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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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「移動するぞ」


 マサモリが言うとハーフエルフ達がよろよろと立ち上がった。そして走り出した。二日目ともなると少し慣れてきて創意工夫がされるようになった。ハーフエルフ達は時折雪を掴んで口に放り込んだ。熱くなった体を冷やし、水分を補給する為だろう。


 移動の仕方もスマートになった。前を進んだ人の足跡を通るようになった。人の踏みしめた道は通りやすく、体力の消耗を抑えられる。襲撃を警戒する意味で二列に分かれて少し離れて走っているが昨日よりも足跡が綺麗に残っている。足運びが乱れる程、雪に足を取らて体力を消耗する。


 出来るだけ前の人の足跡に合わせながら進む利便性をハーフエルフ達は理解した。本来ならもっと周囲を警戒すべきなのだが第一段階としては成功していると言って過言ではない。最終的には足跡を残さないように移動出来るようになってほしいとマサモリは思っている。だが移動だけで精一杯のハーフエルフを見ると時間がかかりそうだなと思った。




 人は環境に適応する生き物である。最初は幽鬼の群れのようだったハーフエルフ達にも成長が見られた。今では死にそうな程度で収まっている。小規模な襲撃は見逃して大規模な襲撃だけを対処していくと、少しずつ地域が安定し始めた。


 しかし今この時も北からは盗賊、襲撃者となる難民達が押し寄せている。忍者エルフの情報のお陰である程度は対処出来ている。目的は農村を守る事ではなく、魔人軍にマサモリ達の力を示す事なので一回助けた町は相当の事が無い限り助けていない。


 ある程度の農村を周り終わると次の地域へと移動した。戦っている時間よりも移動している時間の方が圧倒的に長い。軍隊は走るものだからだ。



 手足を強化魔法で作り出しているハーフエルフは体力よりも魔力の方が先に尽きる。普通の人間なら上手く調整すれば体力と魔力を平均的に減らせる。どちらも消費を抑えれば自然回復した分だけ余分に行動できる。


 しかしハーフエルフは魔力の回復分しかないので回復量が普通の人に比べるとどうしても劣ってしまう。ハーフエルフ達は何をするにも魔力が必要になってくる。だからこそ絞る。絞りに絞って強化魔法を最適化させるのだ。


 ハーフエルフは全てを魔力で補わなければならないのでどうしても持久力に欠ける。健康な人間なら魔力をほとんど使い切っても走って逃げられるがハーフエルフ達は違う。だからこそ魔力の配分には最新の注意が必要なのだ。まあ、魔力が切れた時点で敵に魔力が残っていたら走れても簡単に殺されるので極論を言うと同じではある。魔力切れは死。それはどこでも一緒なのだ。




 数日間ハーフエルフの地獄は続いた。後半はマサモリだけが別行動で農村を回って襲撃者を排除した。ハーフエルフ達は人を殺した罪悪感や恐怖等を感じられない程度に消耗させられていた。ただ言われるがままの操り人形の様に走って走って走って戦った。


 真夜中の森を走り、照り返しの激しい真昼の雪原を走った。ハーフエルフの大半がまもとに外の景色を見たのは初めてだった。だが景色をまともに見られたのは最初だけだ。後はもう言われた通りに走るだけだった。ただ、囚われていた時と違うのは自分達が生きている事だった。疲れ切った体に鞭を打って走ると体中の魔力が失われて干からびそうになる。


 死ぬほど辛いが死にたくないという気持ちだけが強く自分の体を支えた。ハーフエルフ達は生きていた。突然泣き出すハーフエルフが居た。走るのが辛かったのか、もう嫌になったのか、逃げだしたくなったのか、死にたくなったのかは余人のみが知っている。


 もしかしたら本人すらなんで泣いたのか分からなかったかもしれない。ただ、長い戦いが終わった後にハーフエルフは自分の心の底にあった何かが消えているのを感じた。体中からあらゆるものを吐き出したハーフエルフは自分でも良く分からない解放感に満ち溢れていた。


 きっと休憩時間の喜びだろう。




 めぼしい農村を回り切ったマサモリはハーフエルフに二日の休日を与えた。良い感じに絞れてきたが絞りすぎても駄目だ。無意味に追い詰めたい訳ではないのだから物事には緩急が必要なのだ。蹂躙され尽くした農村を見つけてそこに結界を張った。食料は各農村から少しずつ徴発した。


 ハーフエルフ達は最初の一日を完全に寝て過ごした。二日目になると動けるようになった者も出てきた。廃村から離れすぎないように注意して自由に行動させた。ハーフエルフには印石を持たせているのでエルフ達から位置が把握できる。


 ハーフエルフ達は初めてのまともな外出を楽しんだ。嫌になって脱走する者が出るかと思ったが脱走者は一人も出なかった。中々根性の有る奴らだなとマサモリは感心した。




 今も北からは襲撃者達が南下してきている。襲撃を減らしたいなら道を南下してくる襲撃者を殺すのが効率的だ。襲撃者が分散する前に叩けば良い。だがそんな事はしない。ハーフエルフの訓練にもなるし、魔人軍には強者の存在がどれ程有難いものかを理解させる為だ。


 全ては力に収束する。カメリアで縮こもっていた方が安全ではあった。しかし雪の上を走っている方が有意義だ。マサモリの考え方はどちらかというと保守的なのでこういう案は浮かんでも取らなかっただろう。やはり現地人の方が現地には詳しいのだろうかと考えてしまう。そしてすぐに何も深く考えていないだろうと思い直した。



 最初とは違い、休憩を多く取りながら各農村を回った。次第にマサモリは手を出さなくなった。出来るだけハーフエルフとツリーマンに襲撃者の討伐を任せる。そして戦いが終わったら移動をして使い魔が居ないのを確認してから反省会をした。


 そこで一番重要なのは強者と戦わないようにする事だった。ハーフエルフ達は囚われていた時にずっと魔力を使わされていたので魔力だけは多い。しかし自由に動くには強化魔法が必須なので魔力の配分が難しい。訓練を施したがまだ超大陸の強者と戦うには経験も実力も圧倒的に足りなかった。


 強者に掛かればハーフエルフが三人で対抗しても一瞬で殺される。だから相手と自分の強さを一瞬で測り、強者と戦わないようにしなければならない。逆に強者にぶつかったらひたすら耐えるしかない。味方が優勢なら援軍が期待できる。駄目なら必死で逃げる。


 とにかく死なない事、リスクを減らす事が最重要だ。超大陸の戦士達はそれを無意識に分かっている。だから強い相手が居ると無暗に戦ったりしない。さっさと逃げるし、逆らわない。超大陸の人間自体が凄く魔物的な思考だとマサモリは思った。


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