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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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 シュドラが行方不明になって数か月が経った。案の定、魔人軍は各々が好き勝手をして暴走状態になった。ただ、暴走は内側へ向かわずに外側に向かった。シュドラが食料生産を重視していたお陰で数は減りながらも食料の補給は維持できている。


 魔人軍はそのシステムをそのまま引き継いで利益を得ようとする継続派、勢力を伸ばそうとする拡大派の二つに分かれて各々が好き勝手に動いている。その二つが分裂せずにいるのは拡大派だけでは食料が調達出来ないからだ。食料の運搬なんて地味な仕事を拡大派は嫌がった。


 継続派は食料の運搬を主としているので体制が続く限りは旨い汁が吸える。シュドラが残した食料生産力だけがこの二つをぎりぎりの所で結び付けている。それに各派のトップも四天王に比べると小粒で魔人軍全てを纏めるには弱すぎた。そして時期も丁度良かった。


 秋が終わって冬が訪れた。大半の盗賊達は自分の所有する農村に戻る。冬のこの時期だけは超大陸に一時の平穏がもたらされる、はずだった。しかし各地で魔人軍が暴れ回ったお陰で農村は激減してどこも食料不足になっている。冬に育てられる植物は限られるし、収穫量は他の季節に比べて大幅に減少する。


 シュドラの魔人軍のみが自らの支配領域だけで冬で生産力が落ちても食料を賄えた。魔人軍は小さなグループに分かれて支配領域の各村に散らばっていった。春が来ればまた戦いの季節が巡ってくる。


 魔物人達は略奪の季節に胸躍らせて冬を凌いだ、となるはずだった。だが今年の冬は例年とは違った。まず、拡大派が落とした町は放棄されていた。シュドラは攻城戦を意識して兵士達を鍛えていた。それをそのまま真似するだけで小さい町は簡単に落ちた。


 しかし町を落として中身を開けてみたらほとんど何もなかったのだ。残っていた町や村はシュドラから見て旨味の少ないものだった。防衛しにくい位置にあったり、落としても旨味が少なかったり、維持が大変だったりと様々な理由があった。それに拍車をかけて食料不足でどこも金がなかったのだ。


 逆に継続派はこっそりと食料を横流ししていて潤っていた。継続派が拡大派を放置していたのはそこに理由があった。継続派は既に利益を貪っていたからだ。ここで初めて拡大派も農地を維持する旨味に気が付いた。


 その時には既に良い農地がある場所は継続派に抑えられていた。しかし全体的に農地を増やしていたので残っていた農村でも食うには困らなかった。拡大派は春になったら継続派を殺して自分達が大量の食料を独り占めしようと企んだ。


 しかしそんな事を考えている状況では無くなった。拡大派が駐屯している農村に一報が届けられた。継続派が駐屯している農村が襲われたのだ。




 超大陸は巨大な山脈で区切られている。山脈を超えての物資の移動は困難極まりない。距離がありすぎて穴を掘って隣の地域に道を通そうという試みもされていない。ドワーフだけが山脈間の抜け道を熟知しているという。


 マサモリ達は超大陸の西部、北西部を有する地域に居る。その中でもカメリアは一番南、超大陸全体で見ると南西部に位置する。カメリアのすぐ東には超大陸を分断するような巨大な山脈が中央部付近から南西方向に伸びている。


 カメリアは超大陸西部の中でも一番山脈に近い僻地に存在している。カメリアから見て西は樹海、南は樹海と山脈、東は山脈である。まともな土地があるのは北のみだ。マサモリは兎に角、人が来ない場所を選んだのでこういった立地になった。今ではそれが正解だったと確信できる。




 継続派からの救援依頼を受けた拡大派は最初無視を決め込もうとした。しかし拡大派が駐屯しているのは収穫量が多い農村と気が付くと一転した。春になったら自分の物になる農村だと思うと急に勿体なくなったのだ。襲撃を受けて弱った継続派を殺せば春まで待たずに楽に農村が手に入る。


 そんな考えを拡大派は抱いてしまった。普段ならそう思い付いても実行には移さない。何故ならそんな余力はないからだ。しかし今の拡大派には食料に余力があった。それら全てはシュドラが整備した農地から生み出された物だ。拡大派は物見遊山で現場へと向かった。しかしすぐに後悔する事になった。



 超大陸西部地域には二つの魔人軍が存在していた。北側を支配する魔人軍に南側を支配する魔人軍だ。北の魔人軍はベヒモスと化した魔人軍で南の魔人軍はシュドラの魔人軍である。東には城壁都市ラギドレットを首都とするラギドレットがあり、魔人軍の侵攻を静観している。


 北の魔人軍の略奪により、西部地域北部の農村が激減した。それによって北部は大規模な飢饉に襲われている。冬になり食料生産が難しくなったのに伴い、北部の人間は食料の為に命懸けの南下を始めた。一部は東へ向かったが大半は食料生産力の上がったシュドラの支配領域を目指した。



 今までだったら勝てそうもない戦いは逃げるのが鉄則であったが、農村を捨てて逃げたら行き場が無くなってしまう。既に小規模な農村は放棄されて継続派は大きな農村に立て籠もっていた。

もし拡大派の農村に逃げ込もうものなら殺されるのは確実だ。継続派だって隙を見て拡大派を殺そうと思っていたのだ。拡大派と戦うよりは襲撃者と戦った方がましである。


 継続派は収穫量の多い農村に駐屯していたので逃げるに逃げられなくなってしまった。ただ、魔人軍にとって幸いだったのは襲ってきた人々の多くが弱いという点だ。強者は魔人軍に入って暴れ回り、ベヒモスの眷属となった。


 北部には普段なら略奪される側の人間しか残っていなかった。それが牙をむくのだから相当追い詰められているのだろう。牙を剥いた理由の一端には北の魔人軍も雑に人を魔物化させていたのもある。簡単に力を付けた者は重しが無くなるとすぐに我欲に走った。


 戦場は死体で溢れかえっていた。シュドラは配下にしっかりと訓練をしていたので魔人軍は拙いながらも慣れない防衛戦に対応できた。襲撃側が下手に強くないのも戦いを長引かせた。圧倒的に強いのなら魔人軍も逃げていたのだが、襲撃者達は寄せ集めで弱かった。


 ダラダラと戦いは長引いた。冬場で天候が悪く、雪も多く降った。その為、偵察用の使い魔が上手く利用できなかった。そして敵の規模も場所も練度も分からない手探りの戦いが続いた。北からは襲撃者になれずに力尽きた多くの死体が南に向かって続いている。



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