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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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 モブツリーマンの三分の一がカメリアの外の雪原に集合して木の大砲になった。そこに巨大な氷のつららを装填する。つららには無数の取手が付いていている。そこに捕まって巨大なつららを発射する。原始的だが効率の良い移動方法だ。


 町の位置や状況が分かっていないと危なすぎて手軽に使えない手だが、忍者エルフが情報を集めたので正確で信用できる。



 ハーフエルフ達にとっては今回が本当の初陣になる。あんまり時間を開けて士気が下がるよりも思い立ったが吉日の考えで行こうとマサモリは思った。魔人王になるなら救援は早ければ早い方が良い。多くのハーフエルフが武器と防具を身に着けて数食分の保存食を携帯している。その顔には緊張と恐怖、興奮と期待がごちゃ混ぜになっている。


「今回の相手は基本的には襲い掛かって来た北の盗賊になる。もし継続派が攻撃して来たらそいつらも皆殺しにする。いや、俺が強そうなのを皆殺しにする。まずは北から来た盗賊を倒す。初陣としては、おあつらい向けの相手だ。常に三人一組を維持して落ち着いて戦えば絶対に勝てる。では行くぞ」


 マサモリはつららに結界を張った。そして全員の様子を見直した後に号令をかけた。


「発射!」


 巨大なつららが空へと放たれた。強い衝撃と共に結界と空気がぶつかり合い悲鳴の様な音を立てた。結界の表面に氷の膜が出来るがすぐに砕け散った。多くのハーフエルフは振り落とされないように必死に捕まっているが少数のハーフエルフは外を眺める余裕があった。


「すげえなあ。空を飛ぶなんて俺ぁ初めてだぜ。楽しいもんだな」

「今回は冬だから結界が必要だったが、冬以外は結界が要らないから風を体で感じられて最高に気持ちいいぞ。でも今回みたいなへっぴり腰だったら何人かは振り落とされるな」


 話しを聞いていた他のハーフエルは焦って飛ばされないように取手にしがみ付いた。これからすぐに戦場に着くのに大丈夫かなとマサモリは少し不安にかられた。




 つららが放物線を描くように飛んだ。最も高いポイントまで達すると後は落ちていくのみだ。体を押さえつけていた重力が反転した。体が軽くなってふわっと浮く様な初めての体験にハーフエルフは目を白黒させている。


「もうすぐ目的地に到着する。合図をしたらつららから飛び降りるように。着地予定地点は何もない広い雪原だ。視界が悪いので着地には気を付けろ」


 聞こえているのか怪しいハーフエルフが何人かいる。マサモリはモブツリーマン達に目配せした。モブツリーマンはすぐに頷いた。そうやっている間につららは大地へと近づいていった。


「飛び降りろ!」


 クザーム達はすんなりと言われた通りに飛び降りた。しかし飛び降り損ねたハーフエルフが何人もいた。マサモリとモブツリーマンは恐怖に固まっているハーフエルフを引き剥がすと雪原に丁寧に放り投げた。


 ハーフエルフが全員降ろされるとマサモリ達はつららを破壊して飛び降りた。着地に失敗した者が何人も無様に雪原に転がって雪上にアートを描いた。マサモリは内心不安でいっぱいになったが顔には出さずに号令をかけた。


「立ち上がれ! 怪我で動けない者はいるか? 居たら挙手しろ」


 怪我をしたハーフエルフにモブツリーマンが回復魔法をかけた。


「よし、では西へ進むぞ。農村を襲っている襲撃者を背後から攻撃する」


 マサモリを先頭に一行は雪原を駆けた。マサモリの式神が農村での戦闘風景を捕らえている。質では魔人軍が圧倒しているが襲撃者は皆命が掛かっており粘り強く戦い続けている。魔人軍の方が内心気圧され気味である。彼らにとって逃げられない戦い自体に慣れていないのだろう。


 追い詰められた時にその人の本性が現われるというが多くの魔人軍が逃げ出したくてたまらない様子だった。逆に考えると、この農村の支配者の力量不足でもある。士気が崩壊しかかっているのに何も手を撃たないのはトップの怠慢である。だからこそ、今来たのだ。


 冬の戦いを切り抜けた後に春にマサモリ達が魔人軍と合流しても戦闘は不可避だ。強い奴を片っ端から殺せば良いのだがしこりが残る。強さとは堂々と見せつけるべきなのだ。覇者は覇者たる行動を取らなければならない。そうしないとつまらない。人を魅了できない。


 そして今なら魔人軍を殺さずにイニシアティブを取れる。誰が一番強くて有能なのかを知らしめるのだ。超大陸の人にはとにかく行動、力を見せるが一番分かりやすい。マサモリも超大陸のルールが理解出来てきた。超大陸はノリとパワーと暴力で全てが決まる。心の内に秘めたる獣を解き放った者勝ちだ。超大陸では暴力は美しい、神聖なものなのだ。



「魔人王サーモ見参! 突撃!」


 襲撃者の背後に到着したマサモリは大音声を張り上げた。背後から奇襲した方が良いのだが、魔人軍がこちらを攻撃してくる可能性も否定できない。最初の顔見世が肝心なのだ。ツリーマンと耳切りをしたハーフエルフが突撃していった。


 マサモリが腕から無数の枝を生やして撃ち出した。襲撃者がすぐさま魔法で迎撃する。しかし襲撃者の魔法を打ち破ってマサモリの枝は襲撃者へと襲い掛かった。体に枝が刺さると急激に成長して襲撃者の生命を吸い取った。


 なんとか避けられたと思われた者もいたが枝が通り過ぎる瞬間に根を伸ばして絡めとった。マサモリの攻撃とツリーマンの突撃で戦況は一変した。卓越した力の前には覚悟も何もあったものじゃない。襲撃者達は勝ち目が無い事を悟ると撤退した。


「この程度の相手にだらしないぞ! 皆殺しにしろ!」


 マサモリが号令をかけると農村に駐屯していた部隊もそれに従い、逃げる襲撃者を追撃した。マサモリはゆったりと堂々と自信満々に残った魔人軍の前に歩み出た。


「シュドラ達は竜人王に攫われた。俺が魔人王だ」


 農村に居た魔人軍の中で指揮官と思わしき男に向かって正面から威圧しながら睨みつけた。農村を守っていた魔人軍がマサモリの圧に屈したのをはっきりと体感した。


「……はい」

「お前達はこのままここを守備しろ。俺達は襲撃者を片っ端から殺す」


「分かりました」

「この程度の雑魚相手に体たらくは許されないぞ! 次も手古摺るようならお前の命はないと思え」

「はっ!」


 そういうとマサモリは追撃に向かった部隊を追った。マサモリが追いつくと戦いは既に終わっていた。


「農村の守備部隊は戻ってこのまま農村を守れ。うちの部隊は次の戦場へ向かうぞ!」

「はっ!」


 マサモリはそう言うと猛然と雪原を駆けた。ツリーマンとハーフエルフが急いで後を追う。ハーフエルフは雪原の上を走る訓練はしていたが初陣の後なので動きが覚束ない。そこでツリーマンがハーフエルフを助けながらマサモリを追った。


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