表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
153/211

153


「ふう」


 マサモリは思索にふけっている。ラギドレットから送られて来た強者達が去ると残りは魔人軍だけでも対処できる北の襲撃者のみとなった。なので後は魔人軍に任せてマサモリ達はカメリアへ帰還した。


 式神を多く残してきているので何かあったらすぐに察知できる体制だ。ハーフエルフは先にカメリアに戻ってきていたが雪の行軍は辛かったらしく、まだ寝込んでいる。叩き起こして訓練を再開するのも有りだがマサモリはやりたい事も有ったので止めた。




 マサモリは超大陸に来て以来、重量術の訓練に力を入れている。より発展した重量術は基本的な武術と違って型が存在しない発展途上の武術である。基本的な武術を重量術と組み合わせて応用できるがそれは重量術の本質ではない。今までの武術は足で踏み込む事を前提として作られている。もっと言えば人の姿に適応した武術だ。


 だが重量術はその根本を覆した。手で踏み込む、背中で踏み込む、逆立ちしながら戦う、寝ながら戦う、全てが許容される。それに体格も重要だ。大人と子供では体格に合った動きは違う。重量術を習うのが遅い理由が良く分かる。子供の頃に習得しても体が成長して大人になると子供の頃の型が崩れてしまう。教えるのが遅いのには合理的な理由があったのだ。


 極端な例えだが突然手足が増えたり、翼が生えたりしたら合理的な体の動かし方は変わってしまう。重量術はその増えた手であり、足であり、翼だ。天才でもない限りそれに適応するには長い時間がかかる。


 長い時間を生きる樹海のエルフですら重量術は極めていない。探せば流派がたくさんあるかもしれない。早く強くなるには人から習うのが一番の近道だ。しかし自分で四苦八苦して考えるのは無駄ではないとマサモリは知っている。自分で工夫できない人間は教えられたものしか習得できない。その先を望むなら普段から新しいものを生み出す訓練が必要だ。


 今は自分と言う枠組みを広げる時間で成果に飛びつくには早すぎる。重量術の初歩的な使い方ですら今までを上回る力を得られた。マサモリは早く強くなりたいのでゆっくりじっくり足場を固めると決めている。超大陸に戻れば重量術について学べる。だからこそ自分だけで考えて重量術を進歩させたいと思った。




 重量術を真に発展させていくと今ある武術を捨てなければならない可能性がある。今までの修練が無駄になる。実際には無駄にならないが長い年月をかけて育て上げた技を捨てるのは非常に難しい。特に短命な者にとっては尚更だろう。


 しかしエルフには時間がある。そして未知というものは時間に余裕がある者にとっては最高のおもちゃである。難しければ難しい程、時間が潰せる。趣味人が専用魔法を作るような感覚に似ている。


 例えば獣の様に四足歩行の重量術を生み出したとしよう。ハーフエルフ達が失った手足を強化魔法で作り出したように、手足を作り出せば今の体格とはまた別の四足歩行が可能だ。四足歩行になると二足歩行に比べて柔軟性は落ちるが前に進む時の速度と突破力が上がる。


 両手足を使った踏み込みをすれば強力な頭突きや噛み付きが可能になる。片手と両足で踏み込んで片手で攻撃するのも可能だ。威力と突進力は上がるかもしれないが武器の選択肢が減るし、移動の多様性が失われるのでマサモリは習得しようとは思わない。


 しかしそういった犬や狼の動きを真似た重量術があっても可笑しくはない。そこまで考えてマサモリはふと気が付いた。


 同じ体系なら四足歩行よりも二足歩行の方が強そうに見える。何故か? それは二足歩行の方が高さがあるからだ。何故高さがあると強いのか。大きいからだ。動物は威嚇する時に立ち上がって体を大きく見せる。毛を逆立たせるのは体を大きく見せる為だ。大きいは強い。


 それは自然界の法則だが立ち上がるという事は高い位置エネルギーを持つ事に他ならない。振り下ろすという単純な作業は攻撃に高さの差による位置エネルギーを乗せる事にあった。つまり重量術だ。そこまで考えてマサモリは二足歩行の方が強くないかと思った。



 重量術はその可能性が有りぎて手に余るのが実情だ。突然絵の具と筆を渡されて好きな絵を描けと言われても困ってしまう。自由度が高すぎると逆に上手く行かないパターンである。今のマサモリの考えもそれに当てはまっている。



 千里の道も一歩よりと考え、マサモリは細かい訓練をしながらもとりあえずは既存の武術と合わせて使う事にした。それが一番リスクが少なく、習得が早いからだ。適応に時間がかかる体系の武術を生み出すと適応するまでの時間は戦力の低下が発生する。そんな余裕は今のマサモリにはなかった。ボタンから聞いた重量術の基本的な訓練をしながらマサモリは次のステップについて思いを馳せた。


 マサモリは大の字に寝転がった。そして背中で踏み込んで真上に飛び上がった。それを何度も繰り返す。体に背中の踏み込みを覚えさせているのだ。出来るだけ小さい動作で最大限の踏み込みをする。最近までは背中で踏み込もうだなどとは夢にも思わなかった。しかしやってみると面白い。


 自分の体にはまだ無限の可能性があるように感じた。慣れてきたら背中で踏み込んだ力をお腹から放つ。お腹の上に重りを乗せ、最小限の動作で重りを吹き飛ばす。背中で踏み込み、手や足で放つのは慣れていた為、簡単に出来た。しかしほとんど距離のない、背中で踏み込んでお腹で放つという動作は単純だがそれ故に難しい。


 そうやって体に踏み込んだ力を流す道を馴染ませていく。次に同じことを腹ばいになってする。潰れた蛙がそのままの形で飛び跳ねているような気分になってくる。やっていく内になんだか以前にも同じような事をやった気がしてきた。なんだろうとマサモリが考えると思い付いた。


 柔道の受け身にそっくりだ。柔道の受け身は衝撃を体を上手く使って分散する方法だ。力の流れという意味では重量術と同じである。力の逃し方が地に逃すか、手などから逃すかの違いである。なるほどとマサモリは独り言ちた。


 重量術を習ってカウンターが上手くなった様に感じたのは力の流れに敏感になった証拠だったようだ。力は自分で発生させれば自由度が高く使える。しかし相手からの力を自分の力として利用出来れば効率的だ。マサモリが今までやって来た武術の経験は無駄ではなかった。


 自分の体を力の流れ、衝撃を流す道とする。それには硬さよりも柔らかさが重要になってくる。生物は硬いほど、強い。しかし柔軟さも武器として使えるのだ。物事の観点が変わると捉え方も変わる。マサモリは一つの新しい観点を得たような気がした。自分の中に新しい力の使い方、成長を感じられた。


 今まで形成された価値観が壊されて新しいものへと統合されていく。マサモリは若いのもあってか、素直にその変化を受け入れた。新しいものを受け入れる頭の柔らかさと好奇心に満ち溢れていたのだ。マサモリはそれを理解するとただの訓練でも今までとは別なものに感じられ、余計に面白くなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ