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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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 ラギドレットは城壁都市ラギドレットを中心とした君主制国家だ。しかしラギドレット国やラギドレット王国とは呼ばれていない。それは王の権力が余りにも弱い為だ。ラギドレットの実情は貴族達の合議制に近い。もっと言うなら盗賊達の合議制と表現した方が正しい。


 魔人軍が放置されていたのは誰も他人を助ける気が無かったからである。むしろ魔人軍に暴れさせて弱くなった都市や町を自分達が征服しようと考えていた。王に力は無く、貴族と呼ばれている盗賊が群雄割拠していた。戦乱自体が珍しいものではなかったのも魔人軍が放置されていた一因となっている。


 しかしシュドラが上手く西部を纏め過ぎたせいでラギドレットは魔人軍を敵と見做した。丁度ベヒモスが発生したのでそれをシュドラの支配領域に誘導しようとした。その企みは失敗し、手痛すぎるしっぺ返しを受けた。しかしすぐにシュドラと四天王が全滅した事で魔人軍の支配領域は突如として現れた美味しすぎる景品になった。


 しかしラギドレットも食糧難だったので秋の進軍は踏み止まった。食料を略奪すれば良かったのだが略奪した物資がほとんど現場で隠蔽されて上層部まで回ってこない。貴族達は確実に食料を独占するだろう。軍を派遣したら冬の食料が無くなる危険性があるのだ。


 それ以上に略奪の結果次第では食料や物資が減って弱くなる貴族が出てくる。そうした貴族が略奪を成功させた貴族に攻められる可能性もあった。遠征に行く振りをして途中で引き返し、味方の貴族の都市を落とす貴族だっていただろう。多くの盗賊貴族がそれを理解していたので秋遠征は行われなかった。



 ラギドレット王は前回の戦いで余りにも力を失い過ぎた。城壁都市ラギドレットのお陰で他の貴族達も王には手を出そうとしなかった。城壁都市の弱体化は貴族の伸張を許した。魔人軍領の切り取り量次第では貴族と王の力関係が簡単に引っくり返る。多くの貴族達が春に備えて冬の間に物資を集積させた。


 しかしそれらはあっけなく奪われた。町や都市内部で爆破されなかっただけ幸運だった。食糧庫に魔石砲弾を一発放たれるだけで町や都市は地獄に変わっていた。自分だったら相手の都市を完膚なきまでに叩き潰していたので盗まれつつも盗賊貴族達は違和感が拭えずにいた。自分達と同じ貴族の犯行ではないと。


 そこに城壁都市ラギドレットの爆発が加わり、彼らは犯人を特定できた。魔人軍だ。しかし魔人軍は魔人王と四天王が攫われていたはずだ。最近、四天王のサーモが復活したという噂がある。それくらいしか犯人は推定できない。


 サーモは巷では結界破りと呼ばれている。結界を破壊するのが得意だからだ。もしサーモが犯人だとすると不味い事になった。時期的に魔人軍領への工作とラギドレットの破壊は余りにもタイミングが合い過ぎている。


 既に盗賊貴族達は魔人軍領に向けて冒険者を解き放っている。もし爆破が報復攻撃だとすると自分の都市が狙われないという保証はなかった。盗賊貴族達は冒険者を引き上げさせようか迷ったが弱気な対応をしたら他の盗賊貴族達に舐められる。盗賊貴族達は万が一の時の為に資産を集め始めた。




 町や都市を守る結界は魔物を阻む。戦闘時には外敵を防ぐように設定される。魔物人は平常時でも結界に拒まれて都市に侵入する事が出来ない。しかしツリーマンに化けたマサモリや忍者エルフは平時なら問題なく結界を通過できる。


 マサモリが失った魔力を回復している振りをしている間、忍者エルフはラギドレットの都市や町に潜入していた。そこで情報を収集し、魔石、エルフ、ハーフエルフの場所を探していた。町の結界は大雑把な入退出管理しか出来ないようで、個人を数人設定出来れば良い方だ。


 結界の設定を増やし過ぎると必要になる魔力は跳ね上がり、結界強度の低下に繋がる。唯一結界に引っかかるとしたら城壁都市ラギドレットで暴れ回ったマサモリだろう。樹魔法を都市の中で使ったので残骸が回収されていれば残った魔力から侵入禁止にされているかもしれない。逆に忍者エルフ達は目立った動きをしていないので容易に各都市へ侵入できた。


 エルフやハーフエルフを見つけ出し救出する為の作戦だったが、途中からは都市の防衛力を削ぐ為に魔石や魔石砲弾の位置と数を調べるようになった。ボタンの熱烈な後押しによってドワーフの位置や情報を集める様になり、有能なドワーフには遅効性の毒が盛られた。


 マサモリが魔力を回復している振りをしていた間にラギドレット全域の情報は既に収集されていた。後はマサモリの指示待ちだったのだが、マサモリとしてはエルフとハーフエルフだけを回収できれば良いと思っていた。しかし魔人王になると決めたので、その全ての情報を利用する事にした。


 忍者エルフやモブ美の召喚したモブエルフは都市や町へ潜入して魔石や魔石砲弾を回収した。ハーフエルフの救助も忘れない。突然多くの都市でハーフエルフが死んだら目立つのでハーフエルフの身代わり人形も置いて来た。詳しく調べられない限りは騙しきれるだろう。時間差をつけて身代わり人形は死ぬように設定されている。


 大量に集められた魔石砲弾はひっそりと城壁都市ラギドレットの周囲の地中に等間隔に設置された。城壁を破壊するが中の人までは被害が出ないように細心の注意を払って魔石砲弾の数を調整する。


 それらの作業はボタン監修のうえで行われた。結果、城壁の破壊は成功した。さすが忍者エルフと言った所だろう。一番外側の城壁だけ綺麗に崩れていくのを見るのは爽快としか言いようがなかった。そして城壁の爆破によって予想だにしない事態が発生した。


 城壁都市ラギドレットの周りの地面はベヒモスの時に泥沼にされ、氷漬けにされた。今は通常の平地に戻されていたが魔石砲弾の爆発で再びかき回され、大地は液状化した。そして城壁都市ラギドレットは再び沈没した。短期間に地面がかき回されたせいで城壁都市ラギドレットの周りの地面が脆くなっていたのだ。


 残った魔石砲弾は地中深くに分けられて埋められている。誰かが見つけ出して利用するのを防ぐ為だ。魔石や魔石砲弾の回収と同時にハーフエルフ達の回収も行った。その為、カメリアの倉庫には大量の石化されたハーフエルフ達が積まれている。全てのハーフエルフを同時に回収したのがバレると問題なので病床の空きに合わせて小出しにしていく。



 都市や町から脱出する時に食糧庫や武器庫、弾薬庫を吹き飛ばせば良かったのだが、それをすると人が死に過ぎるので実行しなかった。その代わり、町に設置されている結界石を質の悪い物に取り換えてマサモリ達エルフが簡単に侵入できるように設定をしておいた。


 周囲の音を拾って送る機能も追加し、盗聴用の石も重要な拠点に設置してきた。石やレンガに盗聴用の石を埋め込めば超大陸の技術ではほとんど見つけられないだろう。これでやっとまともに情報を得られるようになった。


 有益な情報は盗賊貴族達のみが握っているので町で情報を収集しても有力な情報が得られなかった。彼らは狡賢く有能なので重要な情報は一部の者しか知らせなかった。下々の者は上から与えられる命令を遂行するのみといった具合だった。


 今後はラギドレットに脅迫文でも送って出方を窺う予定だ。意見が分かれて内部で分裂してくれれば助かる。


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