表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
160/211

160


『来ました! ドワーフが続々と集結しています! 昨日の倍以上います!』


 ボタンの念話でマサモリは目を覚ました。後はゴーレムに結晶攻撃を使わせてから退避するだけだ。しかしゴーレムはドワーフの気配を察知したのか黒と茶色の結晶を使って土棘を強化し、全周囲に向かって走らせた。


 ドワーフ達の動き次第でマサモリの動きも変わる。ドワーフが進めばマサモリは逃げる。ドワーフが引けば、マサモリは戦い続ける。流石に結晶をある程度使わせるまで待つだろう、マサモリはそう思った。



『ドワーフが動きました!』


 しかしドワーフ達は一斉に突進してきた。奴隷兵も居る。奴隷兵は押し寄せる土棘に囚われ、あっさりと殺された。その隙にドワーフが結晶に殺到する。昨日の成功から変に策を労せずに正面突破した方が成功率が高いと分かったのだろう。結晶に殺到するドワーフ達の目はギラギラと輝き、結晶を奪い合って喧嘩が起こっている。


 ゴーレムが怒り狂って黄色の結晶を使った。辺り一面に雷が降り注いだ。雷はドワーフと奴隷兵に直撃した。奴隷兵が焼けこげ、ドワーフから焦げ臭い煙が上がった。しかしすぐにドワーフ達はフラフラと動き出した。ドワーフの数は多く、金属製の鎧に身を包んでいたので電流は地面に向かったようだ。


 今までのゴーレムの戦い方を見てきたはずなのに出た結論が攻撃を正面から受けるという選択を取ったドワーフにマサモリは薄ら怖くなった。お目当ての結晶を掴み取ったドワーフが結界を発動させた。


『起爆!』


 ボタンの気合の入った念話が響き渡った。ゴーレムの足元に散乱していた結晶が一斉に爆発した。爆発から逃れる為に地面に潜ったマサモリにも大地を揺るがす衝撃が伝わってきた。


『成功です! このクソゴミ虫共は昨日の会議で、殿を殺してゴーレムが倒されるのを防ごうとしていたんですよ! 信じられません。自分達は何もやってないのに鉱石だけは全取りするだなんてとんでもない輩です』


『自分達じゃ倒せないゴーレムを放牧してどうするつもりだったんだろう』

『今回採取した結晶から鉄以外に効く振動弾を作るつもりだったようです。ついでに敵対的都市や鉱石を掘らせない都市に対して鉱石でゴーレムを誘導する計画もありました。これは天誅だからセーフです! 天誅!』




 結晶は多くの魔力を持っているので魔力を籠めれば魔石砲弾の様に爆発させられる。しかしゴーレムの体表を覆っていた結晶にはゴーレムの魔力が含まれていて起爆させようとしてもそのままでは起爆させられない。結晶を覆っているゴーレムの魔力を上書きしなければこちらの命令が通せない。忍者エルフ達はゴーレムが休息している夜の内に結晶に魔力を通し、すぐ起爆できるようにしていたのだ。


 大規模な爆発が発生して周囲に散開していた偵察用の使い魔達が爆発と衝撃で死んだ。マサモリは爆発で視界が悪くなり、使い魔達が減る時を待っていた。地面から飛び出してゴーレムへと急接近する。そして強化魔法を高めてゴーレムの頭部に力いっぱい斬りつけた。


 ゴーレムは爆発の衝撃をもろに受けている。しかし赤い結晶が誘爆した時に比べれば与えた損傷は小さかった。戦い続けていたマサモリはゴーレムの頭部に核があると割り出していた。マサモリが頭部を狙うとゴーレムは戸惑い、焦った。今までマサモリはゴーレムの体に生える結晶だけを狙っていて頭部を狙わなかった。


 マサモリとゴーレムの戦いが長期間に及んだのはそこに理由があった。マサモリは本気でゴーレムを倒そうとしなかったのでゴーレムも自分の不利を理解しつつも本気でマサモリを殺そうとしていなかった。


 ゴーレムは腕と土棘を駆使してマサモリを頭部から離そうとした。マサモリは左足をゴーレムに強く踏み込んだ。足がゴーレムの体内に沈む。そして武器を大きく振りかぶり、そのままの体勢でゴーレムの攻撃を待った。黒く強化された土棘がマサモリを襲った。マサモリは右足をそっと土棘に当てた。


 マサモリの右足に回転する土棘の衝撃が伝わった。マサモリはその瞬間、強く踏み込んで土棘の攻撃を自分の力に乗せて武器を振り下ろした。右足の筋肉が断裂する嫌な感触と音が響いた。そしてゴーレムの頭部が二つに割れた。ゴーレムの絶叫が衝撃波となって響き渡った。


 マサモリは剥き出しになった球形状の核に手を伸ばした。核は輝き、文字がいくつも浮かび上がっている。これを壊さない限りはゴーレムは何度でも再生する。マサモリは核を掴み取った。核を不用意に破壊したら赤い結晶が誘爆した時以上の破壊がもたらされるだろう。マサモリは核の暴走する魔力を抑え込み、腕の中で消化するように喰らった。


 濃密な魔力がマサモリの体に流れ込んでくる。マサモリは魔力が満たされていく感覚に一瞬だけ我を忘れた。しかしすぐに気を取り直してゴーレムの体から降りた。着地する直前にマサモリは右足の治療をしていなかった事を思い出して痛みを覚悟した。しかし予測していた痛みは訪れなかった。


 ゴーレムの核の魔力を吸収した際に既に右足は回復していたようだ。核を取った瞬間からゴーレムは頭部から砂へと変わっていった。残された結晶を忍者エルフ達が回収している。マサモリは近くにある大きな結晶を背負って、爆発の煙が収まらりきる前にその場所を離れた。


 忍者エルフの暗躍が悟られないように自分に注目を集める為だ。マサモリはカメリアへ向かって駆けた。しかし背後に追跡者の気配を感じて振り返った。しかしそこにはマナスの使い魔が居た。マサモリは手を握りしめて片手を軽く上げた。


 するとマナスの使い魔はくるりと空中を一回転した。了解、肯定を意味する使い魔のサインだった。するとマナスの使い魔はすぐにその場を離れた。マサモリはその反応を見て晴れやかな気分になった。シュドラ達も竜人郷で上手くやっているのだろう。




 ドワーフ達がゴーレム採掘の為に作り上げた即席の陣では阿鼻叫喚の様相を呈していた。ゴーレムから回収した結晶が全てゴーレムと化したのだ。ゴーレムは暴れるだけ暴れた後に魔力が減ると自爆した。


 結晶の保管場所が一か所に固まっていたらこの事態にもドワーフ達は冷静に対処出来ただろう。しかし保管場所自体はあったもののドワーフの多くは鉱石をチョロまかして自分の懐に入れていた。陣地の至る所でゴーレムが誕生して暴れ回った。


 陣には大量の魔石砲弾や物資が集積されていた。それらがゴーレムの自爆によって誘爆した。

ドワーフの陣が合った場所は、騒動が終わった頃にはクレーターとなっていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ