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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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 苛立ったゴーレムが大口を開けた。黄色い結晶が放たれた。マサモリは反射的に両手剣を黄色い結晶へ向かって投げた。結晶が砕け散って日が沈みかけて薄暗くなってきた世界を白く染めた。光は両手剣へと直進した。一瞬の間をおいて雷の轟音がマサモリの耳に届く。


 雷は両手剣に収束し、そのままゴーレムの体に突き刺さった。ゴーレムの全身に電流が走り、ゴーレムの結晶が虹の様に煌めいた。するとゴーレムの体表の赤い結晶にひびが入り、爆発した。それはマサモリにとっても予想外で焦って防御態勢を取った。赤い結晶が砕けて熱と衝撃が辺り一面を包み込んだ。


 マサモリは素直に吹き飛ばされると一緒に吹き飛ばされた両手剣を回収しようとした。しかし両手剣は溶け落ちて武器としての機能を失っていた。マサモリは燃える腕に回復魔法をかけた。そして数少ない武器が無くなった事に一瞬後悔した。つい反射的に両手剣を投げてしまったが素直に受けて地面に雷を逃す事も出来たはずだ。


 しかし綺麗な光景を見られたから良いかとマサモリは思い直した。マサモリは体中の赤い結晶が砕けて赤熱しているゴーレムを横目に高く空へと飛んだ。空には先程投げた武器が各々にあった軌道で円を描くように回転しながら飛んでいる。マサモリは一番近くにある斧に近づいて握りしめた。


 そして上空から勢いを付けて下降した。近付くほどに熱が肌を焦がす。しかし気にせずにゴーレムへ斧を振り下ろした。結晶が鈍く砕けてゴーレム本体に斧が深くめり込んだ。しかしマサモリはそのまま押し込まずに再び勢いを利用して離脱した。


 土棘を蹴って再びゴーレムへと向かう。マサモリはほんの少し空気を吸った。頭に霞がかかるような感覚がして魔力が少し失われた。ゴーレムの付近の酸素が失われている。無警戒に呼吸をしたら意識を失いかねない。普段は結界を張っているので空気の状態に注意しないのだがゴーレムとの戦闘は結界に魔力を使う余裕がない。マサモリは呼吸を我慢して熱で脆くなった結晶を狙った。



 ゴーレムが悲鳴の如き奇声をあげながら口を開いた。青い結晶が吐き出され、砕けた。焼けるような空気が一瞬にして鎮まった。マグマの表面が固まり、水蒸気が立ち上った。複数の赤い結晶が爆発した事で付近には大量の熱量が拡散した。しかし青い結晶を使うとゴーレムの周辺だけが一瞬で凍り付いた。


 だが付近に撒き散らされた大きすぎる熱量には勝てず、氷の世界も水蒸気をあげて崩壊しつつある。しかしゴーレムは体が冷やされた事で持ち直したようだ。咆哮をあげながら土色の結晶を生み出し、砕いた。


 黒い結晶と赤い結晶の大半を失って体表を覆う結晶が減っていたゴーレムに土色の結晶が勢い良く生えた。結晶が補充された事で有効打を与えるチャンスが減ったマサモリであったが焦りは一切ない。今度は新しく生えてきた土色以外の結晶に狙いを定めて破壊していく。しかしゴーレムの体表を覆う結晶は多く、マサモリの攻撃は焼け石に水のようだ。




 戦い続けていると日が完全に沈み、暗闇が超大陸を支配した。時折、マサモリの攻撃が花火の様に宵闇に煌めく。ゴーレムは魔力を感知して戦っているようで闇になってもマサモリを確実に捉えている。しかし昼に比べると高速移動した時の反応が悪くなっている。


 明るい昼よりも夜の方がマサモリは有利に戦えている。ゴーレムも長い戦いに辟易しているようで攻撃が雑になっている。戦況は徐々に、そして確実にマサモリに傾いてる。ゴーレムは口から透明な結晶を出し、砕いた。すると一瞬だけ超大陸が昼の様に明るくなった。




 ゴーレムは今までの経験でこれが生物に良く聞くと理解していた。昼には効果が薄いが夜には効果が絶大な攻撃だ。ゴーレムは頬が緩むのを感じながら忌々しい敵を睨みつけた。しかし敵は目を瞑って閃光による目つぶしを回避していた。それだけではない。閃光が消えるまでの少しの時間に敵を観察してゴーレムは確信した。敵は寝ていた。ゴーレムの口から怒りと呆れ、少しの怯えを含んだ金切り声がこぼれ出た。


 生物は長く戦い続けられない。生物は夜に弱い。生物は容易に死ぬ。ゴーレムが今まで見てきた生物はそうだった。しかし目の前の生物は別種だ。無限と思われる程の体力を持つゴーレムは初めて自分の敗北を思い浮かべた。そしてそんな自分に対してゴーレムは怒り狂った。




 ゴーレムの攻撃はその巨体故に大雑把だ。腕を振るえば旋風が巻き起こるがそれも何度か見れば規模が把握できる。多彩な結晶を砕く攻撃は赤と黄色の結晶以外は決定力に乏しい。赤の結晶は誘爆で大半が失われたので怖いのは黄色の結晶だけだ。その黄色の結晶も武器を失う事を許容できるなら武器を投げる事であっさりと解決できる。


 同じ色の結晶はすぐに使えないようだ。自爆を覚悟して黄色の結晶を連発されたらマサモリでも厳しい戦いになっていただろう。だがそれをしないという事は結晶の生成に時間がかかるという事だろう。しかし茶色の結晶だけは他の結晶よりも圧倒的に短い時間で使われている。茶色の結晶が発動する度にゴーレムの欠けた結晶が再生された。



 普通の人間だったらゴーレムの再生力を見てまともに倒す事は不可能だと考えただろう。しかしマサモリはエルフでとても気が長かった。マサモリはゴーレムの挙動を覚えると夜になったと同時に寝た。




 暗闇に包まれた世界に空の端から光が滲みだした。光を感じてマサモリは目を覚ました。すぐに空を見上げて武器の残り個数をチェックする。手に持っている巨大な棍棒は寝ながら使っていたせいか傷が目立つ。しかし空に舞う武器はほとんど減っていない。魔力は予想よりも多く減っている。安全の為に強化魔法を強めに使っていたからだ。


 マサモリがゴーレム観察をしていると空が薄明るくなってきた。もう少し待てばすぐに太陽が顔を出すだろう。ゴーレムを覆う結晶は半分以上がまだ健在だった。残りの部分は茶色の結晶で覆われているが一晩経っても寝た時より少ししか削れていない。


 結晶が欠けた要素としてはドワーフの放った振動弾が一番大きい。次に誘爆した赤い結晶部分だ。マサモリが削った部分はほんの僅かだ。ゴーレムはカウンターを恐れて黄色の結晶による攻撃を減らしたのだろう。武器の減り具合からそれが分かった。逆に茶色の結晶を使う機会が増えた。ゴーレムもこの戦いが長期戦になると理解したのだ。


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