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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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『山脈を偵察していたモブツリーマンが殺されました……。なんたる恥辱! もっとモブツリーマンを送り込みましょう』


 マサモリが喫緊に迫った春の行軍について頭を悩ませているとモブ美の念話が響き渡った。


 事の始まりはゴーレム討伐の際に遡る。超大陸南部地域に大量のドワーフや奴隷兵が出没した。南部地域の規模を考えるとあそこまでのドワーフは居ないそうだ。空には使い魔が多数飛んでいるので山脈を超えてきたとは考えにくい。もしそうだったら山脈の踏破ルートが既に明らかになっているだろう。


 しかしそれが見つかってないという事はまだ知られていない移動手段がある事を意味している。そこでドワーフが山脈間の移動手段を探る為に数人のモブエルフを派遣していた。しかし今までその存在が露呈しなかっただけあってか、未だ糸口も掴めていない。


『二人一組で山脈部を探っていましたが、二人のモブツリーマンが同時に攻撃され、死亡しました。いくらモブツリーマンと言ってもそこらへんの盗賊なら一人で皆殺しに出来ます。それがこんな素晴らしい辱めに合うだなんてっ!』

『犯人はドワーフです! 根拠もなく、絶対にドワーフが悪い!』


 ボタンが念話を荒げて参加した。


『モブツリーマンが瞬殺されるなんて相当な事だね。増援を送って情報を収集して』

『やった! 任せてください! マサモリ様』

『私も行きます!』


『良いけどモブツリーマンとは同行せずに少し離れて着いて行っていつでも逃げられる様にしてね』

『はっ! 行きますよぉ、モブ美! ドワーフを殺しましょう』


『殺すなら情報を抜き出してからで!』

『はい!』


 ボタンは念話が終わるとすぐに飛び出して行った。モブ美が急いでモブツリーマンの増援を送り出した。


『地位が高そうなのが居たら催眠して商取引を出来るようにしよう』

『えっ! 殺さないんですか? 分かりました。常に十割引で取引させましょう』


『そんな事したら操られているのがすぐに露呈するから駄目だよ。俺達には取引の必要性はないけど魔人軍には必要だ。生かしておいて情報を抜き続けよう』

『分かりました。より多くのドワーフを殺す為ですね』


『違うけどそうだよ!』

『はっ!』

『へへっ、私は粗末な装備の方が嬉しいです』



 ボタンとモブツリーマンが念話の届く範囲外に出ると呼び出していたクザームがマサモリの部屋に来た。


「クザーム、お前にはハーフエルフの部隊を率いてもらう」

「おう! 命を賭けて頑張るぜ!」


「一応、副官にツリーマンを付ける。今回の遠征もそうだがお前達は絶対に死ぬ事を許さない。死体からお前達がハーフエルフだと露呈する可能性がある。それだけは絶対に知られてはならない。だから死体はその場で証拠隠滅の為に燃やす事になる。本来なら死体になってもカメリアに連れて帰ってやりたいがお前達の素性がバレたらカメリアの町は襲われるだろう」


「俺ぁ、サーモ様に命を拾われた身だ。その覚悟はハーフエルフ一同、既に決めてるぜ!」

「そうか。だが簡単に死ぬなよ。お前達の本領はカメリアを守る事にある。お前達が今までに虐げられてきたからと言って血に酔うなよ。心に闇を抱えた者ほど、力を得るとそれに酔う。カメリアにはお前達が必要だ。絶対に死ぬな」


「お、おう! サーモ様が死ぬなと言うのなら俺達ぁ絶対に死なねえ!」

「ああ!」


 クザームの声が震えた。マサモリは何度も頷いた。


「クザームの部隊は解放された欠損奴隷の部隊という事にしておく。周りはお前達を蔑むだろう。しかし何とか抑えてくれ。その方が何かあった時に言い訳がしやすいんだ」

「分かった!」


「もし、農村や町で囚われているエルフやハーフエルフを見つけたらツリーマンの誰かに伝えてくれ。後でこっそりと救出する。大っぴらに解放するのは難しいからその場では騒がずにしっかり報告してくれ。今回の遠征ではそちらの方がお前達の本来の目的になる。お前達が囚われたハーフエルフ達を救うんだ」

「おう!」


 クザームは瞳に決意を滲ませながら退出していった。本来ならもっとハーフエルフを鍛え上げてから実戦に投入したい。しかし大事にする事だけが人にとって良い事ではない。時には厳しい状況にも叩き込まなければならない。


 マサモリ達が一緒に居られる内にハーフエルフ達には出来るだけの経験を積ませたい。ハーフエルフ達には小さくてもいいので成功経験が必要だ。前回は身内だけなので絞りに絞ったが次からは周りの部隊との共同作戦だ。ここで自信を付けて次への弾みにして欲しい。


 問題山積の魔人軍であるが、ハーフエルフ達との友好関係だけは成功していると言える。今もマサモリが魔人王になった事に関しては良いのか悪いのか正直判断が付かない。魔人王になれば表面上は上手く行くだろうがマサモリに野生の猛獣の世話が出来るかと言われると自信がない。


 マサモリがカメリアを離れている間にラギドレットと結託してカメリアを襲う可能性だってあるのだ。シュドラの運営が悪かったのなら多少の改善で良いだろうが、シュドラの魔人軍の運営は上手く回っていた。あれと比べられるのは正直困ってしまう。


 ある程度の戦いとある程度の勝利、そして食料に財貨を常に与え続けなければならないと考えると頭が痛くなってくる。そう考えると魔人軍は店の経営に似ている。マサモリは出島村の管理に関してはサビマルに一任している。如何に自分が未熟なのかを痛感する思いだ。出島村に戻ったらサビマルに色々と相談しようとマサモリは思った。




 山脈部へ送ったボタン達からの報告がないまま、春となった。マサモリ達は氷塊に乗って再び魔人軍へと向かった。マサモリがツリーマンとクザームの部隊を連れて魔人軍の本拠地があったビッターの町に入ると広場にてんでバラバラに散っていた魔人軍の兵士達が一斉に道を空けた。


 マサモリ達は堂々と進み、シュドラがいつも演説に使っていた壇上に上がった。するとざわついていた魔人軍の兵士達は一斉に口を紡いだ。

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