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マサモリは既にフォレストの核の場所を知っていた。しかしフォレストを鎮める方法までは分かっていなかった。だが核となった魔物人の話しを聞いて方法が思いついた。本来なら魔物人を抜いてからフォレストの部分を破壊するつもりで居たが、皮肉にもフェニックスが乗り移った事でフォレストの体を操れると知った。操れるならもっと穏便な方法が取れる。
フェニックスはシラギクからの妨害を放置してマサモリの阻止に全力を傾けた。マサモリが根を伸ばすとフォレスト内の木や根が行く手を阻んだ。しかし行く手を阻んでいた木や根も世界樹の魔力を感じると抵抗が弱くなっていく。
フェニックスは混乱した。フォレストの操作権では優っているはずなのに敵の根は難なく守りを突破していく。マサモリの支配部分が広がってくると隣接した部分も影響を受けて眠りについていく。フェニックスは高揚とは一転して怒りと恐怖に包まれた。
フォレストの体は燃えさかる火よりも冬の穏やかな眠りを求めた。フェニックスにもその感情が伝わって来た。フォレストの体はフェニックスを拒否し始めた。フェニックスは絶叫をあげると支配部分を全て燃やし尽くすつもりで火をつけた。そしてフォレストの体を捨てて上空へと飛び立った。
結界は未だ塞がり切っておらず、フェニックスはその隙間から外へ逃げ出した。フェニックスの脱出と共に氷の大樹となってマサモリがフェニックスに向かって一斉にこの葉を飛ばした。フェニックスはフォレストから魔力を奪って巨大化していたが氷の刃の様な木の葉に撃ち抜かれて急激に小さくなっていった。
シラギクが飛び立つフェニックスに向かって重力魔法をかけた。しかしフェニックスは体の一部を失いつつも重力魔法を回避して結界の隙間から外へ飛び出した。フェニックスはそのまま上空へと飛び去ろうとした。しかし壁にぶつかったような感覚と共にフェニックスの飛翔は止んだ。
結界の上にフェニックスを捕らえる為に結界が張られていたのだ。フェニックスはすかざず灰になって結界を抜けようとする。しかし灰になっても結界は抜けられなかった。再び火の鳥の形状を取り戻そうとしたフェニックスだったが結界は瞬時に収縮して片手に収まる程度の大きさになった。小さな結界の中で種火になってしまったフェニックスは結界の収縮と共に滅びた。
フェニックスの今までの行動から、フェニックスを追い詰めれば逃走するのは確実だった。本来ならフォレストごと倒してしまった方が確実なのだが、フェニックスの性格を知るとそこまでする必要もなく逃げると判断した。
現にフェニックスは不利になるとすぐに逃走した。あのままフォレストの体内に留まって抵抗されたら苦戦していただろう。フェニックスが防衛方法を変えて臨機応変に対応して来たらマサモリもやり方を変えなければならなかった。
窮地に陥った時に諦めずに粘り強く戦える者は手強い。しかしすぐに逃げ出す者なら脅かすだけで勝ちを拾うのは簡単だ。
マサモリはフェニックスを倒すと急いでフォレストの消火を始めた。周囲に散らばる氷の柱を壊して周囲に向かって放出した。フォレストの周りではフォレストの作り出した森林が未だ燃え盛っている。マサモリが氷の欠片を飛ばすと一面がブリザードの様になった。ブリザードが森林の間を吹き抜けたが、木々は燃え落ち、灰しか残らなかった。灰を吸収して黒くなったブリザードは燃える森林を進んでいった。
フェニックスが抜け出した後のフォレストは火に対する耐性を失って大きく燃え上がっている。シラギクは武器で大きく燃える部分を切除していった。マサモリは水魔法でフォレストを包み込んだ。しかし炎は水の中でも依然燃え続けている。マサモリは水を徐々に氷に変えていくが炎と氷が拮抗して中々消火出来ない。
マサモリは内側からは根を通して冷気を送り、外側からは氷で冷やした。フォレストはフェニックスに魔力の大半を奪われていたので抵抗力も鈍っていた。全ての炎が消火出来た時にはフォレストの半分以上が焼け落ちていた。
『とりあえずなんとかなったな』
『そうだね。でもフォレストはどうするの?』
『うーん、魔物の抜け殻みたいなものだからなー。成長限界も緩いみたいだし危ないから魔力を吸収しちゃおう』
『おっけー』
マサモリは世界樹に似せたの魔力でフォレストを包み込むと徐々にフォレストから魔力を奪っていった。シラギクもそれに倣う。時間をかけてゆっくりと魔力を奪うとフォレストは端の部分から徐々に砂へと変わっていった。
フォレストから魔力を奪うのに並行して植林用の挿し木を成長させていく。挿し木は成長させ過ぎると普通の木よりも劣化した木になってしまう。時間という肥料を与えないと木は脆弱になる。マサモリは魔力で急成長させても影響が少ないギリギリの所まで成長させた。そして片手でフォレストから魔力を奪い、もう片方の手で様々な木を成長させて挿し木を作った。
シラギクも手伝ったが上手くいかず、植える担当となった。シラギクが挿し木に強化魔法をかけて投げていく。結局どこへ行っても植林作業になってしまった。
フォレストの体は成長限界が緩い。普通の生物には成長限界がある。成長しても大きさがある程度になるとそれ以上は大きくなりにくくなる。その成長限界がフォレストは緩かった。下手をすればフォレストの形状よりも大きくなってしまう可能性がある。核となる中身が居ないフォレストに悪意がある存在が入ってしまうと手に負えなくなってしまう。
核になっていた魔物人は本来の体を失ったので魔物化特性はもう使えない。新しい急造の体で無理をすれば簡単に体は崩壊してしまうだろう。何年もかけて心と体を馴染ませなければならない。
北部地域はフォレストの魔力もあって植林は容易なのだが問題は東部地域だ。早く植林しないと雨が降って地上の栄養が地面の下へ下へと流れてしまう。普段は植物の根がそれを留めるのだが今の東部地域の大地はザルの様になってしまった。留めるものがないので雨水と共に栄養が植物の根の届かない所まで落ちて行ってしまう。
マサモリとシラギクはこれから始まる植林の日々にげんなりした。