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絶対鎖国国家エルフの森  作者: 及川 正樹
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 マサモリの試す様な問いかけにハーフエルフ達から大きなざわめきが走った。しかしリハビリが終わっているのはクザームと数人だけで残りはリハビリ中、そして大半はまだ病床に伏せっている。


「サーモ様! 俺には難しい話しは分からねえ! はっきり言ってくれ。俺達は足手まといなんだよな?」


「そうだ。時間をかけて戦力化しようと考えていたが状況は切迫している」


「じゃあ、俺を魔物化させてくれ! 俺は飼い殺される芋虫に戻りたくないし、こいつ等もそうさせたくないんだ。この町から出たら俺達ハーフエルフは芋虫に逆戻りだ。逃げたってすぐに捕まってお終いだ。なら町を守って死ぬまで戦う! お願いだ、力をくれ!」

 

「俺も力を! 誰にも踏みつけられない力を!」

「私も! アイツらに復讐する為の力を!」

「俺もだ! 町を守る力を!」


 ハーフエルフ達から雄叫びがあがった。マサモリはハーフエルフ達に自分達の行く末を決めさせるつもりでいた。もし逃げると言われてもすぐに開放するつもりだった。しかし彼らの雄叫びはラスターの魔力の籠った咆哮よりもマサモリの胸を衝いた。


「分かった……。本日よりハーフエルフ達は、この町を守る友として町の住民となった。この町の名はカメリア。ハーフエルフとツリーマンが共に生きる町だ!」


「カメリア万歳!」

「俺はカメリアを守るぞー!」

「俺達の町だああ!」

「私達が住民でいいの? 本当に? 私達が普通に生きられるなんて!」


「サーモ様! 俺はあんたに忠誠を誓う! どうか、他のハーフエルフ達にも安寧を!」


 クザームがマサモリの前に傅いた。


「うおおおお! カメリア万歳! サーモ王万歳!」

「王の誕生だ! 俺達の国だあああ!」

「イェェェイ!」


 何故か一番興奮しているモブ美を横目にマサモリは心の中で頭を抱えた。モブツリーマン達も

一緒になって喜んでいる。人の数というものは恐ろしい。モブツリーマン達が一斉に賛同した事で場の空気が一気に盛り上がった。そして話しが一瞬で大きくなってしまった。


 マサモリとしては、ただ協力して町を守りましょうと言いたかっただけだった。連帯感を高める為の演出だったはずなのに、こんな大事になってしまった。その場の勢いというのは恐ろしいものだとマサモリは思った。


 そんな最中、モブ美はほくそ笑んだ。私がマサモリ様の伝説をプロデュースする、そう彼女は固く誓った。しかし彼女は気が付いていない。モブ美をしっかりと監視するボタンの眼差しに。



「サーモ様、魔物化の準備が整いました」


 モブツリーマンが頭を切り落とした小さい鰯の塩焼きを厳かに運んできた。鰯は小さいながらも濃い負の魔素を帯びていて瘴気が漏れ出ている。超大陸の人が食べられるように柔らかくされている樹海の鰯を見てマサモリは冷や汗をかいた。


 時間をかけて処理しないと鉄の様な樹海の鰯は柔らかくならない。それが既に用意されていた事にマサモリは驚いた。



「魔物化には危険を伴う。特に四肢を欠損したお前の体が耐えられるかは不明だ。適応できなければ死ぬぞ」

「覚悟の上です!」



 マサモリは出されるままにその鰯をクザームの前に差し出した。クザームが恭しく塩焼きの鰯を受け取ると迷わずに口に入れた。そして数度噛んだ後にすぐ飲み込んだ。マサモリは驚いた。魔素をふんだんに含んだ鰯は時間をかけて咀嚼しないと魔素が分散されないので非常に危険だ。


 飲み込まれた鰯と負の魔素がクザームの体内を駆け巡る。クザームの体が内に大蛇が潜りこんでいるかの様に脈動した。マサモリはすぐさま顔を真っ青にしているクザームの肩を掴んで荒れ狂う負の魔素の流れを調整した。


 近くにマサモリが居なければ確実に魔物化していた。それも魔人軍で魔物化の様子を見ていたから調整できたもので知らない人なら止められなかっただろう。マサモリは涼しい顔をしながらも動揺を悟られないように振舞った。クザームの体の脈動が少しずつ収まっていくとクザームの顔色が良くなった。


「ぐあああ!」


 クザームの体内の負の魔素と魔力が溶けあうとクザームの体に魔物化症状が現れた。皮膚が硬化し、頭に一本の角が生えた。魔物化の中でも、もっともポピュラーなゴブリン化だ。鬼人化と言っても良い。超大陸の種族の中にはゴブリンよりも鬼に近い鬼人という種族が居るのでそれに近い状態になった。


「新たなる戦士の誕生だ!」


 マサモリがそう宣言すると町に歓声が満ち溢れた。


「うおおおお! 力だ! 俺は絶対にみんなを護ってみせる!」


 クザームが魔力で出来た腕を高く掲げると全てのハーフエルフがそれに倣った。多くのハーフエルフはクザームの様に魔力で腕を形成出来なかったがそれでも無い筈の腕を掲げた。ハーフエルフ達の目には大粒の涙が止めどなく流れている。


「次は俺だ!」

「いや、俺だ!」

「私よ!」


 動けるハーフエルフがマサモリの元に集まり、クザームの様に傅いた。


「クザームの覚悟は素晴らしいが魔物化は非常に危険だ。出された食べ物はゆっくりと咀嚼し体に馴染ませてから飲み込むように。お前達はもうカメリアの住民だ。命を粗末にする事は許さん」

「はい!」


 クザームに続いてリハビリの終わったハーフエルフ全員が魔物化していった。普通なら死者が出ても可笑しくなかった。しかしマサモリが負の魔素を抑え込んで各々の体に馴染ませたので幸い死者は出なかった。


 中には魔物化で四肢が復活した者が居て他のハーフエルフから祝福されていた。リハビリ途中だったハーフエルフの瞳にも魔物化したハーフエルフと同じように眩い覚悟の光が灯った。マサモリは王様もどきに祭り上げられてしまったがハーフエルフ達の喜びようを見ると王を演じるのも悪くはないかもしれないと思ってしまった。


「今後はカメリアの結界が破られる可能性がある。耳が尖っているとハーフエルフだとすぐにバレてしまうので、一週間後に耳切りを行う。各自体調を整えておくように。それでは、新しい戦士と住民、カメリアの誕生を祝って宴会だー!」

「おおー!」



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