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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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 彼が樹海の食べ物を口にしたのは飢えからではなかった。力を欲してだった。彼は幸いな事にドライアドのハーフで木に近かった為、そこまで食料を必要としていなかった。しかし木になって消耗を抑えても辺り一面が焼け野原なので目立ってしまう。世界樹跡地で木になるのは余りにも危険なので彼は森のある場所を目指した。


 世界樹跡地から北へ移動すると健在な林や森を見つけた。しかし巷では世界樹から逃れたであろうエルフを探してエルフ狩りが盛んに行われている。木に変身するのは彼にとって容易かったが時期が悪かった。エルフと間違えられて捕らわれたら一生奴隷として生きていく事になる。


 彼はエルフではないので彼個人を狙う者は居ない。しかし無差別に襲われる事が良くあった。彼は自分が世界樹の庇護を失い、地獄に放り出されたのをすぐに自覚した。彼は人に近づいて人と争うよりも人から離れてひっそりと生きる事の方があっていた。しかし世界樹の森林地帯が焼けた事で住処を失った者や仕事を失った者が超大陸の北部地域には溢れかえっていた。


 彼が求めている安住の地はもう破壊され存在しない。彼は人に騙されながらも懸命に生き残った。そして星外生物の影響で食料不足になり、人々は樹海の食料を口にせざる得なかった。彼は母から樹海の食物は絶対に食べてはいけないと言われていたので食べるつもりはなかった。


 しかし樹海の食べ物が広まっていくにつれてその考えを改めた。食料が減っていく前から北部地域は荒れていた。それに拍車がかかるとほとんどの者が飢えをしのぐ為に樹海の食料を口にした。そして多くが死に、生き残った者は魔物人となかった。


 魔物人は力を手に入れると魔物人ではない弱者から奪う様になった。すると弱者は一か八かで魔物人になる為に樹海の食料を口にした。超大陸北部地域の多くの住民がそうやって魔物人になった。魔物人が増える前なら彼の実力でもなんとか生き延びる事が出来た。しかし住民のほとんどが魔物人化すると身を守る為に魔物人になるしかなくなった。


 彼は意を決して樹海の食料を食べた。しかし大した変化は訪れなかった。食べる量が少なかったからだろうと思い、食べる量を増やした。そうすると体に活力が漲るのを感じた。何度か試してみて、彼はどうやら樹木化の性質を得たのだと理解した。


 元々ドライアドと普人のハーフであった彼は特に変異も無く、魔力と肉体が強化された。しかし運が悪く、元の能力と魔物化特性の相性が良すぎた。彼は樹海の食料を食べるだけで数年の鍛錬に匹敵する強さを得た。盗賊達に襲われたら逃げ回っていた彼だが力を得てからはそんな事をする必要は無くなった。


 彼は突然自分が地獄の支配者になったような気持ちになった。だが虚しいだけだった。強くなっても彼は火を見ると体が竦んで動けなかった。体は強くなったが心は昔のままだ。弱い心のままに彼の体は強くなり続けた。彼の周りには彼が脅威を感じるような相手は居なくなった。でも彼の心はひたすら空虚だった。


 世界樹を切り倒した侵略者を殺したいという思いもあった。しかし復讐心が燃え上がる事は無かった。もしこうなると分かっていたら母が生きている間に魔物人化していただろう。だが全ては過ぎ去った話しだった。彼が弱い内は地獄で生き残るという目的意識があった。しかし彼の周りには彼を害する者は居なくなった。すると彼は目的を失ったかのように虚ろになった。そして過去を思い出す時間が増えていった。彼の体は無意識の内に樹になり、穏やかな夢の中で微睡んだ。




『彼から得られた情報は以上です』

『明確な弱点の火が効かないのがきついな。あの時ちゃんとフェニックスを捕まえられてたらなー。失敗した。次は灰になっても結界から抜け出せないようにするよ』


『うーん、こんなに強い能力のある伝承個体ならお話しが残っているはず。なんで分からないんだろー』

『あんまりやりたくないけど思いついた。ボタンは広範囲に視覚阻害を頼める?』

『はい』


『失敗する可能性が高いから駄目だったら一旦引こう』

『おっけー』



 マサモリはフォレストの周りに打ち込んだ氷の柱に魔力を通してフォレストを囲い込む結界を展開した。それに気が付いたフォレストは背中の甲羅の部分にあたる森林部の木を真上に放った。燃える木は結界にぶつかると結界をこじ開けようと根を張った。


 木々が次々と打ち上げられていく。シラギクが阻止するが数が膨大で全てを撃ち落とすのは不可能だ。次にマサモリは結界内を冷やしていく。するとフォレストの周囲を包む炎が金切り声をあげた。


 周囲に配置した氷柱の根元からは一斉に氷の根が張り巡らされた。フォレストの足元にはフォレストが生み出した木の根が四方八方に伸びている。フェニックスは負けそうになったら根を伝って逃げる可能性がある。それを防ぐ為に大地を遮断した。


 地面には氷の根が張り巡らされ、東西南北には氷柱が檻の様に建ち並んでいる。フェニックスが空に活路を見出したのは当然だった。マサモリは氷の檻の蓋の部分に降り立つと精神を集中した。するとツリーマンの樹の部分が活性化して巨大化していった。樹は次第に大きくなっていく。


 以前マサモリが変身したエント形態ではなく、純粋な樹に近い。マサモリは自らが大樹となって結界の蓋となった。


 フェニックスは次第に大樹へ成長していくマサモリを見ながらも必死で結界を破ろうと燃える木を打ち上げ、自らも火球を放った。その甲斐あってか、結界に小さなヒビが入り始めた。大樹となったマサモリが結界の上から再度蓋をする前にフェニックスは脱出しなければならない。そうしなければこのまま結界に囚われて氷漬けにされてしまうだろう。


 フェニックスは持てる最大限の力で、圧縮した炎の塊を天に向かって撃った。炎の塊は燃える木々とぶつかると同時に大爆発を起こした。



結界が壊れて開いた穴から吹き出る炎の嵐がマサモリを包み込んだ。大樹となったマサモリは燃えながらフォレストへと落ちていった。


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