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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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「冬のお前達の体たらくには大いに失望した。あの程度の盗賊を退けられない奴らはあそこで死ぬべきだった。お前達が余りにも無様すぎるので、俺がシュドラの跡を継いで魔人王になる事にした。文句がある奴は前へ出ろ!」


 マサモリが威圧感を滲ませて魔人軍を睥睨した。多くの兵士達が目を伏せた。中には気丈に者も居たが実力的には四天王だったゾグルの足元にも及ばない。


「ふんっ。臆病者共め。俺が魔人王になるにあたって組織を再編する事にした。新四天王のシーラだ。こいつは実質、俺の副官になる。そしてツリーマンの部隊を近衛兵とする。近衛兵は各部隊長よりも上の立場になる。近衛兵に逆らった場合には殺されると思え。意見を言う分にはまあ、いいだろう」


 超大陸の人間には偉そうに話したの方が話しが通じやすい。下手に出たり丁寧に話しかけると舐められるのだ。マサモリも超大陸の流儀が分かって来たので面倒だと思いながらも威圧しながら話しを続けた。



「今後、四天王はシーラが決める。シーラに実力を認めさせた者が新しい四天王となる」


 静かだった兵士達が騒めいた。突然現れた女という事で兵士達は納得できないようだ。しかし実力主義となると男も女も関係ない。既にマナスが四天王だったのでなんの問題もない。


「今のお前達の強さでは誰一人、四天王にはなれないがな。納得できないならシーラに挑戦してみろ」


 ある程度説明が終わるとマサモリはシラギクに任せた。


「あたいがシーラだ。四天王になる条件は簡単。強ければ四天王になれる。あたいにお前達の実力を見せてみろ!」


 シラギクが壇上から降りると広場の中央へ向かった。


「さあ! 我こそはという奴はかかってきな!」

「四天王一番乗りは俺だぁ!」


 兵士の中から周りよりも二回りは大きい熊人が歩み出た。体格差だけで強化魔法を使った普人を握りつぶせそうな肉体だ。熊人はシラギクの前に歩み出ると手足から岩を出現させた。岩は熊人の体全体を覆った。


 ゴーレムと化した熊人は真っすぐにシラギクへ殴りかかった。シラギクが軽く手で熊人を押すと熊人の体を覆っていた岩が一瞬で砕けて熊人がゴム鞠の様に吹き飛ばされて地面を跳ね回った。民家の壁を突き破ってやっと勢いが収まった。


「はい、次!」

「さすが姉御!」

「やっぱ強いぜ!」


 クザーム達の部隊がシラギクを応援し始めた。彼らはシラギクの勝利を一片たりとも疑っていない。案の定、挑戦者は片っ端からシラギクに吹き飛ばされていった。


「元気があってよろしい!」


 シラギクは嬉しそうに挑戦者を褒めた。何人か吹き飛ばした時点で魔人軍もすぐにシラギクが強者だと受け入れた。最後の方には記念に吹き飛ばされる者も出てきた。超大陸では力こそ正義なので全てがシンプルで良い。反抗心を持っていたであろう者達も今は機でないと分かっただろう。


 ただ問題なのはシュドラが居なくなった間に魔物人が増えたり減ったりしている。一度それらを再確認しなければならない。勝手に部隊長になっていた者を集めて兵士の数を報告させる事になった。


 確認しても人数が合ってなかったり、複数の部隊に所属している事になっていたりする者が居てマサモリは頭が痛くなった。だからといって再編に時間を取りすぎてもしょうがないので適当な所で切り上げた。




 ビッターには守備の為に少し人を残して、それ以外の魔人軍全員で奪われた農村を取り返す。そして北上して荒れ果てた北部を征服する。遠征は長引けば長引くほど食料を消費する。魔人軍を見渡すとあまり緊張感が無くて心配になってくる。余裕を持って行動しようと思っていたマサモリだったが魔人軍の様子を見て行軍速度を上げようと決意した。


 マサモリは部隊をいくつかに分けて波長を変更した通信石を各部隊長に渡した。波長を変えたので今までの通信石を持っていても盗聴は出来ない。これでシュドラの時と同じように通信が出来る。マサモリは捕らえた鳥を大量に使い魔にして空へ放った。マナスと同程度以上の索敵能力を得た魔人軍は奪われた農村へと向かった。


 目的地に着く前に山が崩れていたり、道が塞がっていたり、橋が落ちていたりした。使い魔で先の状況が分かっているので適宜部隊を先行させて補修させた。各部隊には魔法が使える者が配置されているので補修作業はそれなりに上手くやっている。手抜きをした部隊がいたので物理的に雷を落とした。それが効いたのか、しっかり働いている。


 遠征というより補修の意味合いが強い行軍となっている。奪われた農村に着いたがもちろん誰も居ないし、建物の残骸も灰となっている。盗賊は燃やす事が大好きなので勝っても燃やすし、負けても燃やそうとする。残しておいたらいざという時に使える機会があるかもしれないとは思わないようだ。


 火を見るのが好きなのだろう。そして敵が攻めてくると分かっていて残るような愚か者は存在しない。部隊に農村の復旧を任せて、本隊はドンドン先に進む。農村の復旧は作業日程を指定しているのでそれが終わったらすぐに本隊を追う様に指示をした。


 農民は全て残っていないが畑は冬だったので燃やされたり荒らされたりしていなかった。人を連れてくるか、効率は下がるが魔人軍の兵士に耕させても良い。幸い、ビッターの町には作っていた作物のリストと今年の作付け計画書が残っていた。今年はそのままそれを使うつもりだ。



 マサモリは進みながらも農村の復旧の進捗状況を眺めている。指示は分かりやすく簡潔にしないと指示を聞いても理解されていない場合が多かった。文字が書ける魔物人自体が少なく、予定とか予想が特に苦手だ。刹那的に生きてきた者が多いので長期的な思考が出来ない。


 何をするにもしっかりと指示しておかなければならない。そして指示したからと言って素直に言う事を聞くかと言われるとそうでもないので困る。マサモリは監視用の使い魔を低空飛行させて農村を復旧している魔物人達はわざと見せつけた。監視を怠ると彼らはすぐにサボるし、資材を盗む。


 魔人軍は兵士であると同時に未来の盗賊なのだからしっかり把握しておかなければならない。もし抜け出す者が居たら大半の場合が盗賊となって魔人軍領を荒らすだろう。魔人軍は大規模な公共事業みたいなものだ。


 はみ出し者を纏めて力で従える。放っておくと好き勝手に暴れて周囲を破壊するので誰かが手綱を引き締める必要がある。そう考えるとマサモリは気が楽になった。支配するのではなくて、世界の為に管理するのならマサモリ的にも納得できる。魔人軍は公共事業だったのだ。


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