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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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『私に考えがあります!』


 ボタンの提案はこうだった。


『どうすればいい?』

『ゴーレムの体表にある結晶を全て剥がしましょう』


『全てかぁ、また気が長い作業だなあ』

『はい! しかし結晶を剥がせばそれに釣られてドワーフが沸いてくるでしょう』


『ドワーフの部隊が全滅したばっかりだよ? ないでしょ』

『いえいえ、ドワーフにとって鉱石は命。絶対に来ます。殺すのは私に任せてください』


『まあ、一当てするのは良いんだけど武器がないんだよね。ラギドレットで魔石を取って来た時には大荷物になるから武器類は持ってこなかった。良い武器は拾ってくるべきだったかなあ』


『急げばまだ現地に落ちてますよ。私が位置を把握しています! さあ! 殿! 行きましょう! ドワーフを狩り尽くすのです』


 ゴーレムの倒し方を知りたかったのに、まさかドワーフの殺し方を提案されるとはマサモリも思ってもみなかった。しかし不本意ながらボタンの予想は的中した。




『これですよ! これがドワーフです! 鉱石があれば、ちび鼻毛虫はどこにだって現れます! たぶん明日も湧いて出てくるでしょう』

『流石に打ち止めでしょ』



 ドワーフが四方八方に逃げたお陰でマサモリはたっぷりと休憩できた。ゴーレムが元の位置に戻って自分の体から落とされた結晶が無い事に気が付いた。今までで最大の咆哮をゴーレムはあげた。そこへマサモリが切り掛かった。憎悪に燃えるゴーレムだったが、本人のやる気とは裏腹に結晶の生成速度は落ちていった。


 お陰でマサモリは余裕を持って戦う事が出来た。二日目の夜の帳が降りるとゴーレムは昨晩と違って茶色の結晶を多用して防御と回復に重点を置いた。ゴーレムも夜間の戦闘は体力と魔力の回復に重点を置きたいようだ。マサモリはゴーレムの結晶を刈り続けた。しかしゴーレムは防衛に徹していたので昨晩より収穫量は激減してしまった。再び空が明るくなった。




『嘘だろ』



 朝になって見晴らしが良くなると、式神はマサモリとゴーレムを遠巻きにして待機するドワーフ達の姿を捉えた。ドワーフ達の手には振動弾と思わしき物が握られている。昨日と違うのは背中に大砲は背負っておらず、武器も携帯していない。まさか自分で結晶を掴み取って持ち逃げするつもりなのだろうか。


 マサモリの背中に汗がじんわりと滲んだ。マサモリの予測は現実となった。ゴーレムがマサモリを倒す為に結晶を多用した後にドワーフ達は駆け寄ってきて一斉に振動弾を投げた。マサモリは式神で確認していたのでさっさと退散した。


 ゴーレムが振動弾を浴びて悶絶しているとドワーフ達は地面に落ちる結晶や結晶の欠片を掴んで一目散に逃げた。ゴーレムが激怒してドワーフ達を追った。土棘がドワーフを襲うがドワーフは結界を発動させ、持っている結晶に魔力を通し武器代わりにして転がるように前転した。鎧以外は何も持っていないドワーフは軽妙に土棘の上を転がっていった。


 昨日、ドワーフが全力で逃げたら逃げ切れると思った。それが目の前で実証されている。四方八方に逃げたドワーフをゴーレムが追いかけようとした。しかしゴーレムには昨日の失敗が頭にチラついた。しかし追わない訳にも行かない。土棘の範囲は広がっているが、回転するドワーフを止めるには威力が心許ない。


 ゴーレムは迷った挙句、体の茶色結晶を掴み取ってドワーフに投げた。結晶は空中で割れて小型ゴーレムになると次に体を丸めて球形状になった。そして逃げるドワーフへぶつかった。回転するゴーレムは両腕だけを球形状から解き、腕で進路を調整してドワーフを追いかけた。追いかけっこ大会が開催されたが勝ったのはドワーフだった。


 ゴーレムは自分の周りに落ちた結晶を急いで回収してまとめて口の中に放り込んだ。ゴーレムが口を閉じる前に結晶の塊はマサモリによって結界で包まれた。予想外の感触にゴーレムの口が止まった。マサモリはそのまま結界ごと結晶を奪った。そして逃げたドワーフを追う様に逃走した。


 ドワーフに辿り着くとマサモリは結晶の入っている結界を遠くへ投げた。結界は形を鳥の様に変えてゴーレムの視界の外へ飛んでいった。ゴーレムは怒りの咆哮をあげながら回転するドワーフを掴んだ。そしてそのまま口に放り込んだ。その隙にマサモリはさっさと逃げた。ゴーレムはマサモリを追わずに近くに居るドワーフへと狙いを定めた。


 昨日と同じような追いかけっこが始まったのでマサモリは身を隠して式神から様子を窺った。マサモリは別に自分が手を出さなくても毎日ドワーフとゴーレムが争って消耗していくのではないかと思った。その日はドワーフの半分以上が逃げ切って結晶を手に入れた。ゴーレムはドワーフを追い続けて遠くへ行ってしまったが山の様な巨体は離れていても簡単に見つけられた。




『あのゴーレムはドワーフが魔物化したものでしょうね。流石、鉱石に掛ける情熱が違います。結晶の純度と大きさを考えるとドワーフにとっては命を賭けるに値する物なのでしょう』


 元ドワーフがドワーフと鉱石を巡って争っていると考えるとマサモリは微妙な気持ちになってきた。その日は一日中ドワーフとゴーレムの追いかけっこが繰り広げられた。


 夜になると昨日よりも焦燥したゴーレムが未だに結晶を持つドワーフを追い続けている。マサモリはそんなゴーレムに背後から斬りつけた。マサモリが結晶を削らないとドワーフ達も現れないだろう。マサモリが削ってドワーフが回収する。奇妙な関係が生まれつつあった。


 ゴーレムは土棘を自分の体に纏わせた。そして自分からは攻撃せずにマサモリの攻撃を待ち構えた。マサモリは土棘を気にせずに内側の結晶を砕いた。ゴーレムは黒と茶色の結晶を割って土棘を強化した。するとゴーレムの守りは強固となり助走を付けた攻撃でも結晶を少し砕くのがやっとになった。マサモリとしては有難い状況になった。


 マサモリは結晶を少しでも削りつつ、ゴーレムの回復を阻害したい。反撃されないと魔力の消耗が抑えられる。後は寝ながら結晶とゴーレムを刻む楽な作業になった。



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