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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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 農村から農民が居なくなるという事は逆説的には別の農村に連れていかれたか、どこかに売られたかになる。農村を作るスペースは魔人領にはほとんどない。既に使えそうな場所はシュドラが開拓して農村を置いている。


 売られたの場合、向かう先は二か所しかない。北部か東部のラギドレットかだ。北部は食料不足で奴隷を売っても大してお金にならないだろう。そう考えるとラギドレットに連れていかれたと考えた方が確実だ。ラギドレットに奴隷を盗まれたと難癖をつけて攻めるのも一つの方法ではある。しかしまずは北部をしっかり手中にして管理しなければ今年の冬も確実に荒れる。


マサモリ達魔人軍は魔人軍領の中を補修しながら進んでいる。しかし使い魔は既に北部の様子を捉えている。北部から魔人軍領へと続く道には多くの死体が転がっている。普通は人の死体があっても魔物や獣が食料とするのですぐに無くなる。


 しかし死体の量が多すぎて北から魔人軍領に向かって点々と死体が続いている。その全てが裸にされて身包みが剥がされている。冬を生き延びられたのは襲撃に成功したほんの一握りだろう。彼らは洞窟等に身を潜めて春を待った。


 故郷が無事なら春になれば彼らはひっそりと故郷へ帰るだろう。しかし彼らには帰る場所が無い。行く場所の無くなった彼らは盗賊として生活していくしかない。そうなると被害が出るのは魔人軍領なので彼らが活発に動き出す前に討伐しなければならない。


 マサモリは冬の寒さを凌げそうな場所を念入りに探した。山や森は隠れるのに適している。特に春になったばかりで草木は新芽を出したばかりだ。雪解けで湿った大地には人の足跡がくっきりと残るので盗賊達を見つけるのは容易だった。


 足跡の数と踏み込んだ深さ、間隔を見れば相手の数と力量、状態が分かる。生活に余裕があれば足取りは軽やかになるがどの足跡も間隔は狭く、深く踏み込んでいて足跡の形が悪い。足跡から疲労、空腹状態で移動に強化魔法を使えないのが見て取れる。


 マサモリは適正よりも多めの数の部隊を派遣して領内に潜む盗賊達を討伐していった。クザームの部隊にも盗賊狩りを任せた。ツリーマンが数人付いているので大丈夫だろう。



 春の日差しが強くなれば地面は乾き、足跡は残らない。草木が青々と生い茂れば上空からの偵察は困難になる。冬と春が移り変わるこの時期を逃せば領内に入り込んだ盗賊を狩るのにかかる労力は数倍以上となる。


 マサモリは忍者エルフ達の力を借りながら領内の盗賊を見つけていった。魔人軍の練度はいまいちだが勝ち戦なら問題なく運用できる。通信石を使って領内の盗賊を徐々に減らしていく。魔人軍には小さな勝利を与えているがこの後に待っているのは延々と続く死体の埋葬作業だ。


 このまま死体を放置したら魔物に食べられるかゾンビになってしまう。魔物や獣が食べた場合は人の味を覚えてしまい人を狙うようになる。人の体は魔力があるので大量に食べるとゴブリン等はすぐに進化してしてまう。


 死体をそのまま放置しているとゾンビやスケルトンに変わる。北部では大きな町が壊滅してゾンビやスケルトンの溢れる町となっている。



 これらに対処する事を考えるとしっかりと燃やして埋葬するのが結果的には一番楽なのだ。ゾンビ等の死霊系の魔物は殺された人間を同族に変える。魂が抜けだした肉体に悪霊が入って人の体を操るからだ。低級のゾンビには多くの悪霊が詰まっている。そのせいで動きが緩慢な個体が多いと言われている。しかし宿っている悪霊が強い場合は一体で体を操作するので元の体以上の力を発揮する。



 農村を簡単に補修して畑に種を撒いた部隊が次々と合流していくる。マサモリは部隊を動かして盗賊を倒し、農村を復旧していった。少数の盗賊が各地に多数存在しているので部隊は休みなしで派遣されていく。まだ魔人軍領内なので忙しいだけで済んでいるが北部へ行くにしたがって荒廃が進んでいる。


 北部ではなんとか冬を生き残った者同士で再び戦闘が始まっていた。略奪の為に魔人軍領へ向かって南下してきている集団も多い。一様に頬がこけ、殺気を漲らせているので凄惨な殺し合いになるだろう。そして奪わなければ餓死するので簡単に退かないのは確実だ。


 海岸線の村や町では魔物人が魔物化して暴れ回っている。早く対処しなければ強力な個体に成長するだろう。マサモリは先の事を考えると気が重くなった。しかし守るよりも攻めた方が被害は少なくて済むし、マサモリが征服すれば食料だって生産できるようになる。善意の征服なので征服地に重税をかけたりしない。確実に今よりもましな生活になるだろう。マサモリは遅れが出ている部隊を叱咤しながらも魔人軍領を回った。




 魔人軍が領の西部まで到達すると領内の大まかな補修が完了した。すると次々に部隊を北へ送っていく。森や山に残っている死体は魔物や獣が処理するのでとりあえずは街道に横たわる無数の死体を処理していく。


 普段は略奪の事しか考えていない魔人軍の兵士も流石に北へ向かって延々と続く死体の道を見ると思う事があったようだ。シュドラが開拓作業をしていなかったら魔人軍もこうなっていた。樹海の食べ物を食べ過ぎて多くが魔物になって仲間であった魔人軍と殺しあっていただろう。


 超大陸の各地に派遣されたエルフ達からは未だに星外生物殲滅の知らせは無い。いつ爆発するか分からない爆弾を抱えたままでいるのはストレスが溜まる。マサモリも魔人軍を使ってそれとなく星外生物を探したが収穫は皆無だった。




 北部への移動は思った以上に難航している。部隊を分けて効率良く死体を処理しているのだが、なんせ数が多すぎた。この分だと山や森へ分け入って死体を処理しないと魔物や獣が死体を食べて強くなりすぎてしまう。何事も適正量を超えると悪影響を及ぼす。マサモリは使い魔で北部の様子を観察しながら次の手を考えた。


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