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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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 内戦状態で次の収穫まで生産能力が低下している北部にはビッターに集積した食料を巨大な氷のつららに入れて定期的に飛ばした。カメリアから魔人軍領に行く時に使った方法だ。焼かれた農村も復旧したので収穫量は減ったもの収獲が早い作物ができ始めた。最終的には余剰分が出る程度には収穫できた。


 それらの余剰分は食料不足で物価が高騰しているラギドレットに高く売り払った。ラギドレットとの境界線にある村や町はラギドレットから奪った魔石や結界石を使って強めの結界を張っておく。盗賊の浸透は防げないが大規模な襲撃があった場合は時間稼ぎが出来るだろう。


 シラギクは魔人軍に慣れて今ではマサモリ以上に慕われている。群馬村で育ったシラギクは超大陸の空気にすぐ溶け込めたようだ。荒っぽい空気にいまいち慣れていないマサモリはシラギクが少し羨ましかった。




 遠征から帰ってきてもボタンからの連絡は届いていなかった。普段なら長引く場合は定期的に連絡が届く。しかし今回はそれすらない。マサモリは残りの忍者エルフにボタンの捜索を頼むつもりはない。モブエルフが殺されているので忍者エルフを送っても殺される可能性が僅かだか存在する。そんな所へ忍者エルフを派遣できない。だからモブ美に頼む事にした。


「モブ美、ボタンと一緒に行ったモブツリーマンから連絡はないよね?」


「はい! マサモリ様! 離れすぎていて連絡が取れません。ただ生きているのは分かります。それに大怪我を負った気配は無かったので大丈夫だと思います。けど心配ですよね! 心配でたまりませんよね。危険だけど追加でモブツリーマンを派遣しちゃいますよね!?」


「とりあえずそのつもり。ただ、そのままモブツリーマンを派遣してもそれがバレてボタンに迷惑がかかる可能性がある。何か良い案はない?」

「そのまま送れば捨て駒にされる諜報員の気持ちが味わえて最高ですね。でも気乗りはしませんが動物型をお勧めします」


「動物型で」

「はい! 一般的な鼠で行こうと思います。ただ、山脈地帯の獣や魔物に殺されると思うので長時間の運用は厳しいと思います。強くしすぎると目立ってしまいますしね。定期的に放てば大丈夫です」


「分かった。よろしく」

「了解です!」




 ボタンはモブツリーマンと共にカメリアの東に横たわる山脈の調査を行っていた。モブツリーマンを殺した犯人を捜し、それがドワーフだか確かめる為だ。ボタンは山脈に入ると乱気流の中を飛ぶ鳥を見つけて使い魔にした。そしてじっくりと付近を探索した。


 山では乱気流が舞い、岩や鎌鼬が飛び交っている。モブツリーマンは風や岩、時折襲い掛かってくる魔物や獣に対処した。山は時折地震が起こったように揺れ動き、乱気流がぶつかり合って悲鳴のような音を生み出した。何かを調べるには最悪の状況の中、ボタンは集中を乱さずに確実に調査していった。数週間かけてボタンはモブツリーマンを殺害した者を特定した。




 元々ドワーフが山脈間を移動できる手段を持っているという噂がまことしやかに囁かれていた。ボタンはモブツリーマンの殺害とそれを最初から結び付けていた。重要なのはドワーフに気が付かれる事無く、エルフ側が一方的にドワーフを補足するという点にあった。山脈地帯は暴風が吹き荒れ、山揺れも起こる。何かを探すには不適切な場所だ。


 そうなるとそこに拠点を構えた側が圧倒的に有利だ。モブツリーマンの失敗は一方的に補足された事にある。どんな強者でも不意打ちには弱い。特に強い者程、不意打ちには気を付けなければならない。ボタンは過剰なまでに時間をかけて丁寧に山を調べていった。そして見つけた。



 ボタンは山脈の一角に魔物に似た気配を捉えた。しかしその気配は全く動かない。餌が少ない山では動物は身動きせずに餌が通るのを待つ。動かない気配は今まで多くあったがボタンはその気配に特別な何かを感じた。


 朝露が降りたばかりであったがボタンはすぐに近くにある大岩の下に潜り込み、隠れた。大岩の下の硬い地面を掘り、ボタンとモブツリーマンは一日中その気配を監視した。夜になっても気配は動かなかった。空から使い魔にした鳥で観察したが気配の居る場所は隠されていて空から見てもその姿を捉える事は出来ない。


 ボタン達はそこで三日間動かずに監視を続けた。冬眠の様に長期間の眠りについているのかもしれない。モブツリーマンはそう思った。しかし四日目に動きがあった。微かな気配が鎮座する気配へと接触した。そして微かな気配は再び離れていった。


 ボタンは自分の直感が当たった事を確信した。そのまま一週間動かずにその場に潜み続けた。モブツリーマンは全く動いていなかったので自分の体が岩か樹になったのではないかと思う様になった。突然動けと言われても動けないだろう。このまま時間が過ぎ去れば体の動かし方を忘れてしまいそうだと思った。


 しかしモブツリーマンの考えは杞憂に終わった。再び微かな気配が現われ、消えていった。ボタンは満足すると次の夜に気配の元へ行くと決定した。モブツリーマンはやっと動ける事に感謝した。



 決行の夜が来た。ボタンは隠蔽魔法をいつも以上に集中してかけると闇に紛れるように気配の元へと向かった。しかし気配の元へ辿り着くには通り道が無かった。気配とボタンとの間には何の変哲もない岩場が存在するだけだ。


 モブツリーマンはどうやって気配の元へと辿り着くのか不思議に思いながらもボタンを観察した。しかしその瞬間、ボタンの存在が揺らいだかと思うと水が大地に染み入るようにボタンの姿が岩山に消えて気配の元へと辿り着いた。


 ボタンの存在を察知したかの様に気配の魔力が揺れ動いた。しかし魔力の揺れはすぐに解消されて先程と変わらない状態へと戻った。モブツリーマンはボタンが戻るまで身じろぎ一つ出来なかった。


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