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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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 マサモリの魔人軍は今までの盗賊団と違って防衛を行う。他の魔人軍は防衛など行わないので蝗の様に動いていた。その感覚で魔人軍領へ行くと返り討ちに合う。現に冬の間に北から来た襲撃者は多くが返り討ちになった。


 盗賊は強い相手からは逃げて弱い所を襲う。魔人軍領内では逃げても盗賊のように他の村を襲って略奪出来ないので逃げる旨味が少ない。魔人軍から見れば襲撃者は全て自分の領内の村を襲う事になるので逃げる意味が皆無だ。北部を平定すればラギドレットのある東側だけ守りを固めればいい。浸透してくる盗賊は居るだろうが北と東から攻撃される現在よりは随分楽になる。




 使い魔の視点で北部を眺めて、不味いなとマサモリは思った。何よりも問題なのは征服した先でほとんど略奪出来ないであろう事だ。シュドラの時から大規模な略奪を認めないお上品な行動を心掛けていたが町を落としたら金目の物を回収してそれを分配していた。その見込みがほとんどない。


 多くの町は既に半壊しているので落としたところで収穫はほとんどないだろう。魔人軍の兵士が不満を持つのは確実だ。だが無い物はどうしようもないし、魔人軍の兵士達を気にしすぎる必要はない。圧倒的な力で捻じ伏せるのだ。


 あんまり甘くするとすぐにつけ上がってしまう。冬に無様を晒したので怒っている振りをしよう、マサモリは心に決めた。収獲の早い作物が出来始めれば余剰分を売って金に出来る。それまでの辛抱だ。



 マサモリは梅雨になる前に遠征を切り上げるつもりでいる。食料の問題もあるし、農村の手入れもある。今の侵攻度では北部全域を征服するのは不可能だと判断した。すると、どの場所で侵攻を止めるか決めておかなければならない。今年の冬の主戦場になるのを考慮して冬に守りやすい場所が良い。


 穀物は他の野菜に比べて作るのに時間がかかる。その代わりに他の作物と違って保存が可能だ。遠征時には普通の野菜ではすぐに腐ってしまうので穀物が中心となる。穀物の備蓄があれば夏から秋にかけて遠征も出来たのだが去年の襲撃の影響で今年は夏の出陣をする余裕はない。


 現地調達形式で進軍する手もある。超大陸ではほぼ全ての軍がその方式をとっているので攻城戦の時の士気は高い。勝てば略奪し放題だからだ。しかし現在の状況は北部の方が魔人軍領よりも飢えている。一つのパンを巡って殺し合いが今でも各地で起こっている最中だ。町からは家々が焼けた煙が細く立ち上っている。


 魔人軍が征服できなかった地域は今年も地獄を見るだろう。だからといって完全に見放すつもりはマサモリにはない。防衛線を張れた所で魔人軍の兵士や農民を募集する。農民の多くは奴隷なので珍しい職業農民の誕生である。農民は奴隷の代名詞の様な存在なので好き好んでなりたい職業ではない。


 しかし今の状況なら農民をやっても良いという人が出てくるだろう。魔人軍領では農民でもまともな生活が保障される。そので状況が伝われば人が来るのではないかと思っている。当たり特性を引けなかった魔物人は這い上がれる機会すら与えられなかった。そういう人にもまともに生きれる道を作りたいとマサモリは思っている。



 農民は奴隷扱いだったので鍛える時間は与えられなかった。朝から晩まで仕事漬けだ。しかし魔人軍では鍛錬をする時間を設けている。身体能力は通常の人間より上がっているのでしっかり鍛えれば普人より強くなれる。ナツメやクザームもそうだったが超大陸の人は常に力を欲している。戦い方を教えれば諸手を挙げて感謝してくれる。


 超大陸で幸せになるには力が必要だ。魔人軍の兵士はまだ練度も低いので農民から始めても鍛錬次第では兵士にも転向できる。マサモリは農民も力を得る機会を与えるべきだと常々思っている。本当の力は魔物人となった事で得た力ではなく、自分で鍛え上げた力なのだ。




 捕らぬ狸の皮算用をしていたマサモリであったが征服計画を修正した後は計画通りに侵攻していった。北部は既に中身がボロボロなので強者達は魔人軍の接近を知るとすぐさま逃走した。残ったのは餓死寸前の人々だった。戦って町を守ろうとする者は皆無だ。逆に町を捨てると同時に町を燃やし尽くそうと火を放って逃走した者が出る始末である。


 多少は戦いになるだろうと思っていたマサモリは手ひどい肩透かしにあった。魔人軍は征服した町や村の住民を魔物人にしようとしたが既に生き残っている者は全て魔物人となっていた。樹海の食料を食べなければ冬を乗り切れなかったようだ。


 魔物人にならずに済んだ強者は食料をありったけ持って町を捨てた。残されたのは動く事もままならない飢民の群れだった。マサモリは飢民を考慮した上で食料を持ちこんだがその数は予想以上に多かった。生き残っていた全ての人が飢民だったのだ。


 襲撃者となった者が多数居たので北の人口は減っているとマサモリは思っていた。だが襲撃者の背後にはもっと多くの弱者が居たのだ。



 飢民の数を目の当たりにして、当初の計画が順調に進んでも結局は食料不足で侵攻は止まっていたと分かった。マサモリは飢民に食料を与えて兵士になるか農民になるか選ばせた。多くが兵士を希望したが兵士になる為の最低限の力すら持った者は少なく、力ある者は強者の下に付くか南への襲撃者となっていた。


 とりあえずマサモリは飢民を農村に分配して生産体制を整えた。防衛線を素早く構築した後は農村を補修し、荒れ地を開拓して畑にしていった。そして魔人軍は雨季に入る前に防衛用の部隊を残して足早に撤収したのだった。




 財貨は全く得られなかったが北部の半分を征服し、食料生産体制を整えた。上手く行けば募兵するだけで北部のまだ征服していない地域は崩壊するかもしれない。マサモリは塗り替わった地図を眺めながら一安心した。


 食料を独占している強者を魔人軍へ恭順させれば北部をすぐに支配出来る。しかしそれをやってしまうと魔人軍が食料不足になってしまう。それに戦わずに強者は取り込んでしまうと上下関係を理解しないまま組織の中に合流する事になる。


 超大陸の人間は相手の強さを測る能力に優れている。しかしマサモリ達は力を隠しているし、稀にしか力を示さない。一回模擬戦をして力の差を見せつければ良いのだが、そうすると強いマサモリやシラギクを避けて悪事を行うだろう。


 強者は強者故に扱い辛いのだ。マサモリは今まで四天王だったとはいえ、魔人王になったのは今年からだ。まだ魔人軍自体が新体制に慣れていないので急速な組織の拡張は組織を歪ませる。強者を取り込んだは良いが獅子身中の虫になられても厄介だ。


 いや、いつどうやって取り込んでも確実に獅子身中の虫になる。それ自体は理解しているのだがタイミングが余り良くない。もう少し魔人軍にマサモリの支配体制を確立してからでなければ、彼らは影響力が高すぎる。


 取り込んだ北部の兵士を吸収して魔人軍の中で大きな派閥を形成されたら適当な理由を付けて殺さなければならなくなる。それに魔人軍の戦闘訓練もしたかった。しかし今回はただの盗賊狩りの遠征になってしまったので一戦位はまともな戦いがしたいとマサモリは思った。


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