを気絶させた。
モブツリーマンは内心冷や汗をかいていた。最後の一人だと思って完全に油断していたのだ。銃弾の破片はドワーフにも突き刺さっており、結界が砕けたドワーフは全身から血を流している。
ボタンは自らの傷を魔法で癒すとモブツリーマンにドワーフの持ち物の回収と死体の焼却を指示した。そして自分は魔力跡を消し始めた。余裕があれば周囲に散らばった銃弾を回収して何も起こらなかったかのように偽装したかったが、破裂した銃弾の数が多すぎたし、敵の使い魔にも見られていた。
使い魔を操っていた者は遠く離れた場所で戦いの様子を監視していただろう。戦闘跡を完全に消せないならせめて魔力跡だけ消す事にした。魔力跡を消せば魔力を辿って追跡が困難になる。ボタンは丁寧に自分達の魔力跡を消していった。
坑道の入り口にはボタンの使い魔が飛んでいたのだが風が強く、視界は常に揺れていた。ドワーフ達は隠蔽魔法の掛かった結界を発動させていたので、ただの鳥の使い魔では看破出来なかった。使い魔を殺さずにボタン達を待ち伏せるという事はそれなりの自信か緊急性が無ければ出来ない。
気が小さい者だったらすぐに使い魔を殺してしまっただろう。洗脳されたドワーフを殺した事、すぐに坑道の出口を抑えた事を考えると一筋縄ではいかない相手だとボタンは確信した。以前にモブツリーマンが状況も分からずに殺されたのも納得のいく手腕だ。狩り甲斐のあるドワーフだとボタンは口の端を吊り上げた。
ボタン達は手早く処理を終えると戦闘が起こった場所を一望できる高所へと移り、新たに潜伏場所を作った。一人だけ殺さずに連れてきたドワーフを起こして洗脳する。そして出来るだけ多くの情報をドワーフから引き出そうとした。
ボタン達が潜んでしばらくすると山脈の吹き荒れる旋風に揉まれながら使い魔と思わしき鳥が何匹も集まって来た。ボタンは微動だにせずその様子を窺った。使い魔達は自分が監視されているとは露ほども思わずに現場を検証し始めた。ある使い魔は空からボタン達を探し、ある使い魔は現場近くに不審な動きが無いか観察した。
ボタンは待ち伏せされていた事から他にも坑道があると確信している。他の坑道を探るべくボタン達は使い魔を監視し続けた。
監視に集中しているボタンを余所にモブツリーマンはドワーフから情報を引き出していた。それと同時に得たばかりの戦利品を確かめた。まず最初に確かめたのは、反射的だったとはいえボタンの結界を破壊した銃と銃弾だ。銃よりも先に奇妙な形の銃弾にモブツリーマンの目は吸い寄せられた。ドワーフはその銃弾を竜爪魔石弾だと言った。他にも竜魔弾や竜弾と呼ばれているそうだ。
竜魔弾はよく見るとどれも形が不均一だ。普通の銃弾はどれも同じ形をしている。そうしないと銃身に負担がかかってしまう。竜魔弾は名前の通り、竜の爪を削った物だ。爪の根元の銃弾で言う雷管の部分に小さな魔石がはまっている。円錐形の爪の根元を削ってそこに二種類の魔石が詰め込まれている。
二つの魔石は片方が弾が放たれる時の推進力の役割をし、もう片方の魔石は対象にぶつかった時に爆発する。魔石を二つ使った銃弾の構造自体は魔石弾として使われているが問題は爪の部分だ。通常の魔石弾では銅や鉄が使われている。しかし手元にある銃弾には竜の爪が使われている。
それもしっかりと魔力を含んだ硬度の高い爪だ。この爪が対象物にぶつかると外からの衝撃と、魔石が爆発する内側からの衝撃で砕け散る。そして広範囲に飛散する。今までの魔石弾よりも殺傷能力が数倍以上になっているだろう。そのうえ、爪の飛散によって結界に相性が悪い面攻撃を行える。
モブツリーマンは背中に冷たいものが走るのを感じた。ただ、どの銃も銃身への負担は大きかったようで小さな歪みが散見できた。連射するには不向きだが殺傷能力は抜群のようだ。ただその弱点も銃を複数用意すれば解決できるので厄介だ。
弱点は他にもある。竜魔弾が対象にぶつかった時の爪の拡散が不安定な点だ。なるほどとモブツリーマンは納得した。モブツリーマンがこの銃弾を避けた時に周囲の物にぶつかって爪が破裂した。後から見ると岩にぶつかった銃弾は大きく破裂し、樹にぶつかった銃弾の破裂は小さかった。
樹が衝撃を吸収したのだろう。つまり、柔らかい物体では破裂が小さくなる。人を殺す分には十分すぎる破壊力なのでそれが弱点かどうかは微妙な所だ。