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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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 世界樹は自らが結界の要となって超大陸で最高の守りを誇っていた。しかしその守りは無残にも破られた。世界樹の攻略はシンプルな方法だった。世界樹の結界外の森を全て焼き払う。単純だが最も効果がある戦法だった。


 まともな神経をしていたら取らない様な戦法も超大陸の人は容易に実行した。エルフ達が世界樹の結界の中で守りを固め続けていれば結末は違うものになったのかもしれない。しかし目の前で広大な森が焼かれていくのをエルフは黙って見ていられなかった。エルフの矜持が許さなかったのだ。エルフ達は四方八方から絶え間なく放たれる火魔法や魔石砲弾を迎撃し、敵の部隊に襲い掛かった。


 短時間なら優勢に戦えていたエルフであったが敵の数は膨大で狡猾だった。戦いは一か月に及んだ。最終的に広大な森林は世界樹の結界内を残して全て焼き払われ、世界樹の結界には絶え間なく攻撃が続けられた。結界の破壊と共に女子供を逃そうとしたエルフであったが既に魔力は残っておらず抵抗らしき抵抗は出来なかった。こうして世界樹は切り倒されてエルフ達の多くが奴隷になった。



「魔物化個体は元エルフじゃないよね? そこまでは分からないか」

「エルフではなさそうですね。ただ木系統の種族である事は間違いないです」


「もしエルフだったら可哀想だな。話しは通じるのかな?」

「末端の樹では意思疎通は難しいようです。本体がどうだかは不明です」


「マサモリがどうにか出来ない?」

「うーん、話しが通じて、大人しくなってくれるなら手はあるけど……。正直倒しちゃった方が安全なんだよね。止めは俺が刺すから大丈夫だよ」


「私も殿に賛成です。例え魔物化個体を鎮められたとしても超大陸の人間は強欲です。大人しくなったら好き勝手に動いて魔物化個体の怒りを買うでしょう。魔物化個体だと言い辛いのでとりあえずフォレストと呼びます。よろしいでしょうか?」


「うん」

「いいよー」


「問題は魔物化個体の成長速度なんだ。今なら俺達でもフォレストを倒せる。けど成長し続けたら倒せなくなる。そうなるとエルフの森から援軍を呼ばなくちゃならなくなるし、戦闘も派手になる。エルフの存在が露呈したら超大陸中でエルフ狩りが復活しちゃうんだよね」


「そっかー。マサモリも大変だったんだねー」


「殿のお陰でドワーフをたくさん殺せました! シュドラ細胞も得られましたし実りが多い遠征だったかと。私としては殿にもシラギクにも無理をしてほしくないです。超大陸は獣の巣窟です。弱い者は悪なのです。ドワーフときたらゴーレムと戦っている殿を殺して細胞を採取しようとしていました。最終的には殿の細胞を使ったホムンクルスを作るだのと息巻いてました。はぁーっ! 滅ぼしたい滅ぼしたい」


「サビマルに相談したらドワーフは滅ぼせって言われたんだ。ドワーフは賢すぎるし、狡猾すぎる。特にエルフを敵視しているのが問題だ。ドワーフだけは危険すぎる」


「殿ーっ! 理解してくれましたか。感激です! えー、えー。殿はお優しいのでドワーフ如き虫けらにも寛大なのは仕方がない事でした。分かってくれればそれでいいのです。お優しい殿にここまで言わせるドワーフ共は邪悪すぎます。もしドワーフがエルフの森の存在を知ったら全勢力をあげて潰しに来るでしょう。奴らはそういう存在なんですよ! 現在ドワーフは人を魔物化させて使役する方法を開発しています! あっ、これは言っちゃ駄目な奴でした。なしで」


「はい」

「えっ、どういう事?」

「最後のは聞かなかった事にしてください」

「はーい」


「とにかく、フォレストがこのまま成長し続ければ超大陸が全て森になってしまいます」

「それはそれでいいかもしれない」


「しかし軍師の予想では超大陸の滅亡はエルフにとって好ましくないそうです。だから倒すしかありません」

「そうだね」

「うん」


「あっ、そろそろまじめな話しは終わりましたか? 私も話していいですか?」

「モブ美、もう少し待っててね」

「はい!」


「東部地域の魔物化個体は炎の鳥です。見た目からフェニックスと呼称します。フェニックスは火の粉を降らせて東部地域の三割以上を燃やし尽くしています。フェニックスを討伐すべく竜人族が準備を進めています。予測では二週間以内に終わる見込みです。早ければすぐに戦闘を始めても可笑しくはありません。フェニックスの討伐を待ちますか? それともすぐにフォレストへ向かいますか?」


「フォレストをすぐ倒しちゃえばいいんじゃない?」

「フェニックスの討伐を待ってからにしようか」


「シラギクの意見を採用してフォレストに行こうか」

「うん!」


「前回の反省を生かしてドワーフの武器を回収しておきました。使い捨てる事を考えて多めに持って行ってください。運搬はモブ美に任せます」

「えっ! 今回は一緒に行っていいんですか? 武器運びだなんて最高の脇役じゃないですか。巻き込まれて死んだら嬉しすぎてどうしよう……。頑張ります!」


「モブ美は変わっているけど仕事熱心なんだ。熱心すぎて困るけどたぶん実害はない。と思う」

「モブ美さんよろしくね!」


「私の事はもっと下っ端を扱う様に呼び捨てにしてください。雑用とかもドシドシ押し付けて貰って結構です。雑に扱ってくれるとなお嬉しいです。女エルフにやったような軽い折檻なんて最高です」

「良く分からないけど分かったよ、モブ美」


「はい!」



 マサモリは微笑ましいやり取りを横目にフォレストの倒し方を考えた。地面に根を張っていたら倒すのが難しい。大地の深くまで凍り付かせれば根にも痛手を与えられるがそこまでの魔法の行使は目立つ。最小限の力で勝つにはやはり接近して戦わなければならない。


 樹に効く毒を武器に塗るのが一番楽かもしれない。問題は本体とは別の樹だ。本体と繋がっていると毒攻撃をした場合、全ての樹に影響が出てしまう。出来れば本体だけ倒して、他の樹は残ってくれると嬉しい。しかし本体を倒したら樹も枯れる場合は荒れ地だけが残ってしまう。


 するとまた、植林作業をしなければならない。南部地域に比べれば楽だが大変な事に変わりはない。そこまで考えてマサモリはふと気が付いた。戦うよりは植林をやっている方が気楽だ。大変だけど遣り甲斐がある。


 超大陸の人間はみんな今に生きていて未来を見据えていない。もっと未来を見据えた行動は取れないものかと考えてしまう。超大陸の人を滅ぼしたいと思う側が一生懸命超大陸を維持しようとしているのは滑稽だ。


 やはり破壊より生産の方が楽しいし、前向きだ。絶対に無理だと知りつつも超大陸の人もそれに気が付いてほしいとマサモリは思った。



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